第124話 変化した状況

 学年が上がり、皆が成長していく。身体的にも精神的にも。非常に順調な成長だ。その結果、俺たちの周りには常にキラキラとした明るい雰囲気が漂っていた。


 それに比べてクラスメートの男子側は、どんよりとした暗い雰囲気だった。学年が上がっても、その悪い雰囲気は変わらず続いている。


 本人たちは気にしていないつもりかもしれないが、周囲の人間からすれば丸わかりだろう。それぐらい、女子と男子で雰囲気が違っていた。


 男子から謝罪があれば、彼らを救うことも考えていた。今までの行いを反省して、心を入れ換えるなら、俺も許そうと思っている。それまでは、厳しく対応していく。今のところ、男子からの謝罪はない。だから、俺たちから仲直りする努力はしない。


 彼らは、近寄ることすら遠慮するようになった。あれから面と向かって酷いことを言ってきたり、嫌な目で見てくることも無くなった。ムキになって対抗することなく、目的を果たすことが出来ていた。


 そんな彼らは、離れた所からチラチラ見てくるだけ。興味はあるみたいだ。でも、関わることはない。


 そもそも自分を磨くのに夢中で、男子のことなんて気にしていられないのだ。今の彼女たちは、自分を高めることに集中している。


 学年が上がっても変わらなかった担任の先生は、そんなクラスの雰囲気に気付いているはず。それなのに、何も言わずに放置していた。やはり、信用できない。


 何か問題があれば、仲間に報告する約束を交わした。今のところは、何も起きずに済んでいる。このまま女子たちは、平穏無事に過ごしたいものだ。


 男子と女子の対立が、水面下で激しくなっている。それでもやっぱり、男子からの謝罪はない。今の状況は、まだまだ続きそうだった。




 そんな状況の中、俺は話し方について深谷朋子先生から指導された。


「やっぱり、俺って言うのはダメかな」

「ダメじゃないけど、大きくなった時に色々と言われて面倒かもしれないから、今のうちに覚えておいたほうが、ね」

「そっか」


 男っぽい話し方をするのを、変えたほうが良いらしい。今は良くても、社会に出た時に後悔することになるかもしれない。女性としての話し方を身につけておいたほうが良いだろうと、アドバイスしてくれた。


「レイラちゃんは、俺って言ってる方がカッコいいよ」


 横で話を聞いていたカレンが、褒めてくれた。


「そうかな? ありがとう」

「私も、今のレイラちゃんの話し方が似合ってると思うよ。だから、時と場合を考えて使い分けられるようになれば良いわね」


 男として生きてきた記憶が膨大に有るので、ついつい男言葉が出てしまう。これは意識して、今の自分に合った話し方を覚えていかないとな。朋子から言われた通り、時と場合を考えて使い分けられるように。


「レイラちゃん」

「ん? どうしたの、カレンちゃん」

「私と一緒の時は、今のカッコいい話し方をしてほしいな」


 カレンに上目遣いで、可愛らしくお願いされてしまった。こんな風に頼まれると、断れないよね。


「うん、分かったよ」

「やった」


 嬉しそうな表情を浮かべている。可愛い笑顔だなぁ。癒されるよ。ということで、カレンと一緒の時は今の男らしい話し方で居るようにする。それ以外は、今の自分に合った話し方に切り替える意識をするようにした。




 その後もクラスメートの皆で集まって女磨きの方法を学び、成長する日々を送っている。そうしているうちに小学生の時代が終わり、俺たちは中学に上がっていた。


 その頃になると、これまで学んできた自分を美しく見せるという知識や技術、経験などが一気に実を結ぶ。学校や街でも噂になるほどの美人集団。周囲から高い評価を得ていた。


 中学生になると、今までの雰囲気がガラッと変化した。やはり、小学生から中学生になるのは大きな節目なのだと感じた。




「な、なぁ、赤星さん。ちょっと、話したいことがあるんだけど、いいかな?」

「なんですか?」


 今まで関わることが減っていた男子の1人から、急に話しかけられた。彼は緊張した様子で、何か言いたいことがあるらしい。


「ここでは、ちょっと」

「わかった」


 周囲を気にしながら、彼は小声で呟いている。一体何の用事なのか知るため、誰も居ない場所へ移動することにした。彼と一緒に校舎裏へ。


 なんとなく、予想はついているけれど。




 到着した途端に、彼が口を開いた。顔を赤くして、モジモジしながら。


「な、なぁ。俺たち、つ、付き合わねぇ?」

「え? 嫌ですよ」


 いきなり告白された。すかさず俺は、バッサリと斬るように断った。告白を受けるかどうか、考える時間も必要ない。


「……はっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! どうして断るんだよ!」


 断られたことに動揺したのか、男子生徒が声を大きく張り上げる。どうしても何も付き合うなんて、あり得ないでしょう。


「忘れたのですか? 貴方が昔、私に向かって暴言を吐いたこと。母のことまで悪く言ったことも。私は、今でも許していませんから」

「あ」


 彼は口を開いて、ポカーンとしていた。そして、自分がやったことをようやく思い出したのか、気まずそうな顔に変わっていく。


「そ、それは、ごめん。悪かったと思ってる。でも、あの時の俺は小さくて――」

「私を呼び出した用件は、それだけですか?」


 そんな適当な謝罪で、言い訳しようとしている。男子生徒の言葉を遮って、冷たく問いかけた。


「ぁ、うん」

「では、失礼します」

「ちょ、ちょっと待って! せめて、友達から――」


 呼び止めようとする声を無視して、私は自分の教室に戻った。まだ諦めずに、友達から始めようと迫ってくる彼。これ以上は面倒そうだし、やっぱり関わりたくない。


 小学生の頃からの、遠く離れた関係は継続で。

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