第131話 理不尽なクレーム
悪いことは重なるものなのか。それともこれは、仕組まれたことなのか。
ある日、学校で呼び出しを受けた。何事だろうと思いながら行ってみると、呼び出された部屋の中には、担任と学年主任の先生が待ち構えていた。
2人とも、厳しい表情を浮かべている。その時点で、あまりいい話では無いだろうなと察しがついた。どんな話だろうか、何を注意されるのかな。警戒しながら部屋の中に入っていく。
「座って」
「はい」
学年主任は俺の顔を見ながら重々しく席に着くよう言ってきたので、俺は返事して静かに腰を下ろした。さて、何の話だろうか。間にテーブルを挟んで座ると、担任と学年主任の先生たちと正面から向かい合う。彼らの話を聞く体勢になった。
「君が先日辞めたというアルバイト先からクレームが入ったが、これは本当か?」
「どういう事ですか?」
学年主任に確認されるが、意味が分からなかった。俺が辞めたアルバイト先であるホテルエミールから学校にクレームが入ったらしい。いきなりそんな事を言われて、意味がわからなかった。どういうことだ。
詳しく話を聞いてみると、どうやら俺がアルバイト先のホテルで指示を聞かないで勝手に行動するので、担当者が注意したところ辞めると言い出した。それから職場に来なくなり、アルバイトとはいえ無責任にも職務を放棄して勝手に去ってしまった、ということになっているらしい。
「それは嘘です」
俺は、アルバイト先であった出来事を彼らに説明する。
なるべく私情が入らないように気をつけながら、順序を立てて分かりやすいように話した。職場の異動を命じられたこと。それは雇用契約に含まれない内容だから抗議したこと。その指示に従わない場合、もう職場には来なくていいとホテルエミールの責任者に言われたこと。
しかし、話し終えた後も2人は納得していない様子。担任の先生が口を開いた。
「それは嘘だな。なぜ向こうは、学生アルバイト1人が辞めた程度で嘘の苦情を? わざわざ、そんな事をする必要はない。ということは彼女が嘘をついて、今回の件を言い逃れしようとしているだけなんですよ主任」
「うーむ」
「この子は、学校での授業中の態度も悪いですよ。成績は良いかもしれないですが、常に反抗的で、人の話を聞こうとしない。教師として接していてきて、こんな生徒は初めてなんです。おそらく、ホテル側の言い分が正しいですよ」
まさか、ここまで担任の先生に嫌われていたとは思わなかった。一方的にホテルの言い分を信じて、学年主任の先生を説き伏せようと必死だった。今回の件に限らず、授業での態度や普段の生活についても悪かったと、話に出されて説明をされた。それも嘘だろう。
心当たりが全く無い事ばかりだ。どこから訂正していけばいいのか。それなのに、学年主任は担任の言葉を信じて、言いくるめられていた。
「ちょっと待って下さい!」
「いや」
弁解しようとするが、学年主任の先生は俺の言葉を遮る。話を聞こうとはせずに、厳しい口調で続けた。
「君がアルバイトしていたのは学校から紹介した職場。そこで問題を起こされると、本校の名に傷がつき、他の学生にも迷惑がかかることになる」
「そんな、私は――」
不服だった。話を聞かないで、何で俺が悪者にされて注意されているのだろうか。そんな感情が、そのまま表情に出ていたのだろう。俺が何か言い出す前に、再び遮るようにして担任の先生が怒り出した。
「何だ、その顔は! 少しは反省しろ」
反省しろと言われても、反省するべき点がないから。反省点を無理矢理にでも出すとするのならば、学年主任を納得させるような話し方が出来なかったことぐらいだろうか。とはいえ、話を聞いてくれないのだから無理な話かな。
「本校にとって迷惑になるような生徒は、それなりの処分を受ける必要がある」
「……」
学年主任が俺に向けて言い放ち、一方的な話し合いは終わった。
俺はアルバイト先で起こした身に覚えがない問題が原因で、自宅謹慎の処分を言い渡された。それだけでなく、遠回しに自主退学も勧められた。学校を辞めるように、誘導してくる。
その結果を聞いた担任の男は、表情を引き締めながら口元だけニヤリと笑っていたのが印象的だった。そんなに俺が、専門学校から去るのをお望みなのかな。そこまで嫌われた理由がわからない。一体なぜ学校を辞めさせようとするのか、謎だった。
自宅に帰って、両親に学校の件について相談する。黙っていても、学校から連絡が入るだろう。その前に、俺の方から勘違いされないように説明しておきたかった。
「なるほど、そんなことが」
「なんて酷い!」
ホテルエミールの件、学校で言われたことについて説明すると父親の啓吾は冷静な態度で、腕を組み唸った。母親の朋子は怒ってくれた。
2人はちゃんと、俺の話を聞いてくれていた。疑うこともなく、信じてくれた。
「それで、学校を辞めることになるかも。せっかく学費を支払ってもらったのに」
それが申し訳なかった。アルバイトで稼いだお金があるので、それを出せばいくらか両親が支払ってくれた学費は返せるかな。
「お金のことは心配しなくていい。それよりもレイラは、どうしたいんだ? まだ、あの学校に通いたいかのか、別の専門学校に入り直すのか。それとも学校を辞めて、別のことをするのか」
父親の啓吾が優しい口調で問いかけてくる。責められていないようなので、ひとまず安心する。そうだな、これからどうしよう。
「店のことや俺たちのことは考えなくていい。自分が幸せになれるようにすることを最優先に考えて、進路を決めたらいい」
「自分の気持ちに正直になればいいわ。居づらい場所から逃げ出しても、別に問題はないからね」
両親からのアドバイスを聞いて、俺は考える。
学校を辞めるとなると、クラスメートたちと別れることになるのが残念である。
しかし、これから先も無理に通い続けても、学校の大人たちと合わせると嫌な気分になるだけだろうし。あの学校に在学し続けて、絶対に学びたいという知識もない。
よく考えたら、学校を辞めてもクラスメートと連絡すれば今後も会うことは出来るから。辞めてもいいかな。考えれば考えるほど、あの学校に通い続ける理由がない。
両親2人に相談して、結論を出す。俺は、通っていた学校を辞めることにした。
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