第149話 4人組パーティーでトレーニング
放課後。新しく組んだ4人組パーティーのメンバーで学校にある訓練場で集まり、ダンジョン内での動きをシミュレーションして、みんなで確認しておくことにした。話し合いだけでなく、実際に体を動かして準備する。
これは学校から指示されたわけじゃないけれど、俺がパーティーのリーダーとしてみんなに提案したこと。俺が両親と約束した、怪我しないようにするための準備だ。そして、メンバーのみんなも怪我しないようにするための準備でもある。
訓練場には、他にトレーニングしている生徒たちが居た。彼らは上級生のようだ。こちらをチラッと確認したが、特に何も言わずにトレーニングを続けている。邪魔をしなければ大丈夫そうだな。そんな中で待っていると、パーティーメンバーの1人である女子生徒の大内さんがやって来た。
「こんにちは」
「ごめん、ごめん。待った?」
慌てて来たのか、息を切らせている。戦闘科と支援科の授業が終わる時間が違ったので、俺のほうが早く到着していた。だが、約束していた時間よりも早い。
「いいや。約束した時間の5分前だよ」
「そっか。よかった」
そんな風に挨拶を済ませた。すると彼女はいきなり、グイッと体を近づけてきた。若い女の子がこんなに近づいてきて、一体何だ。
「ところで」
「ん?」
そして、俺の耳に口を近づけると小声で俺に話しかけてきた。何やら、他の人には聞かれたくない秘密の話なのか。
「白砂さんも来るんだよね。彼女、どうやって呼んだの?」
「え? ダンジョンに潜る備えをしておこうって、今回のトレーニングに誘ったら、普通に来てくれたよ」
パーティーのみんなで一度、動きを確認しておきたいからシミュレーションしようと言うと、わかった、という返事で彼女も訓練場に来てくれることになった。
「ええっ!? へぇ、そうなんだ」
そう言うと、驚いた表情で俺の顔を見てくる大内さん。そんなに驚くことなのか。俺は、首をひねった。驚かせるようなことを言ったつもりはないのだが。
そして、何かを納得するようにうなずくと、彼女は元の体勢に戻った。
「戦闘科のクラスで、白砂さんが誰かと会話しているのを見たことがなかったから。理人くんは、白砂さんと普通に話せるんだね」
「彼女の態度や返事はそっけないけど、臆せずに話せばとちゃんと聞いてくれるよ。自然体で接すれば、普通に会話してくれるし」
人を近寄らせないオーラを発していた白砂さんだけど、話してみると意外と反応してくれる。ただ、あまり親しく話しかけすぎると、一気に距離を置かれる気配があった。そこは、注意したほうが良さそうな気がする。
「そっか。なるほどね。あんまり遠慮し過ぎるのもダメ、ってことね」
2人でそんな話していると、話題になっていた白砂が大剣を肩に背負って、やって来た。約束の時間キッチリに、ちゃんと戦う準備までして来てくれたらしい。
「こんにちは!」
「……うん」
早速、明るく元気に話しかけに行った大内さん。無表情のままだけど、ちゃんと返事をしてくれる白砂さん。大内さんは、積極的に接していくことを決めたようだ。
「ご、ごめん。遅れた」
それから最後に少しだけ遅れて、男子生徒の田中くんがやって来た。これで全員が集まり、パーティーの動きについて実際に動いて確かめるトレーニングを開始する。
「それじゃあ、まずはダンジョンの上層によく居る、ゴブリンとの戦いを想定して。やってみよう」
「わかった!」
「「……」」
大内さんだけが返事をしてくれた。他の2人は黙ったまま。返事はせずに無表情。だけど、指示した位置についてくれる白砂さん。田中くんは、少し面倒そうだけど。指示を聞いて動いてくれるのなら、それでいいか。
「ああ、いたぞー。前方に、ゴブリンが一匹」
「了解。他には?」
まず最初に、田中くんが敵を発見した状況の設定で。棒読みの声で、敵を発見したことをみんなに報告する。俺は、他に敵が居ないのか田中くんに確認した。
「えっと。他には居ない、ってことで良いんだよな」
「うん、それでいいよ。白砂さんは、前に出て敵と当たって。大内さんと、田中くんは迎撃体制で待機」
事前に説明したシミュレーションの設定もあやふやなままで、田中は報告をした。初めてだから仕方ないかな。もうちょっと、緊張感をもってやってほしいと思うが。そんな状況の中、3人に指示を出す。
「……わかった」
装備している大剣を振り、仮想のモンスターと戦う動きを見せてくれる白砂さん。彼女はちゃんと、俺の指示を聞いてくれるらしい。
しかし、彼女の動きは凄いな。どうやら、学年の中で最優秀の戦闘職だと言われているようだ。その評価も納得できる動きだった。
白砂猫さんは、魔力を自在に操っていた。おそらく、魔力を理解して使いこなしている様子。あんなに自分の魔力を自由自在に操っている人を、俺は自分以外で初めて見た。俺が見たプロの迷宮探索士でも、あんなに魔力を使いこなしている人は居ないと思う。彼女は自力で魔力操作の技術を編み出し、習得したのだろうか。
そうなんだとしたら、ものすごい天才なんだろうと思う。俺も、過去に魔力操作について研究し編み出して、習得するまでにかなりの時間を要した。今ではもう、魔力操作の技術には慣れているから、生まれ変わってすぐ再習得することが出来るようになったけれど。
彼女は、生まれてから16歳になるまでに、あれだけの技術を自分で磨き上げたというのだろうか。
「……倒せた」
白砂が仮想のモンスターを倒したという報告を聞いて、俺は次の指示を出す。
その間、俺をモンスターの攻撃から守る態勢を維持し続ける大内さん。自分の役割を理解して、俺の近くに陣取ってくれた。彼女も、とても良い働きをしてくれる。
「田中くん。もう一度、周りの警戒を」
「敵は居ない、かな」
一応、キョロキョロと周りを見るフリをしたあとに、報告をしてくれた。これが、ダンジョン内でモンスターと遭遇した時の動き方だ。
「と、パーティーの動き方はこんな感じだね」
「こんな、おままごとみたいな練習、本当に必要なのか?」
田中くんはそう言って、疑うような目を向けてくる。彼は、トレーニングに不満があるようだ。
「もちろん必要だよ。みんなでどう動くのか確認しておかないと、いざという時には動けなくなるから」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「……」
そう言って俺は、真正面から田中くんに視線を合わせて堂々と告げた。もちろん、必要だと。すると、こんな訓練なんて必要ないと思っているらしい彼の方から視線を外した。
立ち去らないということは、一応納得して訓練に付き合ってくれるらしい。最初の出会いから、少しだけメンバーにも慣れてきた様子の田中くん。こうやって、不満を言ってくれるのもありがたい、と思っておこう。
その後、複数の敵と戦う場合、前線がピンチになった場合、奇襲された場合などの動きをシミュレーションして、みんなで動き方を確認しておいた。
これで、ダンジョン内の実習も大丈夫だろう。準備は万端だった。
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