第146話 迷宮探索士支援科
両親からの許可を得て、迷宮探索士を目指す人たちが通う学校に入学した。中学を卒業してから、普通高校の代わりに迷宮探索士を育成する専門学校である。
その学校では、ダンジョン攻略方法やモンスターとの戦い方について学び、卒業をすることが出来れば迷宮試験を受験する資格を受け取ることが出来る。その後の試験に合格すれば、ようやく探索士資格を得る。取得するまでの道のりは長い。卒業しただけでは、まだ迷宮探索士にはなれない。
迷宮探索士になるためにはまず、その学校を修了する必要があった。迷宮探索士になるまで、家から電車に乗って通える距離にある学校に3年間は通う必要があった。
入学式が終わり、翌日には健康診断と体力測定が行われた。さらに、その次の日は新入生と先生との二者面談が行われた。
「失礼します」
「どうぞ」
最初に1人ずつ、順番に教室に呼ばれて面談が行われる。俺の順番は早めに来て、先生が待っているという部屋の中に入る。
普段は授業をする教室として使われている部屋の中には、屈強な男が1人だけ座り待っていた。
かなり広い室内の中央に、ポツンと机と椅子が置かれて、そこに座って待っているだけなのに、大きな体で存在感のある人。
その体つきから、戦い慣れた人なんだと分かる。彼の見た目から、そんな雰囲気を感じ取った。どうやら、彼も迷宮探索士のようだ。しかもモンスターと戦ってきた、歴戦の迷宮探索士だと思われる。おそらく、支援職ではなく戦闘職の人だろう。
「こっちに来て、座ってくれるか?」
「はい」
目の前の席に座るよう指示されたので、部屋の扉を閉めてから椅子に近寄ってから座った。部屋に居た男性と、向かい合うような位置だ。目の前の人物、眼光もかなり鋭い。
「じゃあ、ちょっとお話を聞かせてくれ」
「よろしくお願いします」
彼は話し始めると目を細めてニコっと笑い、安心させるような表情を見せた。その仕草は、相手を落ち着かせるように見せたかったのかもしれない。けれど、威圧感は変わらず凄い。だが、いい人であることはわかった。
「僕は、君のクラスの担任になる予定の
「
挨拶を済ませると早速、本題の話が始まった。手元の資料を確認しながら話をする菅原先生。
「お、これは。体力測定の成績が、すごく優秀だったみたいだな」
「はい」
担任になる予定らしい管原先生は、資料をめくって確認しながら質問をしてくる。昨日行われた、体力測定の結果かな。それなりに実力を発揮したと思うので、頷いて肯定した。
「しかし、なんで支援科を希望した? 戦闘科に行かない理由はなんだ?」
管原先生の口調は何気ない会話のようだったが、真剣な目をして問いかけてきた。どう答えようか。
「両親が心配性なので、危険だと言われている戦闘職ではなく支援職を選びました」
「うーん。そうなのか。でもまぁ、戦闘職も支援職も実際どっちもそんなに危険度は変わらないんだがな」
「そうなんですか?」
「前の仲間が倒されてしまったら、後ろに残された仲間が逃げるのは難しいからね。でも実際に、そんな状況になるのは稀だよ。だから、危険度に変わりはない」
ダンジョン内部がどんな構造なのか分からないから予想でしかなかったが、やはり前が倒されると後ろは逃げれないのかな。地上だったら、敵に囲まれない限りは逃げることも出来るだろうが。
しかし、そうなると両親に説明したことが嘘になってしまうな。色々と調べて得た情報だけど、実際に経験してき迷宮探索士の話の方が信憑性は高そうだしなぁ。
「どうする? 今から戦闘科の方に移ることも可能だけど」
「いえ、今のまま支援科の方で学びたいと思います」
管原先生は、戦闘科に変更してはどうかと勧めてきた。だが俺は、その提案を拒否する。やはり、両親との約束があるので。俺の知っている情報が間違っていたとしても、そこは変更しないように。戦闘職ではなく、支援職を目指すことは変えずに頑張ることにした。
「なるほど、わかった。もし戦闘科の方に移りたくなったら、いつでも言ってくれ。言ってくれたら、すぐに手続きをするから。あ。でも、これは強制じゃないからな。自分の進路については、自分で決めてくれ。進路について聞きたいことがあったら、なんでも相談は乗るから」
「はい。ありがとうございます」
俺を、どうにかして戦闘科の方に移らせたいのだろうか、と思ったが違うようだ。進路を決めるのは自分だと強調して、無理に介入はしてこなかった。けど、相談には乗ってくれるらしい。体力測定の結果で、戦闘科の方が合っていると思われたかな。
学科についての話は終わって、次の話題は俺の能力について。
「へぇ。空間魔法を使えるのか。俺も、空間魔法の使い手に会ったのは初めてだよ。すごく珍しいな」
「はい。でも、容量は少ないですが」
入学する時に、自分の能力について書くように指示されていた。どこまで、自分の能力を公開するのかを考えた結果、空間魔法と偽ってアイテムボックスを使えることは打ち明けることにした。
この世界には、空間魔法と呼ばれている能力が存在している。俺の持つ特殊能力のアイテムボックスと似たような力を持つ使い手たちが居るのなら、俺も使えることを公言しておいたほうが便利そうだったから。ダンジョンに潜る時には、非常に便利な能力だし使いたいから、情報を開示した。
「いや、十分だろう。この能力を使うと食料持ちを用意しないで、2,3日ぐらいの食べ物を所持しながらダンジョンに潜れるのか。緊急事態に備えて、武器や回復薬を持ち込むのも良さそうだ」
管原先生は楽しそうに、アイテムボックスの能力の使い方について考えていた。
能力の詳細は、一部しか明かさない。本当は、もっと容量があるけれど言わないでおいた。火の魔法などを使えることも、黙ったままにしておく。
回復魔法も、世界に数人しか居ないと言われるほど、かなり希少な能力らしいのでこちらも黙っておく。使えると言ってしまうと、かなり面倒なことになりそうだったから。アイテムボックスの能力だけでも引く手あまたで、勧誘とか面倒かもしれないけど。
本当は、実力を明かしたほうがアピールできて有利になるらしいが。俺の場合は、アイテムボックスを使えるだけでも、十分にアピール出来ているだろう。一部の実力だけ明かして、後は隠しておくことにした。
学校に隠しておくということは、クラスメートにも隠しておいたほうが良いかな。実力を隠しておくと、いざという時に使えなくなるかもしれないが……。
まぁ、その時はその時で、どうにかしよう。危なくなったら、遠慮なく使うということで。
「確かに君の能力は、すごくサポート向きでもある。この力を鍛えていけば、立派な支援職になれると思うぞ」
管原先生から太鼓判を押された。そして、次の質問。
「迷宮探索士の資格を得たら、君はどんな事をしたい?」
「どんな事?」
抽象的な質問。どう答えればいいのかわからなくて、俺はオウム返しをしてしまう。改めて、管原先生は何を聞きたいのか詳しく教えてくれた。
「どこのダンジョンを攻略してみたいとか、どんな効果のあるアイテムを入手したいとか。迷宮探索士としての目標を聞かせてくれるか?」
正直に俺の目的を答えるべきか、ありきたりな答えを返すのか、少しだけ悩んだ。そして、目的は正直に答えることにした。
「最下層に到達した者だけが手に入れることができる、どんな願いでも叶えてくれるアイテムを、いつか入手したいです」
「ふむふむ」
管原先生は、俺の答えを聞いて一度頷くと、何かを資料に書き込んだ。この答えは大丈夫だったのかな。
「ありがとう。面談はこれで終了だ。迷宮探索士になれるように勉強、頑張ってな。俺も担任として、君を指導していこう」
「はい。これから、よろしくお願いします」
面談は終わった。今回の担任の先生は、どうやら普通な人のようで安心した。前の人生の時は酷かったから。
もう遠い記憶となって、ほとんど忘れてしまったけれども、前の人生で通っていた専門学校で、もの凄く嫌われていた。それで学校から追い出されたのを覚えている。
今回は、ちゃんとした大人の先生が指導してくれるらしい。
まだ出会ったばかりで、信用出来るかどうか判断するのは早いかもしれないけど、信じていい人だと思う。俺の直感が、そう言っている。
俺は支援科を選択して、迷宮探索士の支援職を目指して学校で勉強をすることに。迷宮攻略専門学校での学生生活が始まった。
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