第156話 ダンジョン攻略、学校生活
俺たちは、週に2回ほどの頻度でダンジョンに潜っていた。学校から出される課題については、既にすべてクリアしている。そして今は、上の学年よりも先行しながらダンジョンの攻略に勤しんでいる。俺たちのパーティー用に追加で用意された課題をクリアするため、繰り返しダンジョンに潜っている状況だった。
他のパーティーがダンジョンに潜るのは、基本的に週に1度だけ。ウチとは違ってそのぐらいのペースじゃないと体力がもたないらしい。ダンジョンに潜るというのは、かなりの体力を消耗してしまう。週に1回というペースだと厳しいというのが、他のパーティーの一般的な認識だった。
俺やネコはもちろん、大内さんや田中くんは特訓で重点的に体力を鍛えていたので、週に2回というハイペースでも問題なくダンジョンを繰り返し潜れるようになっていた。もちろん、そのために毎回の準備を怠らず、怪我せずに地上へ帰還しているのも大きい。これだけのハイペースで、失敗せずにダンジョンに繰り返し潜るのは、プロの迷宮探索士でもなかなか難しいと聞く。
もちろん、俺たちはプロの迷宮探索士とは違って、ダンジョンの浅い階層しか立ち入ることが出来ないので、危険が少ない場所で慣らしているだけとも言えるのだが。
まだ学生の俺たちは、ダンジョン上層のみしか立ち入ることを許可されていない。それは、優秀だと言われている俺たちでも例外ではなかった。中層以降へ進むためには必ず、迷宮探索士の資格を持っていないといけない。
無断で中層へ入り込んだことがバレてしまうと、一発で退学処分となる可能性まである。だから、注意しなければならない。場合によっては罪に問われることもあるので、本当に気をつけないといけない。
上層だけでは物足りなさを感じるけれど、実践で得られる経験は非常に多かった。だから俺たちは、繰り返しダンジョン攻略を頑張っていた。収入も手に入るので。
週に2回のペースでも、まだまだ余裕でダンジョン攻略を行うことが出来るから、もっと潜る回数を多くしたいと思うこともある。けれど、学校ではダンジョン攻略の他にも一般教養の授業を受けないとダメだから、週に2回だけに留めている。
一部の生徒から協調性がないとか、自分たちだけ先に進み過ぎているとか、周りを考えて頻度を抑えるべきだとか言われているらしいが聞く耳は持たない。自分たちを鍛えて、さらに成長するため。迷宮探索士となるためには、実戦をより多く経験しておくことが大切だと俺は考えているから。
学生で、自由な時間もたっぷりとある今のうちに何度もダンジョンの経験を積み、有効そうな攻略方法を見つけるための実験を繰り返すことが、いまの俺たちに必要な活動だろうと考えていた。
「到着」
いつものような無表情で、パーティーの先頭となりダンジョン内を突き進んだネコは、地上に戻ってくると空を仰ぎ見ながら小さな声でつぶやいた。
「ふぅ、ようやくか。今日も無事に帰ってこれて、良かったぁ」
ネコの後ろで、2番目に進んだ田中くんが地上に戻ってきた瞬間、いつものように安堵の表情を浮かべていた。繰り返しパーティーでダンジョンに潜っているけれど、ダンジョン内部で過ごすのにはまだ慣れないらしい。
ダンジョン攻略に慣れてきたけれど、いつまでも注意力を失くさないというのは、田中くんにとっては良い傾向だと思う。いつも周囲を警戒していて、疲れそうだけど。
「早く、先生に報告をしに行こうよ!」
ダンジョンの攻略が終わってからも元気いっぱいで、体力が有り余っていなそうな大内さん。さっそく、先生に報告しに行こうとパーティーのみんなを促す。
「そうだね。じゃあ、レンタルした装備は回収するよ。武器と防具の整備については、報告した後で」
「オッケー、いつものね。明日、皆で集まってやろう」
俺はパーティーのリーダーとして、先生へ報告しに行く前にダンジョン攻略に使用していた装備やアイテムを回収する。使っていた装備品の整備については後日、皆で集まってやろうと約束を交わす。
「はい」
「ほら」
「いつも、ありがとう」
ネコ、田中くん、大内さん。3人のパーティーメンバーから、ダンジョンの攻略で使っていた装備を受け取っていく。
ついでに、彼らの武器防具も受け取った。
それらを腕に抱えながら俺は、アイテムボックスの空間に意識を接続する。開いた空間の中に、学校からレンタルの装備品などをホイッと放り込んで保管しておく。
整備する時、次のダンジョン攻略を始める時になったら、アイテムボックスの中に保管していた武器防具を彼女たちへ返却する。それまでは、俺が管理を任されていた。
「オッケー。ちゃんとアイテムボックスの中に保管したよ」
「ありがとー」
アイテムボックスの中に保管をしておくと、すぐに取り出せるし場所も要らない。空間の中は時間が止まっているようなので、武器の刃である部分や、鉄の鎧が錆びて劣化したりすることがないので、非常に便利。
「また、周りの連中が見てくるな」
田中くんが、周囲へ視線を向けながら愚痴るような言葉を漏らした。
「気にしない、気にしない」
「無視」
「うーん。でも、ちょっと気になるね」
報告に行こうと校舎の中を歩いていると、生徒たちから視線を向けられるのを肌で感じた。ジロジロと、他の皆も視線を向けられている。パーティーのメンバーとして4人が視線を向けられている。
顔をよく知られいてるようだ。それだけ、有名なパーティーになっていた。
俺とネコは周りの視線を気にすることはないが、大内さんは少し気になるようだ。居心地が悪そう。そして、最初に周りからの視線に気が付いた田中くんも、気にしていないフリをしつつ、気まずさを感じているよう。さっさと先生に、ダンジョンから帰還した報告を済ませて解散しよう。
「じゃあ、また明日」
「うん」
報告を終えるとすぐに皆とは別れて、俺も家に帰ることにする。帰りが遅くなると両親が心配してしまうから、何も用事がなければ早く家に帰りたい。そう思って駅に向かっていたのだが。
「……」
うーん。尾行されている。背後から視線を感じた。立ち止まると、相手も止まった気配がある。これは、勘違いじゃないな。
チラッと視界の隅から観察してみる。2人の男たちが黙ったまま、こちらにジッと視線を向けていた。おそらく、同じ迷宮士の学校に通っている生徒のようだ。同学年のようだが見覚えがない。おそらく、戦闘科の生徒なのだろう。拙い尾行でバレバレだった。これは直接、仕掛けてくるつもりなのか。
一定の距離を保って付かず離れず。しかも男2人は、黙ったまま前を向いていた。それが逆に不自然なのでわかりやすい。あまり尾行には慣れていないようだ。
彼らの他に誰かいないか周囲を見てみたが、2人だけなのかな。あまりにも下手な尾行だったので、彼らは囮で他に本命がいるかもしれないと用心してみたが、彼らの他につけてくる奴の気配を感じられない。
本当に尾行する者は、あの2人だけなのか。それとも俺が察知できない程の技量を持った者が居るのか。
俺を付け回して、一体何の用だろうか。同じ学校に通っている生徒ということは、パーティーやダンジョン攻略に関してのことかな。向こうから手を出してきたなら、返り討ちにするつもりでそのまま尾行を放置する。
彼らは黙って、俺の後をついてくる。それだけで仕掛けてこない。話しかけてくることもない。他に人が居るからなのか。タイミングを伺っているのか。彼らの目的がわからないな。
何事もなく普通に駅の改札まで到着してしまった。俺が電車に乗り込むと、彼らは尾行を止めた。
「何だったんだ、一体……」
ダンジョン攻略を終えて、学校から家に帰る途中の出来事だった。それから何度か学校の登下校中に、同じような尾行を受けるようになった。
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