第141話 優勝チームは

 世界料理大会の審査が終わって、翌日。会場では表彰式が行わていた。俺たちは、表彰台の一番高い位置に立っていた。


 つまり日本代表チームは、今大会で1位を獲得した。


「おめでとう!」

「ありがとうございます」


 日本チームを代表してリーダーが、大会委員長から1位を祝福してくれるメダルを受け取る。彼は、1位という結果を聞いてからずっと熱い涙を流して喜んでいた。


 他のメンバーも自分たちのチームが1位という結果を聞いて、みんなで握手を交わしたり、手をたたいて喜んだりした。


 世界料理大会で日本が1位になったのは初めてで、過去の成績でも最高は5位だ。俺たちのチームが日本初の快挙を達成した。それどころから、アジア諸国を含めても初の1位である。


 他のチームは強豪ばかりで、本当に優勝するのが難しいレベルだった。今回は特にアルドがリーダーを務めるフランスチームが強敵だった。彼らの結果は2位で、少しの差で勝つことが出来た。小さなミスが一つでもあれば、結果は逆になっていたかもしれない。それぐらいの僅差だったと思う。


「レイラ、おめでとう! 悔しいが、君たちの勝ちだな。しかし、次は負けないぞ」

「ありがとう、アルド。また、戦いましょう」




 優勝が決まって表彰式でメダルを受け取ると、各国のメディアが一気に殺到した。祝福されつつ、インタビューを受ける日本代表のチーム。各メディアへの対応をしているうちに、帰国の便を逃してしまうほどだった。


 引き止めてまで必死になってインタビューを続けたフランスの新聞社に、代わりの航空券を用意してもらった。お詫びの気持ちも込められていたのだろう、来たときに乗った飛行機の席よりも上等なクラスの座席を全員分用意してくれていた。


 大会で優勝も出来たので、帰りに乗った飛行機はものすごく快適だった。




 日本に帰ってくると、空港には沢山の新聞社の記者たちや、各テレビのスタッフがカメラを構えて、俺たちの到着を待ち構えていた。


「世界大会は、いかがでしたか?」

「優勝した今、どういった気持ちですか?」

「勝因は、何だと思いますかッ?」

「1位となった気持ち、誰に伝えたいですかぁ?」


 帰ってきたばかりの俺たちは、バシバシとカメラのフラッシュを浴びさせられた。もみくちゃにしながら無理矢理マイクを向けてくる、インタビュアーたち。彼らは、大会で勝利した気持ちをしつこく聞いてくる。


 俺はサッと集団の中から離脱して、大会に参加した料理人のメンバーではなくて、サポート役のみんなの中に混じって難を逃れた。大変そうにしながら笑顔を浮かべてインタビューを受けるチームリーダー。


 空港でのインタビューは1時間も続いて、ようやく解放された。世界大会で疲れて移動でも疲弊したというのに、大変そうだった。




「おめでとう、レイラ! 娘として誇らしいよ」

「本当に凄い。おめでとうレイラちゃん!」


 家に帰ると、結果を知っていた両親が祝ってくれた。2人とも、喜んでくれているようだ。既に、大会で優勝したという情報を聞いていたらしい。


「おかえりなさい、レイラ」

「うん。ただいま」


 彼女のカレンは、おかえりと言ってくれた。ようやく、世界料理大会で1位という達成感を味わえた。




 その後、俺は家でゆっくりと休んでいた。


 テレビで放映されているニュースを見ると、チームリーダーと、メンバーを集めた安川さんにも注目が集まっているようだった。他のメンバーや、俺にインタビューの依頼は少なかった。


 特に俺は、まだ22歳の若造だったから。世界一の料理人としての説得力が少ないようだ。なんだか、最弱の勇者と呼ばれていた頃を思い出した。


 とある記事によると、経歴が怪しく、まだ料理人としての経験が足りていない俺が世界料理大会にメンバーに選ばれたのはオカシイ。誰かのコネで、大会に参加させてもらったに違いない、とゲスな勘ぐりで俺を批判してくるメディアもあった。


 その記事を見た瞬間から俺は、そのメディアからのインタビューは、今後一切拒否して受けないようにすることに決めたりしていた。メディア対応は、すごく難しい。


 インタビュー以外で他にも変な依頼があった。水着姿の俺を写真に撮りたいとか、芸能界デビューの話とか、低俗なバラエティ番組への出演依頼とか。他にも色々と。それら全てを俺は断った。世界料理大会とか、料理と関係がないから興味もない。




 日本に帰ってきてから1週間後。世界料理大会に参加したメンバーと、サポートをしてくれていた人たちが集まって、祝賀会が行われた。その際にも、メディア対応についての話になった。


「すまない。みんなの功績を私一人が奪ってしまったような形になった。世界1位はみんなが協力して得た結果だというのに。特に、今回の大会で最大の功労者だった、レイラには本当にすまないと思っている。君の手柄を奪ってしまった」

「いいんですよ、リーダー。私は世界で1位になれたっていう称号を得られたので、十分に満足しています」


 俺たちもそうです、と同意するチームメンバーたち。俺は特に無視をされたり、散々な評価をされることには慣れていたので、全然平気だった。手柄を譲ることにも慣れている。


 むしろ、注目を浴びて面倒事を引き受けてくれているリーダーに感謝している。


 あの時と同じく、世間から評価されると同時に面倒なことを引き受けてくれている彼には、とても助かっていた。そして、リーダーと同じように面倒事を対応してくれている安川さんにも。


「とにかく今は、世界で1位のチームになれたことを喜び合いましょうよ」


 祝賀会の目的は、大会で優勝出来たことを喜び祝う。そのために今日は集まったのだから。眉間にシワを寄せていたリーダーは、表情を笑顔に変えてグラスを持った。


「それもそうだな。それじゃあ、みんなでカンパーイ!」


 リーダーの号令で、みんなは持っていたグラスを空中に掲げた。その場に集まった全員が、喜びの笑顔を浮かべている幸せな雰囲気。


「「「「乾杯」」」」


 みんなで優勝を祝い、楽しい時間を過ごした。

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