第139話 久しぶりの再会

 世界料理大会の参加者である日本代表チームと、サポートスタッフの合計20名で飛行機に乗り、フランスの空港に到着。これから大会の運営が用意をしてくれているというホテルに全員で向かう。




「おーい!」


 空港で誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。声がした方に視線を向けるとビシッと決めたスーツ姿の懐かしい人物が、笑顔を浮かべて手を振っているのが見えた。


「レイラ、久しぶりだな!」

「アルド! 久しぶりです。どうしてここに?」


 俺は彼に駆け寄って、再会の挨拶を交わす。


 俺がフランスに滞在していた頃に、数カ月間だけ働いていた料理店の店長アルドがそこに居た。彼にフランス料理の技術を教わったおかげで、格段に俺の料理の腕前が上がっていた。まさか、フランスに到着してすぐに再会できるとは。


「実は、私もフランス代表として今回の大会に参加する予定なんだ。それで、日本の代表チームに君の名前を見つけてね。同じく、大会に参加することを知ったんだ」

「なるほど、つまりライバルですね」


 わざわざ会いに来てくれたらしい。しかし、これは強敵になりそうだなと感じた。彼には、フランス料理の真髄を教えてもらう対価として魔力を操作する技術を教えている。その力を使えば、調理の腕に加えて自分の力でも料理の味を上げることが可能だったから。


「あぁ、いい勝負をしようじゃないか。大会の運営が用意してくれているホテルに、君たちを案内するよ。こっちだ、ついて来なさい」

「ありがとうございます」


 ホテルがある場所まで案内してくれるらしい。もしかして日本代表チームの偵察に来たのかと思ったが、彼の正々堂々とした性格を考えると、ただ純粋な親切だろうと思う。


「レイラ、その人は一体? 我々を、ホテルまで案内してくれるらしいが」

「この人は、私が以前フランスに滞在していた時に働いていた料理店の店長です」


 今まで2人の会話を静かに見守ってくれていた安川が、関係を尋ねてくる。俺が、関係について明かすと驚く日本代表チーム。そんな彼らに、忠告しておく。


「おそらく、今回の優勝候補筆頭はフランス代表チームだと思われます」




 ホテルに向かう道中、アルドと会話をする。大会の様子や、他のチームの雰囲気について。フランス代表チームと日本代表チーム、お互いのチームのコンディションはどうか、等など。


 日本語を少ししか分からないアルドと、特殊能力によりフランス語が理解できる俺。間に入って俺が通訳しながら、アルドと日本代表チームのメンバーが会話を続ける。


「日本チームは今回も素晴らしいと聞いています。それに彼女もチームのメンバーということは、油断できませんね」

「フランスチームも、噂を聞いています。歴代最強の実力者揃いだと。正直、かなり手強い相手だと我々は予想しています」

「確かに、今回の大会は優勝を目指して準備をしてきたつもりです。優勝候補と言われているようなので、簡単に負けるつもりはないですよ」

「それは、こちらも同じ気持ちです。お互い全力を出しましょう」

「えぇ、もちろん」


 自分たちのチームの情報について、どちらも肝心な部分については隠すようにボカしながら。でも、大会で優勝する自信はあるという事だけはハッキリと相手に伝えて牽制する。




「それじゃあレイラ、今回の大会が良い思い出になるよう頑張ろう」

「ここまで案内してくれて、ありがとう。アルドも頑張って」


 ホテルの前に到着するとアルドは役目が終わったと、挨拶を交わしてさっさと立ち去った。彼も、フランス代表チームとの最終準備に向かったようだ。




 ホテルにチェックインして荷物を運び込むと、大会に向けた日本代表チームの最終打ち合わせが行われた。


 みんなで、持ってきた調理道具のチェック、スケジュールの再確認と体調の確認。大会本番での役割分担について最終確認していく。


 大会の参加メンバーは全員で5人。俺は、チーム全体のサポート役を任されることになった。


「君が若手だからといって、蔑ろにしているわけではない。むしろ君が優秀だから、他の人たちのサポートをお願いしているんだ。非常に優秀な役目だ。よろしく頼む」

「はい。よく理解しています」


 日本代表チームのメンバーは包丁さばきに特化した人に、盛り付けに特化した人、繊細な味の調整に特化した人が集まっている。


 世界大会に参加するに相応しい、超一流の腕を持つ人たちだ。


 しかし、一点だけを極めていて他の技術は一流の料理人程度。普通の大会ならば、それでも十分な実力がある。けれど今回は、世界大会である。


 足りない部分は、チームワークで補い合わなければならない。


 俺だけ、あらゆる方面で能力が高いと認められていた。つまり、各作業への理解が深い。サポート役にうってつけだと思われたようだ。


 その事を俺も、ちゃんと理解している。何の不満もなく、サポート役に徹しようと考えている。


「今回の大会、絶対に優勝できるように頑張りましょうね。何かあれば、気にせずに言って下さい。私も、大会中はみなさんに遠慮なく言います」


 俺の気持ちをみんなに伝えた。頷いて、了承するチームメンバーたち。




「最終確認は、これで十分かな」


 チームリーダーとなった安川が、日本代表チームの顔を一人ひとり確認しながら、声をかける。みんなが、大丈夫だと答えていく。準備は万端だった。


 一晩寝て明日になれば、もう世界大会が開催される日になるのか。大会への参加が決まってから、あっという間だった。よしッ、頑張ろう。




「それでは、明日の大会本番。優勝を目指して、頑張るぞ!」

「「「「おう!」」」」


 部屋の中に、日本代表チームの元気とやる気がたっぷりと含まれた声が響いた。

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