第122話 対処するための方法
「ただいま」
「おかえり。お、友達も連れてきたのか」
「こ、こんにちは」
カレンを家に連れてきた。店に居た、夕方の仕込みの準備をしていた父親の啓吾に帰ってきたと伝える。そんな俺の後について、恐る恐る店の中に入ってくるカレン。
「彼女に、おやつを作ってあげても良い?」
「いいぞ。材料は店のじゃなくて、家のを使うようにな」
「うん。わかった」
父親に許可を貰った。そして、自宅の方にカレンを連れて行く。
「カレン、こっち」
「う、うん」
リビングの椅子に彼女を座らせると、俺は冷蔵庫に残っていた食材を使って簡単なおやつを作り始めた。俺が今までに学んできた、調理の知識と技術を駆使して作る。本題に入る前にまず、これを食べてカレンに元気を出してもらおうと思った。
「わぁ、美味しい!」
「よかった。飲み物もあるよ」
「うん!」
チョコチップが入った、蒸しパン。
薄力粉とココアパウダーを混ぜ合わせて、その中にチョコチップと魔力を加える。レンジで3分半ぐらい加熱したら完成する、意外と簡単に作ることが出来るおやつを振る舞った。
同級生に手料理を食べてもらったのは、彼女が初めて。ちょっとだけ緊張しながらカレンの反応を見ていたら、美味しいと言ってくれたのでよかったと安心する。
彼女も笑顔になって、作った甲斐があったと思う。
それじゃあ、次はメインのお話。クラスメートの男子をギャフンと言わせるための計画を考える。それには俺とカレンだけではなく、協力してくれる人が必要だった。
深谷朋子に電話をする。確か今日は、仕事がお休みだったはず。休みの日に連絡をするのは申し訳ないと思ったが、思い切って彼女に頼ってみた。
「もしもし、朋子さん」
「あら、どうしたのレイラちゃん?」
「いま話せる?」
彼女はすぐ電話に出てくれた。朋子に話せる時間があるかどうかを尋ねる。
「ん? 大事な話?」
「とっても大事な話」
声のトーンから何かを察する朋子さん。その通りだと言うと、彼女は電話の向こう側で少し考えた後にこう言った。
「なら、そっちに行くわね。家に居るの?」
「ありがとう! 家に居るよ。俺の友達も一緒なんだけど大丈夫?」
ちゃんと話を聞いてくれるようだ。わざわざ家に来てくれるらしい。俺は、彼女の厚意に甘えることにする。
「大事な話に関係あるのね。わかった、すぐ行く」
「うん。待ってる」
ということで、深谷朋子に家へ来てもらうことになった。彼女にこれからのことを相談する。
俺が深谷朋子に電話をして、わざわざ家に来てもらった。リビングで向かい合った女3人での話し合い。
まずは、カレンを紹介する。そして学校であった出来事を朋子に詳しく説明した。状況は理解してくれたようだ。
「学校でそんなことがあったのね。それで、どうやって女の子に向かって酷いことを言うような男子を、ギャフンと言わせるつもりなの?」
先ほどの事情を離すと、朋子が興味を持って質問してきた。俺は考えていた計画を説明する。カレンにも初めて話す、これからの計画について。
「彼らに注意しても聞いてくれないだろうし、暴力で何とかするのもカッコよくないから別の方法。あいつらが悪口を言えなくなるぐらいに、可愛くて美人になってやるってのはどうかな?」
今でも十分に可愛いカレン。さらに可愛く、美人になって奴らに悪口を言われてたとしても聞き流せるようにする。今後の人生のためにもなるだろう自分磨きをして、努力した結果を彼らに見せつけて、何も言えないようにしてやる。
真っ向から対抗するのではなく、自分たちのことに集中する。彼らのことなんて、目に入らなくなるぐらい。そんな作戦を説明した。
「なるほど。だから、私を呼んだのか」
かなりの美人であり、美容関係の仕事にも就いている朋子に教えを請う。俺には、その知識が無かったので詳しそうな人に教えてもらうことにしたのだ。
「協力してくれる?」
「うーん、そうねぇ」
大人である彼女は仕事も忙しいだろうし、タダで教えてもらうのは難しいだろう。だから俺は、朋子に対価を提示する。
「色々と教えてくれたら、俺の特製料理をたくさん振る舞うよ」
「レイラちゃんの手料理は、とっても美味しいからなぁ」
時々、朋子には俺の作った料理を食べてもらっていたから味を知っている。これで引き受けてもらえると思ったが、提示した手札が弱かったかな。なら、もう一つ。
「父さんとの恋愛関係を発展させるために、娘の俺が色々と手伝うよ」
「う」
もうずっと赤星啓吾の女性関係は停滞している状況だった。周りにいる女性たちの気持ちに気付かないまま、友人関係を続けていた。
母親が亡くなって悲しいのもすごく分かるけれど、周りにいる女性たちに何もせず放置するのは酷い所業だった。
そろそろ、周りにいる女性たちの気持ちを知るべき。女性たちの気持ちを知って、受け入れるのか拒否するのか、どちらにしろ結論を出してあげたほうが良いだろうと思っていた。
そこで俺は、赤ん坊の頃から世話をしてくれていた深谷朋子を父親に薦めることにした。ちゃんとしたパートナーが決まれば、他の女性達も諦めるはず。
「えーっと、……気付いてたの?」
ピタッと朋子の動きが止まった。むしろ、あんなバレバレな態度だったのに彼女は気付かれていないと思っていたのか。
「もちろん」
「……わかった。協力するわ」
俺が頷いて答えると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤くして協力を申し出てくれた。これからの計画で非常に頼りになる人だ。彼女に色々と教えてもらおう。
「一緒に、朋子さんから女の磨き方を学んで美人になろう! カレンちゃん」
「うん!」
俺もカレンと一緒に、女として自分磨きを始めようと思う。まず俺は、食べ過ぎで重くなった体重を落とすことから始めよう。
深谷朋子に師匠となってもらって、美しくなるために必要な知識をレイラと一緒に学ぶ日々が始まった。
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