第125話 見返してバイバイ

 呼び出しを受けたのは、俺だけじゃなかった。カレンも同じように、男子の一人に話したいことがあると、呼び出しを受けていた。


「じゃあ、行ってくるね」

「気を付けて」


 心配で俺も一緒についていこうとしたが、とりあえず今回は自分で解決してみると言って、カレンは1人で行ってしまった。


 一緒に行ったほうがよかったかな。彼女の帰りを待つが、落ち着かない。こっそり確認しに行こうかな。でも、カレンは1人で解決すると言っていたから。信じて待つべきか。うーん。もうちょっとだけ待って、帰ってこなかったら様子を見に行こう。


 何事もなければ、いいんだけど。そう思って彼女の帰りを待っていると、カレンが戻ってきた。表情は普通。特に、問題は無かったようだけど。


 俺は、戻ってきたカレンに問いかける。


「どうだった?」

「告白だったよ」


 やはり、そうだったのか。なぜか男子生徒の間で流行っているらしい告白。でも昔、カレンをイジメたという事実を彼らは忘れているのか。受け入れるわけがない。女性として魅力的なカレンと付き合いたいと思う気持ちは、よく分かるけれど。


「告白は、どうしたの?」

「もちろん、断ったよ。だけど私が断ったら、告白してきた男の子が怒っちゃって」

「断られたら怒るなんて、酷い男だな。そんなの、断って当然だ」


 カレンの言葉に、俺は耳を疑った。そして呆れた。どいつもこいつも勝手だなぁ。


 まさか、告白を断られたからと逆上するだなんて。そんな男が居るとは。やっぱり俺も、カレンと一緒に行った方が良かったかもしれない。後悔する。


「大丈夫だったの?」

「うん。レイラちゃんに教えてもらった方法で、投げ飛ばした」

「えぇ!?」


 よかった。念の為にと、美人に成長したカレンに自分を守る方法を教えておいた。その技術が役に立ったようだ。というか、彼女に告白した男子は投げ飛ばされるまで迫ったのか。


 カレンはショックを受けた様子は無かったし、怪我も無いようなので安心する。


「それで逃げてきた」

「オッケー。本当に無事で良かったよ。その男子生徒がやった事は、覚えておこう。他の皆にも注意しておく」

「うん、そうだね」


 女子に暴力を振るう。そんな男子生徒が居るなんて信じられない。他の女子にも、情報を共有しておいたほうが良さそうだ。引き続き、男子には気をつけるように。


 先生に報告しておこうかな。なんとなく、報告しても意味がないような気がする。小学生の頃から、学校の先生に対して信頼できなくなっている。自分たちでなんとかしないといけない、と感じるのだ。


「まぁ、それはいいとして。どうだった?」

「かなりスッキリしたよ!」

「うん。良かった」


 小学校の頃にイジメてきた男子にちゃんと、ギャフンと言わせることが出来たようだった。これで、完全に目標達成だ。


 中学生になり、これから楽しい学校生活が始まるのだ。だから嫌なことは忘れて、これからのことを楽しもう。


「目標は達成したけれど、せっかくだから女磨きは続けていこう」

「もちろん! これからもずっと一緒に頑張ろうね、レイラちゃん」


 今まで磨いてきた自分を、さらに鍛えて女性としての能力を引き上げていく。次の目標は、どうしようかな。




 男子からのイジメについて、一旦の終止符を打つことが出来たと思う。だが、別の問題が巻き起こった。その問題というのは、俺が仲間の女子から慕われすぎている、ということ。


「ねぇねぇ、レイラさん!」

「ちょっと、近寄り過ぎじゃない?」

「貴女は離れなさいよ」

「レイラは、私の!」

「あ! ずるい。私もレイラさんに触りたい」

「私も!」


 多くの女子たちに囲まれて腕を取られている。なぜか、その筆頭にカレンが居た。彼女は俺と腕組みをして、周りにいる女子たちに見せつけるように俺の所有権を主張する。


「ちょ、ちょっと。皆」


 離れようとするが、離してくれない。同性とはいえ、距離が近すぎるぞ。


「いいなぁ」

「レイラ様ぁ」

「カレンさんもレイラさんも、2人ともすごい美人。私もあんな美人と」

「私も、近くに行って話したいな。でも、私なんかが話しかけて迷惑かも」

「羨ましいなぁ」


 俺を取り囲む女子たちの集団から少し離れた場所には、騒ぎに混ざるのは遠慮して様子を見守っている女子たちもいる。羨んだりする声が聞こえてきていた。


「落ち着いて!」

「「「はい」」」


 俺の大声により、その場は一瞬で静まった。まとわりついてくる女性たちを、声で抑える。


 言うことは聞いてくれるようだ。一旦、騒ぎは収まったがどうしようか。その時、カレンが口を開いた。


「レイラは、誰と付き合うの?」

「え?」

「選んで」


 カレンが俺の顔を覗き込んで、問いかけてくる。というか、いつの間にそんな話になっていたのか。今まで彼女たちと一緒に過ごして努力をして自分磨きをしてきて、この中の誰かと付き合うとか、そんな事は考えたことが無かったが。


 もしも俺が男の体だったなら、この中の誰かと付き合うことも考えていただろう。だけど今の俺は女の体であり、レイラだったから。


「どうするの? この中の、誰を選ぶの?」

「とりあえず今は、保留で」

「えー」


 答えを出さない俺に、不満の声を漏らすカレン。取り囲む女の子たちも残念そうな表情をしていた。


 問題の先送りをする。これから先、俺は男性と付き合うつもりはない。それなら、やっぱり同性である女性と恋愛していくことになるのかな。

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