第145話 迷宮探索士を目指して

 迷宮探索士という職業は、非常に人気の仕事だった。テレビ番組では色々と特集されて、映画やアニメに漫画などでテーマになっている職業として、日常からよく目にするぐらい。


 将来なりたい職業ランキングでは野球選手やサッカー選手、医者や社長といった職業よりも人気で、毎年必ずベスト3以内に入るほど。




 迷宮探索士という仕事は、国から需要が高い職業でもある。


 迷宮探索士が地上に持ち帰ってきたアイテムの数々は、家電を製造するための材料として使われていたり、医療の現場で活用されたり、電気、ガス、ガソリンの代わりになるエネルギーとして利用されていたりと、現代で人が快適に生活していくために必須となっていた。


 それから、ダンジョンの中に生息しているモンスターたちを定期的に倒さないと、溢れ出てきて地上に住む人たちに危険が生じる。迷宮探索士が、ダンジョンに潜ってモンスターを倒すことは、地上の人たちの安全を守ることにも繋がる。


 だからこそ人々から尊敬されて、憧れられる職業でもあった。




 迷宮探索士という仕事は、重要な仕事で需要もあった。身の危険を伴うけれども、それに見合った稼ぎと名声を得ることが出来る。


「いや、しかしなぁ。危ないんだろう?」

「理人の夢は応援してあげたいけれど、他に安全な仕事じゃダメなの? 理人は賢いから、どんなお仕事でも成功できると思うわよ。わざわざ危ない仕事を選ばなくてもいいんじゃないの?」


 案の定、両親は渋い顔を浮かべている。俺の話は聞いてくれるけれど、危険だからという理由で迷宮探索士を目指すことには反対のようだ。


 両親は、俺のためを思って危険から遠ざけようと言ってくれているのは、分かる。なるべく、両親の言うことを聞いて彼らを安心させたいとは思うけど、ダンジョンの最下層にあると言われている、願いを叶えてくれるアイテムも絶対に入手したい。


 探索士の資格なんか取得せず、誰にも黙ってバレないようダンジョンに潜り込んでみることも考えてみた。だけど、内部の状況が分からないから忍び込むにはリスクがある。


 万が一、 バレた時のことを考えると両親や他の人たちに迷惑をかけてしまうだろうから、今は控えておく。隠れてダンジョンに忍び込むのは、最終手段として考えておこう。


 となると、やっぱり両親を説得しないといけないよな。




「父さん、母さん。これを見て」


 ダンジョンと迷宮探索士について調べて得た情報を紙にまとめて、数値やグラフで分かりやすくした資料を取り出し、両親に見せながら説明する。


 海外の迷宮探索士に比べて日本の迷宮探索士は、すごく安全だということ。日本の迷宮探索士は、ミスがあった場合には直ちに原因の分析をして、繰り返し失敗しないような仕組みを考えてある。改善活動がしっかりしているので、昔に比べて死亡率もかなり下がってきている。


 データの蓄積で、迷宮内での効率的な動き方なども確立されていて、生存率も高くなっている。それが今の日本の迷宮探索士だった。


「迷宮探索士は危険な職業だ、っていうイメージは古いんだよ、父さん」

「そうなのか?」

「たしかに危険だけど、昔ほどじゃない」

「うーむ」

「それに俺が目指すのは、サポート職なんだ」

「サポート職?」


 それに加えて、一番危険な前線に出て戦う戦闘職とは違って、後ろでサポートする支援職だと強調して説明した。その役割だと、それほど危なくないよと伝える。この説明は嘘じゃない。


「サポート役は、実際に戦う人たちを後ろから助ける役割なんだ」

「迷宮探索士には、そんな役割分担があるのね。知らなかったわ」


 それに俺なら、モンスターと戦っても負けない程度の実力はあると自負している。だから、迷宮探索士を目指すことを許可してもらおうと頼み込んだ。きっと、大丈夫だよ。


「確かに、理人は運動が得意なのよね。学校の運動会でも大活躍だった」

「テストも毎回、良い点数を取っているんだったよな。頭も良いし、ちゃんと危険を避けて行動できるんだろうけど」


 今までの学校での活躍についてを振り返って、両親の考えが揺らいだ。しっかりと学校でも活躍して、優秀さを示してきた。だが、それでも。


「でもなぁ、危ないのに変わりはないし」

「危険なのは、やっぱり止めておいたほうが」


 やはり、心配性な両親たちは認めてくれないか。だが俺は諦めず、説得するために言葉を重ねていく。


「危険だったとしても何かに挑戦しないと人は成長できないんだよ。それに、危険を無くすために専門の学校に行って、ダンジョンについて学びたいんだよ」

「うーん」

「それは、そうなんだけど」


 そこで俺は、譲歩案を出した。こうしたら、どうだろう。


「ダンジョン内で、ちょっとでも怪我をしてしまったら、迷宮探索士の道は諦める。それでどうかな?」


 怪我をしてしまったら、迷宮探索士を目指すのは諦める。そんな俺の提案を聞き、両親は少しだけ考え込んだ。そして、ようやく。


「……そこまで言うのなら、認めようじゃないか」

「だけど、絶対に危なくなったら逃げるのよ。何かあったら、すぐに止めるから」

「うん。わかった!」


 迷宮探索士を目指すことを、ようやく許可してもらった。ホッと胸を撫で下ろした俺は、両親に向かって笑顔を向ける。


 これで、迷宮探索士になるための一歩を踏み出せる!




 中学を卒業してからすぐ、迷宮探索士になるため探索士専門学校の試験を受けた。試験の内容は普通の学力テストだったので問題なく、合格することができた。


「合格したな! よく勉強を頑張ったぞ、理人。我が子ながら、凄い」

「なるべく危ないことには近づかないで。でも、資格を取れるように頑張るのよ!」

「わかった、頑張るよ。ありがとう、父さん、母さん」


 相変わらず心配性な両親のままだったが、学校に入学できたことを褒めてくれて、迷宮探索士を目指すために応援をしてくれるようになっていた。




 両親との約束は、ちゃんと守るつもりだ。ダンジョン内では怪我をしないように、注意してダンジョンを攻略しないと。失敗してしまったら、両親との約束を守るために迷宮探索士の道を諦めないといけなくなるから。

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