第147話 支援科の現状
迷宮探索士を目指す学生が集まっている。1学年で約120名ほど居て、4クラスに分けられた。クラスは戦闘科の授業を受ける者たち、支援科の授業を受ける者たちが一緒になっている。およそ4分の3が戦闘科で、4分の1が支援科だろうか。
俺は、支援職を目指す4分の1の方に含まれている。しかし、想像していたよりも戦闘職を目指す人が多いな。やはり、後方でサポートするよりも前線で戦えるようになるほうが人気なのかな。
前線に出るのは危なそうなイメージがあるけど、クラス担任の管原先生も戦闘職と支援職で危険度に変わりない、と言ってたから。皆は、前に出ていきたいのか。
まぁ、いっか。とりあえず俺は、ダンジョン攻略の最中に怪我しないよう注意することを忘れないように。前は任せて、後ろからダンジョンを攻略していく。
「こんにちは」
「え、あ、はい。こんにちは」
支援科の授業が始まる前。生徒が集まった教室で、横の席に座っている男子生徒に話しかけてみた。彼も、俺と同じく支援科の授業を選んだ男子生徒なのだろう。だが俺が話しかけると慌てて、目を合わせてはくれずに返事だけしてくれた。
支援科の授業を受ける男子生徒は、少なめのようだ。俺と、隣りに座っている彼。それから、もう2人だけ居るかな。今回の授業に集まったのは計4人だけ。支援科を選んで入ってきた男子は、これだけかな。残りの26人は、全員が女子生徒である。周りを女子たちに囲まれているので、慣れてないと大変そうだと思った。
同じ支援職を目指す男子生徒同士ということで、なるべく彼らとのコミュニケーションを大事にしていきたい。積極的に話しかけていく。もちろん、女子生徒との仲も深めていきたいが、まずは同性から仲良くなる。
「今日の授業は、何をするのかな」
「え? えーっと、わからないです」
話しかけてみるけれど、まだ目を合わせてはくれず、あまり反応も良くなかった。会話するのが苦手な子のようだ。どうやって彼と仲良くしていこうか考えていると、俺の隣、男子生徒とは逆の席に座っている女子生徒が会話に混ざってきて、支援科の授業について教えてくれた。
「しばらくの間は、国語とか数学とか普通に高校で習う内容らしいですよ」
「あぁ、そうなんだね。ありがとう」
「いえいえ。これから授業、頑張りましょう」
「うん、そうだね。お互い頑張ろう」
笑顔を浮かべて、教えてくれたお礼を言う。女子生徒とは、上手く仲良くなれそうだと感じた。
支援科の授業は、今のところ普通高校のカリキュラムと同じように国語や数学など普通の教科を学ぶ。専門科目を深める前に、まずは必要な一般教養科目を学んでいくようだ。
普通の授業内容については、前世で学んだこともある内容と同じだったので、思い出すだけで問題なかった。
この世界で起こった歴史については、少しだけ知っている知識と差異があるので、前の時と同じように学び直す必要があった。ちゃんと教科書などを読み込み把握しておく。今のところ、クラス内で優秀な成績をキープ出来ていた。
一般教養科目を学ぶ授業を猛スピードで進めながら、ダンジョンの歴史や仕組みについて学ぶ時間が設けられている。支援科の1日は、そんな内容の勉強が続いた。
「戦闘科、今日から実習だって」
「そうらしいね」
戦闘科に関する情報を知らせてくれた女子生徒は、不満そうな表情を浮かべながら言った。
支援科と戦闘科の授業内容は全く別らしい。1日中、教室で座って勉強をしている支援科に対して、戦闘科は既にダンジョンの見学に行っているようだ。クラスで顔を合わせることがあるけれど、一緒に授業を受けることはなかった。授業が始まる時には、別々になるので。
戦闘科の生徒たちがどんな授業を受けているのか、詳しくは知らない。向こうも、俺たちが学ぶ授業の内容について知らないだろう。支援科と戦闘科の生徒は、意外と交流する時間が少ない。
俺も早くダンジョン内に行ってみたいと思うけど、支援科の生徒は先にサポートについての知識を徹底的に学んでから、次に実習を行うという。ダンジョンの進み方、ルート選択の方法、トラップについて、内部に生息している各モンスターの倒し方、緊急事態の対処法等など。
支援科の生徒は様々な知識を詰め込んでいくから、時間が掛かる。
戦闘科は、その辺りの知識の学習をさらっと流して、さっさと実習に進んでしまうから。実戦での経験を大事にする方針。知識の部分では、支援職がサポートしていく必要がある。
後方からの支援が、俺たち支援職の役割。そして、戦闘職は前に出てモンスターと戦うこと。それが彼らの役目である。ダンジョンを上手く攻略していくために互いが協力して、それぞれ必要な仕事を役割分担しているので仕方がないとは思うけど。
「早く、私達もダンジョンの実習をしてみたいな。また、戦闘科の娘にバカにされるから」
なるほどな。だから、情報を知らせてくれた女子生徒は不満そうな顔だったのかと理解した。彼女は、戦闘科の娘からバカにされたらしい。
「早く実習もしたいね。でも今は、じっくり知識を学んでいこう」
「うん」
「それから怪我しないように、ちゃんと体も鍛えておこうよ」
「それもそうね」
一部の戦闘科の人達から、支援科の生徒は下に見られている傾向があった。後ろで戦うから、支援職の人間は臆病者なんだと、影で言われることも有る。そんな事を口に出して言うと、絶対に先生から注意されるので一部の人間だけ。でも一部で、そう思われているのは確かだ。
だが焦る必要はなかった。どうせ、後で支援科の生徒もちゃんと実習を行うから。それまでに知識を蓄えて、体を鍛えて万全の準備する。その余裕があった。
「今から一緒にトレーニングしましょ」
「そうだね。仲間を集めて鍛えよう。ほら、君も一緒に」
「え、僕も、一緒に行っていいの?」
「もちろん!」
「そうよ、行きましょ。戦闘科の奴らに負けないように!」
「う、うん」
支援職を目指す生徒を集めて、自主的にトレーニングをすることにした。いつもは戦闘職を目指している学生たちが利用しているトレーニングルームも、今は空いている。かなり実習が大変なようだ。こういう機会を逃さないように、利用しないとね。支援科の生徒を集めて、みんなと協力しながらトレーニングを積んだ。頭だけでなく体を鍛える。
ダンジョンの攻略に関する授業をたっぷり受けて、体も鍛えてきた俺たち支援科の生徒は、ようやくダンジョン内に立ち入る実習が行われる。その時に初めて戦闘科の生徒と、合同で授業を受けることになった。
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