第154話 周りの反応と一時の気晴らし

「それ、ちょっと食べ過ぎじゃない?」

「確かにな。食いすぎだろ」


 パーティーメンバーである大内さんと田中くんの2人は、テーブルの上にドンッと置かれた大量のハンバーガーを目にして呆れていた。


 俺たち4人は今、学校帰りにみんなでハンバーガーショップに来ていた。


 大内さんはホットコーヒーと、小さなハンバーガーを1個だけ購入。田中くんは、コーラとハンバーガーにポテト付きのセットメニューを購入していた。


 そして俺は、田中くんと同じくコーラとハンバーガーにポテト付きのセットであるメニューに加えて、単品で10個のハンバーガーを買って食う。


 さらにネコは、俺と同じメニュー。それから、アイスクリームとポテトと飲み物を大量に注文して、店員が持ってきてくれたものをテーブルの上に置いていた。


 俺たち2人が食べる分が合わさって、ハンバーガーが山のように積み上がっていたのだった。もちろん、全てちゃんと食べきるつもりだ。


「それ全部食べたら、太りそうね」


 ポツリと漏らす大内さん。大量のハンバーガーを目にして思ったのだろう、素直な感想だった。


「……食べたら動く。だから問題ない」

「うん。俺も、これぐらいなら動いて消化できるから」


 それに答えるネコと俺。2人は、なんてことない風に大量のハンバーガーを次々と食べ始めた。


 ネコは前世で体験した食事事情の反動で、現代に生まれて食べることをものすごく楽しんでいた。前世の俺が体験したように、美味しいものを食べる喜びを知った。


 そして、フェリスだったネコと再会をした俺も、宇宙で生活をしていた昔のことを思い出した。あの時、不味いものしか食べられずに辛かった頃の記憶が蘇ったのと、大食いのネコに影響されて、彼女と一緒に食事の楽しみを味わうようになっていた。休みの日とか、2人で評判の飲食店を巡ったり、色々なものを食べに行っている。


「……美味しい」

「あぁ、美味いね」


 俺たち2人の食事ペースを唖然と見ている2人。ダンジョンの中とかでは、たまに食事休憩していたけど、その時には食べる量をセーブしていた。ここはダンジョンの中じゃないし、今日はダンジョン実習の予定もないので自由に食べることが出来る。


 これだけ食べたら普通は太るけど、俺とネコの2人は普段から激しく体を動かしてカロリーを消費しているので大丈夫だった。明日もネコと一緒に鍛える予定だから、その時に食べた分のカロリーは消費されるだろう。だから、太ることもなく安心だ。


「食べることが好きなんだね、白砂ちゃんは」

「……うん、好き」


 大内さんの言葉に、頷いて認めるネコ。ハンバーガーを両手に持って、モグモグと口を動かしている。その様子を、微笑ましく見つめる大内さん。


 俺も、ネコのこういう所が可愛いと思うから、そんな彼女に釣られるように笑みを漏らす。


 実は、ネコも小さい頃は食べすぎて太り気味だったらしい。迷宮探索士を目指し、鍛え始めてから今のスラッとした体型になったようだ。でも、食べることは変わらず好きなまま。今も体を動かして、たくさん食べる。やっぱり、前世の俺のようだ。


「今度、一緒に美味しいお店に食べに行こうよ」

「行く」


 大内さんがネコを食事に誘うと、即答で行くと答える。食べ物で簡単に釣られた。このように同性の2人の関係は、順調に進展しているようで良かった。


「ところで、戦闘科で周りの様子はどう?」

「徐々に変わってきているけど、まだ悪い状況は続いているかな」

「そうか」


 戦闘科の様子を聞いてみると、まだまだ周りからの批判は多いらしい。不快そうな表情で答える田中くん。やはり、戦闘科での居心地は変わらないのか。それは困ったな。


「支援科の方は、どんな感じなの?」


 コーヒーのカップを持ちながら、大内さんが支援科の状況についてを聞いてくる。戦闘科に所属している3人とは違って、俺だけ支援科に所属しているから。彼らは、こっちの様子を知らない。


「支援科では、周りからそんなに悪く言われていないかな。むしろ、学年で流れてる噂を聞いて同情されているって感じ。頑張ってと言われて、励まされてるよ」


 主に、俺たちのパーティーが不公平だと批判しているのは、戦闘科の一部の生徒。彼らがパーティーメンバーを交代するようにと、何度も言ってきていた。


 特に、白砂猫を他パーティーに移すべきだと先生たちに抗議しているようだ。


 少し前までは、直接ネコ本人に別パーティーへ移るように言いに来ていたけれど、彼女が断固として拒否し続けるので、無理だと察したらしい。そして今度は、先生の方へと交渉しに行ったようだ。不公平だから、メンバーを変えるべきだと。


 彼らの目的は、自分たちのパーティーに戦闘能力のある白砂猫を招きたい、ということだけだろう。その目的を果たすために、俺たちのパーティーを批判して離れさせようとしている。


「最近は、授業で私達の実力が上がってきているのを見たから。不満を言ってくる人も少なくなってきたけれど」

「そうだな。文句を言ってくる奴らは、少なくなった」


 大内さんと田中くんのトレーニングを始めていた。まずは、走って体力をつけることから始める。これが全ての基本だった。彼らにも、その基本を身につけてもらう。


「前は僕も、他の奴らからかなり侮られていた。実力が低いって。だけど、あれだけ走って体力をつけて、ようやくクラス内でも評価されてきたんだ」


 嬉しそうに語る田中くんは、トレーニングを始めててから体力が順調についてきていた。それで自信もついたようで良かった。でも。


「まだ、鍛えるための一歩を踏み出しただけ。これから、どんどん特訓していけば、周りの評価もさらに良くなっていくはず。これから辛くなるかもだけど、頑張ろう」


 他の特訓に耐えるために、体力づくりから始めた。この次は特訓に入って、能力を鍛える予定。2人の特性などを考えながら、特訓なメニューも用意した。大内さんと田中くんを鍛えた結果、どう成長していくのか非常に楽しみだ。


「……えぇ? あれが、厳しい特訓じゃなかったのか……?」

「強くなりたいけど、大変そうだなぁー」


 絶望したような表情を浮かべる田中くんと、苦笑しながらもやる気をみなぎらせている大内さん。まだまだ、トレーニングは始まったばかり。

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