第138話 世界大会へ
世界大会に参加する気持ちは高まったけれど、まずはスカウトしに来た安川さんに俺の実力を認めてもらわないといけない。修行で得た実力を、彼に披露した。
「一緒に世界料理大会に出場して、優勝を目指そう!」
「え、はい」
俺が完成させた料理を一口だけ食べて、彼はあっさりと認めてくれた。思ったより簡単に認めてくれて拍子抜けしたけど、とりあえず安川と握手を交わした。まずは、大会への参加が決まった。ならば是非、優勝してみたいと思った。
その後、俺が出した料理を全て平らげた安川さんは、満足している様子だった。
大会への出場は、恋人のカレンにも伝えてある。
「凄いね、世界大会だなんて」
「確かに」
今まで人生の中で、大会やトーナメントに参加した経験は何度もある。けれども、世界大会という規模は初めてかな。カレンに言われて、改めて実感する。
「私も、レイラに負けないよう大学での勉強を頑張るよ。だから、優勝できるように頑張ってきてね。レイラは、これまで色々と祝ってくれたから。大会に優勝したら、今度は私が盛大に祝ってあげる。頑張れ!」
「ありがとう」
そんなカレンの声援で、一気に俺のやる気が高まっていった。なんとしても優勝を狙わないとな。
今回俺が参加する世界料理大会というのは、2年ごとに開催されている料理の腕前を競い合う一大イベント。そして今回、開催地がフランスだという。
シエル・ドゥ・ニュイで修行していた頃を思い出す。あれがもう、数年前の出来事なのか。時が過ぎるのは早い。
大会は各国の代表選手5名が協力しあって、制限時間内までに料理を完成させる。その調理過程や料理の盛り付け、味などが審査される。なので、料理の腕だけでなくチームワークも非常に大事だった。
22歳になったばかりの俺は、日本代表チームの中でも最年少。それだけでなく、今までに開催されてきた過去も全て含めて、世界料理大会に出場をする選手の中では断トツで若かった。最年少の参加記録を更新することになる。つまり、大会に参加をする選手としては、経験不足だろうから不利だと思われている。
大会に参加する選手の平均年齢は40歳。最年長は60歳の選手が居るらしいが、今までの最年少は30歳だった。俺は、異例の若手選手である。
だが俺は、世界を旅して料理の修行をしてきた。その経験というのは、他の誰にも負けないだろうと思える濃密さが有った。この経験と、鍛えてきた腕前を発揮する。
それでも俺の実力を認めて、チームに加えてくれた。世界大会に出場させてくれる権利を与えてくれた安川さんの面目も潰さないように、頑張らないと。
今回の大会に参加する仲間たちと合流して早速、料理の腕前を確認した。これから仲間になるので、お互いに出来ることを把握しておく必要があった。
流石、全国から選ばれて集められただけあり、みんなの腕前は非常に優れていた。だが、彼らの実力と比較して俺も負けていないと感じていた。
有名な料亭の板前、洋菓子で有名なパティシエ、昔からずっと人気のあるフランス料理店のシェフに、世界的にも有名なホテルの厨房で働いている総料理長が集まっている。そんなチームメンバーの中で、俺だけ町にある料理店の料理人。
しかし、肩書だけで勝負が決まるというわけではないから、俺は堂々としていた。周りの料理人たちも名声に頼ること無く、料理の腕だけで真剣勝負を挑み競い合い、お互いに高め合っていく。
お互いの実力を把握して、チームの役割が決まった。次は、料理大会本番に向けて準備が始まる。
「ここの食材は近年、味が落ちてきてる。別のを用意するべきだ」
「なら、こっちはどうです? 去年と今年、続けて豊作のようですから」
まずは食材選びから。真剣に議論して、俺も積極的に意見を出していく。
「味をもう少し、まろやかに出来ないかな?」
「それなら水の量を変えて、火に置く時間を調節しよう」
「そうすると味が濃くなってしまうので、こっちの味付けを変えて」
大会で提出する料理のレシピを見直し、細かな調整を加えていく。
「食材の盛り付けは、こっちの方が良くないか?」
「うーん。いや、それだと見栄えが少し悪くなるな。もう少し、横にズラして」
仕上げの盛り付けも大事になってくる。盛り付ける皿のデザインなども吟味して、バランスよく美しく飾る工夫も必要になっていく。最後まで気を抜かないように。
みんなで協力しながら、大会で提出する予定の料理を完成させていく。一つ一つ、確認をしながら隅の隅までチェックを怠らない。大会当日に慌てないように、色々と想定して完成品を仕上げていった。大会前日まで、みんなで集まって準備していく。
「レイラ、こっち手伝ってもらえますか?」
「はい!」
俺は主に雑用として、チームのみんなをサポートする役割を引き受けていた。この位置が、優勝するために一番適していると思ったから。
「すまない、レイラ! このソース、もう少し甘めに調整してくれ」
「わかりました!」
かなり頼りにされて、忙しくも充実した日々を送っていた。やりがいも感じているし、楽しく大会に挑戦できそうだ。
「盛り付けが、少し甘いな。レイラ、どうしたら良いと思う?」
「これは、こうですかね」
チームの中で1番若くて体力も有り余っているので、常に動いて彼らのサポートに徹した。誰かに指示されながら動くというのは、これまでの修行の旅で経験してきたことだから、慣れている。
けれど若手だからといって萎縮せずに、年上の仲間に対して臆すること無く自分の意見をガンガン主張していく。
「この味付けは、どう思う?」
「それならば、もう少し辛味を足していって、こうしたらどう?」
「なるほどな」
必要な場面で自分の技術を発揮して、みんなを納得させる。そんな感じで1ヶ月、世界大会での優勝を目指して調整していった。
大会参加への準備を万端にしてから、俺たち日本代表チームは優勝を目指して世界料理大会が開催されるフランスへ飛び立った。
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