第128話 調理師専門学校に通う生活
中学を卒業すると、プロの料理人を目指して必要なスキルを学ぼうと調理師の専門学校に入学した。そこで俺は、和食・日本料理という学科を選択する。新たな調理の技術と知識を学ぶために。
クラスメートは、30人ちょっと。男子の数が多かった。だいたい8対2で女子が少な目である。
小学生や中学生の頃にクラスメートだった男子たちと違って、料理人になるという夢を持って学校に来ている人が多い。皆で協力して、一所懸命に学ぼうという温かい雰囲気があった。同じ目的を持つ者たち同士で、男女関係なく皆で仲良くすることが出来た。
普通に接してくれる男子たちを見ていると、小学校や中学校が異常だったんだろうと思った。
そして、クラスメートの女子たちとも仲良くなっていた。今回も、友人関係として親しくなった。
クラスメートたちと一緒に授業を受けて、実習もして調理法について学んでいく。小さい頃から家の手伝いで鍛えてきた俺は、既に身についていた技術も多かった。
「赤星さんってもしかして、あの美人集団で有名な?」
「美人集団?」
「とっても有名だよ。ちょっと都会で、あの有名な建物と駅のある近くの地域の」
「あー、うん。そうかもしれない」
親しくなったクラスメートの女子たちに、そんな話を聞かれた。美人集団とは何。場所を聞いてみると、俺が住んでいる所だった。かなり有名な噂になっているらしい。そんな事になっているなんて、知らなかったな。まさか、違う学校の人たちにも知られているなんて。
しかし、美人集団なんて呼ばれていたとは、恥ずかしい。
俺が一員だったと肯定するのをためらいながら、そうだと言う。すると彼女たちの目が光り輝いた。興味津々という表情。
「やっぱり!? 赤星さん、すごく美人だもの!」
「そのぉ……、私たちにも、美人の秘訣というものを教えてくれないですか?」
「どうか、お願いします! 私たち皆、美人になりたいんです!」
心の底からの褒め言葉。純粋に興味を持って教えを請う女子たち。いまにも土下座して、お願いしてきそうなほどだった。それだけ必死に美しくなるための方法を求める彼女たちには、俺が今まで学んできた美容の知識を快く教えることにした。
「うん、いいよ。私が教えられることならね」
了承すると、女子たちが湧き上がった。
「キャー! ヤッター!」
「ありがとう、赤星さん!」
「早速、その秘訣を教えて下さい!」
クラスメートの女子たちが殺到する。そして、ここでも新たな女子コミュニティが出来上がった。
料理のプロを目指して、日々頑張っている皆。授業時間だけでなく、自習して腕を磨く学生も多い。朝早くから学校に来ると、調理スペースが広くて機材が揃っている教室で練習をする事が出来る。
皆で早い時間に学校へ来て自主練をする。1人だけだとサボってしまうので、仲間たちで協力して腕を競い合う、という目標を定める。
それと同じぐらいの熱量で、美容に関する知識の勉強に集中する。美しくなるために、女子たちは真剣に取り組んでいた。俺が今までに学んできたことを、彼女たちに教えて実践する。
学校の授業は調理法の授業だけでなく、健康に関することや栄養学など興味深い講義を受けることが出来た。健康な状態を維持するために必要な食生活についてを学ぶ。この知識は、今後の人生にも役立ちそうだった。
この調理師専門学校に入学した選択は、正解だっただろう。
しかし、1つだけ失敗したことがある。失敗したというか運が悪かったというか。理由は分からないが、なぜかクラス担任の先生が学校を辞めさせようとしてくる。
「赤星。お前は、まだこんな学校で料理の勉強なんかしてるのか?」
「もちろんですよ。実家の料理屋を継ぐつもりなので、ちゃんと勉強しないと」
「もったいない。そんな事をするよりも、お前に向いている仕事があるぞ。そっちを目指したほうが、絶対にいい。業界に知り合いが居るから、紹介してやろうか?」
「結構です」
「何で断るかな。絶対に、そっちのほうが良いのに。あぁ、もったいないなぁ」
男性の先生だが、なぜか会うたびに嫌味を言われる。そして俺が料理人を目指して勉強しているのに、それを貶してくる。学校を辞めさせようとして、変な道に誘おうとしてくる。何故か他の女子には何も言わず、俺だけが言われていた。彼は本当に、学校の先生なのか。信じられないような言動が多かった。
一応、他の先生にも相談したけれど、あまり効果はなかった。どうやら、学校内で彼の評判は良いらしい。それも、信じられなかった。世渡りが上手いということなのかな。
実害が出るまで、対処してもらえないようだ。もう十分に、害だと感じているんだけどな。それだけじゃ、ダメらしい。
どこに行っても、合わない人と巡り合ってしまう。力を使って強引に排除することも出来ない。やりすぎると、俺のほうが悪者になってしまう。それが、この世界の難しさだと感じていた。学校を卒業するまで、面倒が起きないように避けていくしかない。
カレンと通う学校は別になったけれど、毎日のように連絡を取り合っているので、あまり離れているという感覚は無かった。時間が合えば学校が終わった後に会うこともあるし、休日には彼女とデートで色々な場所へ遊びに行ったりしていたから。
休日のデートは一緒に買い物したり、美味しいものを食べたり、映画を見たりして楽しく過ごしていた。
そして家に帰ってくると、俺が彼女に手料理を振る舞う。
専門学校で習ったばかりの知識を最大限に活用して、彼女のために料理を作った。今日は天ぷらと、土瓶蒸し。授業で習った秋の京料理を披露する。今回も、かなりの自信作である。
「うん。今日もレイラちゃんの料理は、とっても美味しい」
「よかった」
カレンが、ゆるゆるな表情を浮かべて俺の料理を堪能していた。普段は他の人には絶対に見せないような顔。俺はカレンの目の前に座り、彼女の表情を眺める。料理を振る舞った俺は精神的に癒やされる。彼女の、そんな表情を見るために料理を覚えたと言っても過言ではないだろう。
「……」
「おかわりする?」
食べ終わった後、お皿をジッと見つめるカレン。物足りなかったかな。おかわりをするか聞いてみた。
「うーん。でも、これ以上食べちゃうと太っちゃう気がする」
「じゃあ、後で一緒に軽く運動しよう。そしたら、消化できるはずだから」
心配するほどカレンは太っていない。けれど女の子として、気になるのだろうな。後で運動して消費するというのはどうかと提案すると、彼女は頷いてお皿を俺の前に差し出した。やっぱりまだ、食べたかったらしい。遠慮する必要はないよ。
「えっと……。じゃあ、おかわりしちゃおう」
「どうぞ、召し上がれ。俺も、おかわりをしようっと」
2人で、たくさん食べた。その後は、ちゃんと体を動かして体重が増えないように対策しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます