第126話 モテ期
「ふぅ」
今日も女子たちに囲まれてしまいそうになった所を、なんとか逃げ切った。今は、落ち着いて1人でベンチに座っている。
そこは、様々な木が植えられている公園で、軽く運動するのにも良さそうな広場。ベンチの背もたれに体を預けて、思いっきり伸びをする。
指先からつま先まで、グーッと伸ばして脱力。空には雲ひとつない晴天が見えた。
太陽の光が心地よくて、このまま眠ってしまいたいと思った。
「いたいた」
すると、そこにカレンが現れた。彼女は俺を見つけて、小走りで駆け寄ってきた。そのまま、ベンチに並んで座る。
「大変だね。女子たちに、モテモテだ」
「そんなに俺って、モテてる?」
「うん。女子たちから、すっごく人気だよ」
隣りに座っているカレンに尋ねてみると大きく頷いて、そんな答えが返ってきた。すごくを強調して彼女は言う。そんなになのか。
「だってね」
続けてカレンは語った。俺が人気である理由について。
身長は高くて、顔もカッコいい。優しいし、運動神経も抜群で頭も良い。気遣いも出来るし、作ってくれる手料理は美味しい。リーダーシップを発揮すると女子の皆が言うことを聞いて、様々な課題も協力して解決してこれた。身を委ねても大丈夫だと感じる安心感があるし、それを果たしてくれる責任感もある。頼りがいがあった。
「こんなの、誰でも好きになるよ」
「……」
そんな人物なんだからモテるのは当たり前だと、カレンから懇切丁寧に説明されるのを聞かされる俺。何も言えなくなり、顔も熱くなった。
周りから、そんな風に評価されていたのか。自分でも、評価されていることには薄々気付いていた。だが、そこまでとは思っていなかった。
それはまぁ、周りの人と比べて今まで経験してきた場数が違う。どんな人よりも、俺は経験豊富だろう。だから、そんな風に周りから評価される実力を持っているのは当たり前なんだと思う。それが、俺にとっての普通だと思っていた。
それが、彼女たちの恋愛感情を育んでしまった。
「気付いてなかったの?」
「いや、気付いてはいたけど……。そこまでか」
「そうだよ」
カレンが少し呆れながら聞いてきたので、俺は恥ずかしさを感じながら頷いた。
どうやら、父親の啓吾と同じような事をしていたようだ。周りから向けられている好意について、俺は正しく認識していなかった。
いや、好かれているとは思っていた。だが、それは友情みたいなものだと思い込むようにして、逃げてきたのかも。
同性だったから。本気の恋心を抱かれるだなんて思わないから、今まで深く考えてこなかった。
そうか。そういう恋愛観もあり得るよな。
異性との恋愛は何度も経験があるけれど、同性はまだ経験が無かった。だからこそ今まで、深く考えなかった。という、言い訳。
「どうする?」
「うーん」
あの女子たちと、これからどう付き合っていくのか。
考える。ほとんどの女子たちは、身近にいるクラスメートの男子たちに失望して、俺に好意を向けてきた。そんな理由で、好きになっているんだけなんだと思う。まだ若い彼女たちはこれから先、他の男性と出会えたなら新たな恋をするだろう。
だから彼女たちとの接し方については、今までと変えなくても大丈夫だと思った。時間が解決してくれる問題。だがしかし、俺の横に座っているカレンは。
「カレンも、俺のこと好きか?」
「もちろん!」
群がる女子たちに混じって本気で主張していたカレン。あの気持は本物だと思う。それも友情ではなく恋愛感情として。本人に直接、それを確かめてみる。
「恋愛感情として?」
「うん!」
ストレートに聞いてみると、彼女は力強く即答した。少し顔を赤らめながら。その気持ちは、本気のようだった。俺も彼女と一緒に過ごしてきて好きだと思っている。それは、友人としての好きである。でも、今の俺が男だったなら迷うことなく彼女と付き合っていたかもしれない。
違うな。男とか女とか、性別を考える必要はないのか。俺が好きなのか、どうか。カレンは好きだと素直に告白してくれた。ならば俺も、答えを出さないといけない。
「わかった。それじゃあ、付き合おう」
「ほ、ほんとに?」
俺は、覚悟を決めた。
「カレンが今感じている気持ちが、中学と高校を卒業してから変わらないままなら、その後の人生は俺とずっと一緒に居てくれ」
「ッ! ……はい!」
覚悟を決めて、カレンに告白をした。これから先の人生を、一緒に生きていこうと俺の気持ちを伝える。しかしまだ、彼女は中学生だ。とても若いから、自分で人生について判断ができる年齢になるまでは待とう。その時になってから改めて、カレンの気持ちを聞けばいい。
おそらく今のままの関係を続けていけば、彼女の気持ちも変わることはないかな。それまで彼女を大事に出来る自信が、俺にはある。でも、けじめはつけよう。
その間に、家族への報告や誰にまで俺たちの関係を打ち明けるべきなのかを真剣に考えておく必要があるだろう。女同士で、本気で付き合っていくために。
同性愛というのが、今の日本でどう扱われているのか俺は知らなかった。ちゃんと調べておかないと。色々と障害があるかもしれない。俺も初めての経験だったから、大変そうだ。
けれど、彼女と一緒に過ごす決意をした。障害を乗り越えるためにも、高校を卒業するまでに備えていこう。
1人の女性を養って生活していけるように、働かないといけないな。何をして金を稼ごうか。
将来のことを考えてみた俺は、料理人を目指してみようと目標を立てた。友達に、料理を振る舞うことが楽しかった。それを仕事にできたら最高だと思う。いつかは、父親の店を継ぐことになるかもしれないし。そんな将来に向けた準備が、今から必要になるだろうから。早めに、動き出した方が良いだろう。
「よろしくね、カレン」
「よろしくお願いします、レイラちゃん」
公園のベンチに並んで座って、将来を約束した俺たち2人。
改めて俺は、嬉しそうに笑顔を浮かべているカレンによろしくと言った。これから先も、ずっと一緒に居ようという気持ちを彼女に伝える。
まさか彼女と恋人関係になるとは思わなかったが、カレンと付き合うという判断に後悔は一切無かった。
俺とカレンの関係について、仲間の女子たちにも遠回しにだが伝えてみた。すると彼女たちは、あっさりと受け入れてくれた。お祝いの言葉を掛けてくれて、応援までしてくれた。そして、今までの激しいスキンシップについては収まった。今も変わらず、慕ってくれているのを強く感じるけど。
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