第140話 料理対決、頂上決戦
世界料理大会が始まった。今回の大会参加チームは、全部で64チームだという。1つのチームに5名の参加者がいるので、会場には世界中から集ってきた320人の料理人たちが腕を競い合う。
1日に21チームか22チームずつ、3日間に渡って行われる大会の審査。
俺たち日本代表チームは抽選の結果、大会の初日に審査が行われることになった。調理器具は使用が許可されているものを各チームで持ち込んで、食材は事前に大会の運営に連絡をしておいて、取り寄せてもらったものが用意されていた。
まずは全員で食材の確認から始める。白いコックコートを身にまとい、会場にあるキッチンにメンバーの5人で一斉に足を踏み入れた。
このキッチンも、料理が完成した時の状態が審査される対象であった。衛生に気を使って、清潔に使えたかどうか。無駄を省いて調理ができたか。食材を大切に扱い、無駄をなくして料理を完成させられたのか、隅々までチェックされるので気を付けないと。
「確認、終わりました。大丈夫です」
「こっちも、完了です」
「問題ないようだ」
「用意された食材も良い感じです」
「キッチン設備も、オッケーですよ」
チームの5人で用意されていた食材と調味料のチェックに入った。食材には問題がないようで安心する。
続けて、キッチンの設備も問題がないことを確認していく。ここで見落としが無いように、一つ一つを丁寧に。後で問題が発覚したとして運営の不備だったとしても、コチラのチェック不足としてチームの成績から減点されてしまうから。
既に、世界料理大会の審査は始まっているということ。
数十分間のチェックでたっぷり時間を掛けた。全てに問題が無いことを確認して、ようやく準備が整う。他のチームも同じように入念なチェックを行って、まだ準備は完了していないチーム、先に準備を終えて待機しているチームもあった。
「よし、みんな。予定時刻になったな。それじゃあ調理に入ろう」
キッチンの壁に掛けられていた時計に合わせて調理を開始する。チームリーダーの号令に、みんなが真剣な眼差しで頷く。
「打ち合わせ通りに、ゆっくり落ち着いていこうな」
「「「「はい」」」」
チームが動き出して、調理が始まった。制限時間は5時間だけ。長いようだけど、ものすごく短い。完璧に仕上げるためには、圧倒的に時間が足りない。
調理を完璧に終わらせるためのタイムスケジュールを組んで、失敗しないよう気をつけながら時間通りに進めていかないと、あっという間に制限時間を過ぎてしまうだろう。時間までに料理を完成させることが出来なかったら、問答無用で失格となる。
他には負けないような素晴らしい料理を完成させることに集中するのはもちろん、時間にも気を配りつつ慎重に進めていかないと。
大会の審査員は、24名。大皿プレートに24名分の料理を盛り付けて、一皿のみ用意することが許されている。そこに、どんな料理を盛り付けるのかは自由。皿から料理がこぼれた場合は失格となる。
試食審査では料理についてのプレゼンテーションをして、独創性、メインに添える付け合わせ、盛り付けに、ソース、味付けという判断基準で料理が採点されていく。彼らの得点をどれだけ獲得できるのか、他のチームとの勝負だ。
それぞれが軽快に役割を果たして、チームワークで調理を進めていく。ほぼ時間の狂いはなく、タイムスケジュール通りに進められていた。
「メインディッシュの仔牛のロースト、上がったぞ」
「ソースも完成した、盛り付け頼む」
「任せて」
イタリア産で仔牛のイチボという、牛のお尻の肉の先にある柔らかい部分を使って作った料理。仕上がった料理を受け取って、俺は大皿プレートの上に次々と盛り付けていく。
今回の世界大会で優勝を狙うために仔牛もこだわっていて、ミルクフェッドという生後5ヶ月程のミルクだけで育てられた仔牛を取り寄せた。
ミルクだけで育てられた仔牛は肉の色が淡いピンク色をしていて、とても柔らかく繊細な味わい。肉の味を活かす為に、ソースの味を微調整していく。
仔牛の肉の繊細な味わいを崩さないようにしながら、濃厚なソースを活用する。
日本代表チームだけでなく、他国のチームたちも同じように仔牛を使用していた。人気の食材のようだった。これを使って、独創性を表現しないとな。
大皿プレートの上に盛り付けられた料理は冷ますことなく、ちょうど良く味わえる熱さを残したままのタイミングで審査員たちに提供できる。ここまでの、時間管理はパッチリだった。
メインの料理を映えさせるために、大皿をデコレーションしていく。料理は完成に近付いていくけれど、24人分の盛り付けだけでもかなり体力の使う重労働だった。だが、料理の完成度を上げるためにも非常に大事な作業。少しも気が抜けない。
制限時間である5時間をピッタリ使い切って、日本代表チームの料理は完成した。審査員たちの前に、料理を並べる。
まずは、審査員たちに向けて完成させた料理をプレゼンする時間。料理について、コンセプトを説明していく。日本代表チームの中で語学に堪能な俺が、審査員たちに料理の説明をした。
「こちらの料理について説明を始めます。まず、このお肉はオランダ産の――」
俺の説明を聞いた審査員たちの反応は、良い感じだった。事前に練習した通りに、上手くいったようだ。
次は、試食審査である。
目の前に審査員たちが大皿プレートに盛り付けた料理を目を凝らして観察をして、次に料理を口に運んで味わっていた。果たして、彼らの評価はどうだろうか。まだ、得点は明かされない。結果を知るのは最後。
キッチンの審査も行われて、日本代表チームの全ての審査は終わった。準備をした通りに調理を進められて、俺たちの実力を十分に発揮して完成させた料理だ。さぁ、結果はどうなるのだろうか。
世界料理大会は、まだ続く。結果が分かるのは3日目で全チームの審査が終わって翌日になってから。もうしばらく、結果が出るまでには時間が掛かりそうだった。
チームメンバーは結果が出る日までソワソワと落ち着きがなかった。かなり自信があるからこそ、日本チームのみんなが早く結果を知りたいと思っていた。
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