第148話 パーティーの初顔合わせ

 実習でダンジョン内に立ち入るため、支援科の生徒は戦闘科の生徒とパーティーを組むことになっている。ダンジョンに潜る場合は、4人組のパーティーが基本になるらしい。3人が戦闘科の生徒で、1人が支援科の生徒である。


 プロの迷宮探索士がダンジョンに潜るパーティーを組む場合にも、基本的に人数は4人組のパーティー。3人の戦闘職と、1人の支援職という構成が多いようだった。学校でも、それに習ってパーティーを組まされる。




 戦闘科の生徒3人は、一緒に授業を受けているので既に顔見知りである。そこに、支援科の生徒が1人だけ後からパーティーに加えられるような形になる。組まされる相手によっては、気まずい雰囲気を味わうことになるだろう。既に関係ができているところに放り込まれたら、支援科の生徒はそのグループに馴染むことから始めないといけない。


 支援科の実習が行われる日が近づいてきて、パーティーとなる人との初顔合わせが実施された。


 教室に集められた生徒たち。俺たちは、学校から発表されるパーティーを組むよう決められたメンバーで集まって、自己紹介から始めるように指示されていた。




「はじめまして、支援科の青柳理人です。よろしく、みんな」

「よろしく、青柳くん!」

「「……」」


 4人がテーブルを囲み、向かい合っていた。2人の女子生徒と、1人の男子生徒が居る。彼らが、学校から指定されたメンバー。先に俺が挨拶する。笑顔を浮かべて、かなり気軽な感じで。女子生徒の1人だけが、元気よく挨拶を返してくれた。


 男子生徒はチラチラと見るだけで、黙っている。もうひとりの女子生徒は、こちらに見向きもしない。雰囲気が悪いわけじゃない。まだ、慣れていないだけかな。


「私は、戦闘科の大内久美おおうちくみ。みんな、これからよろしくね!」


 ニコッと笑顔を浮かべて、元気よく大きな声で挨拶をする女子生徒。挨拶する時に目を見て、しっかりと話しかけてくれる。明るい性格の女性だった。


「……戦闘科、白砂猫しらすなねこ


 可愛らしい見た目と、可愛らしい名前。声も可愛い感じだ。なのに無表情のまま、態度はそっけない。


 澄んだ瞳をしているのに、その視線は誰にも向けられていなかった。他人に興味がないのか、人を寄せ付けないオーラを発揮している。なかなかコミュニケーションが難しそうな女性だ。


 そして、残り最後の1人となった男子生徒。


「……せ、戦闘科の田中宗和たなかむねかず、です。えっと、よろしく、おねがいします」


 不安そうな表情を浮かべていた男子生徒は、極度に緊張をしているのか自己紹介の声が震えていた。視線もあちこちへと向けられて、落ち着きがない。ちゃんと戦えるのか、ちょっと心配だな。




 男子生徒2人と女子生徒2人。このメンバー4人でパーティーを組み、ダンジョン攻略の実習が行われる予定。大丈夫だろうか。少し不安に思いながら、話を進める。




「それじゃあ、それぞれの自己紹介も済ませたから話を先に進めようか」

「そうしましょう」

「「……」」


 これから、この4人でダンジョンに潜る計画を練らないといけない。顔合わせしたばかりだけれど、ダンジョン実習に向けてメンバーと話し合って、その結果を先生に報告する必要がある。


「まずは、このパーティーのリーダーを決めないといけないのかな?」


 大内さんが、メンバーの顔を順番に見ながら聞いた。


「そうだね。誰にする?」

「……パス」

「……僕も、無理、だと思う」


 顔を見合わせる。2人は、即座にリーダーという立場を拒否した。残ったのは俺と大内さんだけ。どっちがリーダーを務めるのか。どうしようか考えていると、彼女と目が合った。どっちがする? そんな視線を交わした。そして、彼女が口を開く。


「青柳さんに任せます」

「うん、わかった。2人も、それでいいかな?」


 聞く前に、大内さんが俺に任せると言ってきた。パーティーのリーダーを任されたが、それで良いのだろうかと他の2人にも聞くと、彼らは頷いて承諾した。


 ということで、俺はこのパーティーのリーダーを務めることになった。


 このメンバーの中では、まだ一度もダンジョンに足を踏み入れていない。未経験者である。だが、集団を率いることには慣れていた。なので、リーダーを引き受けた。何か問題があれば、後で変更してもいいだろう。


「それじゃあ次に、それぞれの得意な事について話し合おう。みんなは何が得意?」


 仲間の能力を把握して、役割分担を決めていく。


「……戦うこと。一番前は、私が行く」


 一番前は、戦闘が得意だという白砂猫が立つことに。先頭を切って、モンスターと戦うのが彼女の役目。


「えっと、敵を見つけるのが得意、かな。戦うのは、ちょっと苦手、というか怖い」


 彼女に続いて二番目に、戦闘が苦手だけど敵の位置を素早く察知することが得意な田中宗和が。戦闘が苦手らしいので、危なくなったら後ろにすぐ下がれるように。


「仲間を守るのなら任せて。戦うのも、それなりに出来る。訓練の成績も良い方よ」


 三番目には大内久美が立つ。戦闘は、そこそこ得意らしい。なので、支援職の俺を守りつつ、モンスターとの戦闘に参加する予定。本当は、守ってもらう必要はない。だが今回は、授業で習った方法でやってみる。実習だからね。


「それじゃあ俺が、一番後ろで。ルートの選択と判断。それから、今回のダンジョン実習で遭遇するかもしれないモンスターの情報は全て集めておくから、任せて」


 そして一番後ろには、支援職の俺が続いて歩く。支援職としての知識を発揮して、モンスターに関する情報をメンバーに知らせたり、リーダーとして戦闘の指揮を執る。


 指揮と言っても、現段階では簡単な指示を出すことだけ求められているのだろう。今までの経験から、俺は既に色々なやり方を覚えているのだが。今回、どのぐらいの実力を発揮するべきか。考えておかないと。


 役割分担をキッチリ決めたけど、ダンジョン内では何が起こるかわからないので、立ち位置は随時変更することになるだろうし。臨機応変に動くことが求められると思う。




「次に、ダンジョン内の進め方について決めていこう」


 事前に学校から配られていた資料をテーブルの上に広げながら、ダンジョンの攻略について話し合う。みんなで意見を出し合いながら、ルートの計画を立てていく。


 計画の打ち合わせについては、思ったよりもスムーズに進めることが出来た。


 白砂さんと田中くんの2人は、話し合いの最中にあまり口を開かなかった。余計な口出しをする人が居なくて、意見を出し合い計画を決めたのは、主に俺と大内さんだけだったが。黙ったままの2人にも話を振って意見を聞いてみたが、特に何も言わなかった。


 俺と大内さんの2人が決めた計画について、メンバーである他の2人に異論がないことを確認しながら、次に話を進めていく。




「じゃあ、みんな。今度のダンジョン実習、よろしくおねがいします」

「おねがいします」

「……うん」

「あ、はい……」


 予定時間内に、なんとか話し合いは終わった。先生にも結果を報告して、問題ないと確認を貰っている。あとは、当日を待つだけになった。


 ちょっとだけメンバーに対して不安を感じつつ、この4人組のパーティーで初めて俺はダンジョンに潜ることになる。


 初ダンジョン実習の予定日が、とても楽しみだ。

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