第155話 迷宮探索士トレーニング
「ハァハァハァ……、あー、つかれた」
「ッ、つ、ツライ、って……」
大内さんと田中くんがヘトヘトになりながら走り終わった。
「……ふぅ」
「ふぅ。ほら、まだ地面に倒れないで。クールダウンのために歩いて」
俺とネコもスピードを緩めて、歩きながら呼吸を整える。俺たち4人は、訓練場で体力をつけるためのトレーニングである走り込みを行っていた。
「ハァハァ、……わかった、いつもの、ね」
「もう、疲れてる、ってのに。ハァハァ、わかった、よ」
大内さんと田中くんの2人が走り終えて、息を荒くしながら地面に倒れそうになっている。彼らには、立ち止まらず歩くように指示を出した。返事をすると歩き出し、前に進む2人。
そのまま止まってしまうとケガや故障、体調不良などの原因になる。最後は歩いて運動による興奮を鎮めてから、疲労回復を早めるようにする。このクールダウンは、ウォーミングアップと同じぐらい大事だった。
俺とネコの2人も、彼らと一緒に訓練場でトレーニングしていた。
俺たちは少しだけ呼吸を乱した程度で、すぐに回復している。このトレーニングは前世の頃から取り入れていた方法で、とても慣れていた。
小さな頃から今まで積み重ねてきた特訓の成果もあって、体力には自信があった。ネコも鍛えていたから、楽々とこなしている。魔力操作による効果も大きいだろう。
「それじゃあ、やろうか」
「わかった」
大内と田中が訓練場を歩き終えて、クールダウンが終わったのを確認をしたので、俺とネコの2人で特訓に入る。俺たちにとって、長距離走は軽いウォーミングアップだった。
訓練場に置かれていた訓練用の剣を持ち、ダンジョン内でモンスターと戦うように本気で模擬戦をする。気を抜いていたら、怪我をしてしまうから真剣に。
俺とネコは訓練場で向かい合いながら、手に刃を潰した剣を持っている。これは、物を切れないようになっている。だけど、当たるとめちゃくちゃ痛い。
早速、豪快に剣を振り下ろすネコ。上から下へと容赦なく、俺にターゲットを向け振り抜いた。普通の人なら、見きれないような速度。でも俺にとっては、その大きな動きは予想しやすく、避けやすい。振り下ろす前に、体を動かせる。
「ッ!」
「おっと」
半身だけズラして避ける。なかなか早くて鋭い太刀筋だ。目の前で見えた、ネコの剣さばき。ちゃんと肘から先の意識を消して、肩で剣を振れていた。だが、まだまだ背筋と腹で剣を振る感覚には到達できていないかな。
前世では機体に乗って戦っていたから。生身で戦う方法について、そこまで深くは教えていなかった。今の彼女の剣は、俺とは別の人から習ってきたのかな。これからもっと剣の扱い方を学んでいく必要があるか。
剣を振った後。ネコの全身が少しだけ堅くなっているのが見えた。次の動きに移る際の初動が遅れて、スキが生じる。これも、後で修正していく必要があるかな。
彼女の動きを観察しながら、次は俺の番だと言うように剣を振る。
「ん」
「ぐうっ!」
慌てて、剣を前方に構えて防御をするネコ。横から振った俺の剣を受け止めると、何とか耐えた。よしよし。彼女の力は十分にある。
そのまま続けて、俺は剣を縦横無尽に振った。防御の構えを続け、なんとか反撃の機会を狙って鋭い視線を向けてくるネコ。でも、ちゃんと冷静に防ぎきっている。
「凄い」
「……あぁ」
俺たち2人の模擬戦を横で見学していた、大内さんと田中くんが唖然としていた。しかし、俺もネコも、まだ本気は出してはいない。
前世を平和な世界で生きてきた俺は、少しだけ実力が鈍っていた。そして、自分と対等に戦える戦士が身近に居なかったネコ。
ようやく本気で特訓に付き合える俺と出会うことによって、前世の実力に戻りつつあった。2人とも今はまだ、昔の力を取り戻すために腕を磨き直している段階だ。
観客が2人居る状況で、俺とネコは激しい模擬戦を続ける。今の実力があったら、ダンジョンのモンスターも楽勝ではある。だが、まだ学生である俺たちには上層しか立ち入る許可が出ていない。
迷宮探索士の資格を得て初めて、中層から下層までダンジョンを潜る許可を得る。それは、まだまだ先のことだろう。けれど、早めに実力を鍛えておいて備える。俺はダンジョン最下層にあると言われている願いを叶えてくれるアイテムを入手するためにも、そこへ到達できる実力が必要だったから。
ちなみに、俺と再会するという願い事が叶ったことによって、ダンジョン最下層のアイテムが必要なくなったネコ。引き続きアイテムを探している俺を手伝うと、約束してくれた。2人で実力を高めて、ダンジョン最下層を目指していた。
「私たちよりも体力があるし、白砂ちゃんとも対等に戦えてる。そんなに強いのに、どうして理人くんは支援科を選んだのよ?」
模擬戦の特訓を一旦、休憩する。その間に、大内さんから質問された。まぁ、ここまで俺の実力を晒してしまえば、そんな疑問が出てくるのは仕方ないだろう。
彼女に、俺が支援科を選んだ経緯を説明する。
「うちの両親が、もの凄く心配性だからさ。俺が戦闘職を目指すって言うと、絶対に反対されると思ったから。後ろでサポートする支援職になる、って言っちゃって」
「へぇ、そうなのね」
俺の答えを聞いて、納得する大内さん。
「それだけの実力があるんなら別に、親の言うことなんて聞く必要はなかったんじゃないのか?」
支援科を選んだ理由を説明したところ、田中くんがツッコミを入れてきた。まぁ、そう考えるのも自然なことだと思う。けれど。
「なるべく、俺は親を心配させたくないから。ちょっとでも安心できるようにって、支援科を選んだんだよ」
「ふーん。まぁ、別にいいけど」
田中くんは興味を失って、会話が終わった。
「俺のことは別にいいとして。最近は体力もついて、回復も早くなってきた。だから田中くんと大内さんの2人も模擬戦を始めようか」
「うん。わかった!」
「ふぅ。ようやくか」
かなり体力もついてきたから、大内さんと田中くんの2人も模擬戦に加えて大丈夫だと判断した。これから4人で模擬戦を行っていく。これで実践的な戦いを学んで、ダンジョン内でモンスターと戦えるだけの実力を、2人も手に入れていく。
まだまだ、俺たち4人のトレーニングは始まったばかりだった。学年だけでなく、学校内でも1番の実力を持つ迷宮探索士のパーティーになれるようにトレーニングを積み重ねていく。
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