第120話 小学校に入学
実家である料理店の手伝いをしているうちに、あっという間に時間は過ぎていく。俺は、小学校に入学する年齢になっていた。
学校に通って何かを学ぶなんて、記憶に無いくらい久しぶりのことだった。なのですごく楽しみ。ちょっとだけ心配なのは、女の子のコミュニティに上手く混ざれるかどうか。
見た目は女性だけど中身が完全に男性のままの俺だが、女子たちと仲良くなれたら良いんだけれど。もちろん、男子の友人も作れたら良いなぁ。
近所にある、公立の学校に入学することが決まった。入学式当日の朝に俺は父親と一緒に、学校まで行く。
校門を通って校舎に入っていくと、すぐそこにあった受付を済ませる。父親とは、一旦そこでお別れ。
「じゃあね」
「おう。行ってこい」
受付では、その学校に在籍している上級生の女子に名札を付けてもらった。彼女に案内されて一年生の教室がある場所まで移動する。
「こっちだよ」
「はい」
「ちゃんと言うことを聞いて、エライね!」
返事するだけで褒められたりしながら、上級生の彼女の後ろについて行く。初めて入った校舎の中を歩いた。ここが、今日から俺が通うことになる学び舎。とても広くて綺麗だな。
辿り着いた教室には、俺と同い年の子どもたちが居た。そこで入学式が始まるまで教室の中に置いてある椅子に座って、待機するそうだ。
「こっちに座って」
「はい」
時間になるまで座って待ってられない、やっちゃな子も多いみたい。上級生の子が苦労しながら、なんとか座らせようと頑張っている。俺も手伝ったほうがいいかな。余計なことをせずに、今は大人しくしていたほうが良いか。
そんな光景を眺めながら待っていると、次々と新しい子たちが上級生に連れられて教室の中に入ってくる。
そして全員が集まったのだろう、教室から移動するようだ。上級生の案内に従い、教室に待機していた子どもたちみんなで体育館へと向かった。
「ほら、こっちだよ!」
「えー!」
「そっちに行ったら、ダメ」
「つまんない!」
「走らない!」
「もっと、あそびたいよぉ!」
「勝手にしたらダメだよ」
「つかれたぁ!」
上級生たちが苦労しながら、新しく小学校に入学する子どもたちを世話していた。その中には、面倒を見るのが大変そうな子も。まだ幼いから、言うことを聞かない。
なんとか、子どもたち全員を連れて体育館の中に入っていく。入学式の最中に座る席まで案内された。それで仕事が終わりなのだろう、上級生たちが新入生から離れていく。上級生たちの多くが、ようやく解放されたという表情を浮かべていた。
俺は、後ろの方にある席に座った。前には、新入生がズラリと並んで座っている。
落ち着きのない男の子、キョロキョロと周りを眺めている男の子、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている女の子、言われた通り椅子に座ったまま落ち着いた様子でじっとしている女の子。
色々な態度を見せる子どもが席に座って、ようやく入学式が始まった。
校長先生や来賓、PTA会長のあいさつが続く。
偉い人たちの話を聞くだけという、かなり退屈な時間だった。厳粛な空気を察したのか、子どもたちが意外と最後まで静かに座っていた。
入学式が終わって、一年生の教室に戻ってくると席が決められた。
ここに居る子たちがクラスメートになって、一緒に学校生活を送るのか。ちゃんと仲良く出来るかな。
「あ、あの……」
隣から、小さな声が聞こえてきた。そちらの方に視線を向けると、見た目がとても可愛らしい女の子が不安げな表情を浮かべていた。彼女が声をかけてくれたのかな。
「わ、わたし。たかしまかれん」
胸元に
「俺の名前は、赤星レイラ。よろしくね、カレンちゃん」
「うんっ! よろしく、レイラちゃん!」
俺が挨拶を返すと、彼女は不安そうな表情から嬉しそうな表情へと変化していた。それから彼女とは、すぐ仲良くなれた。いきなり友人が出来て、とても幸先が良い。
小学校の授業が始まった。教科書やノートなどを入れた赤いランドセルを背負って俺は、毎日登校する。
勉強は、かなり出来る方だった。算数の問題は学校の授業を受ける前から、簡単に解けていた。普段から家の手伝いで計算もしているし、国語も問題はない。
ただし、理科と社会に関しては最初から覚え直さないといけなかった。別の世界の法則や歴史とごっちゃになったりして勘違いしてしまうので、覚えている知識を一旦整理する作業が必要だった。それが、なかなかに大変。
前の世界について思い出しながらノートに書き出して、今の世界と比較したりして情報を纏めていく。
小学生で学ぶ程度の量なので、覚え直すのはどうってことなかった。だけど、この先も色々と整理しておいたほうが良さそうだなと思ったので、早いうちから中学とか高校でもやる範囲を予習しておくことにした。
先に備えて、色々と勉強しておく。ついでに、学校で習う知識の他にも興味のある分野を学んでおく。図書室で本を借りてきて、教室や自宅で自主的に勉強して。
毎日、女の子の友だちが増えていく。最初の友人になってくれたカレンの他にも、仲良くする女の子が増えていった。女子のグループには、上手く馴染めたと思う。
彼女たちとは一緒に遊んだり、勉強したりして仲良く過ごすようになった。とても順調な滑り出しだと思う。
学校に通うようになっても、家の手伝いは続けていた。朝、学校に行く前の時間と授業が終わって家に帰ってきてから夕方の時間に、お店を手伝う。
仕込みをする間、いつものように食材へ魔力を付与していく。これで、このお店の料理はさらに美味しくなるだろう。こんな小細工をするまでもなく、父の料理は絶品だけど。少しでも、助けになるように。
父親の啓吾は、学校が始まったから手伝いは大丈夫だと言って辞めさせようとしていたが、手伝いをしていても小学校の授業についていくのは容易だったから続けると俺は言った。
普通の子どもなら大変かもしれないが、俺だったら問題ない。友だちと遊ぶ時間も事前に言っておけば確保してくれるので、十分だった。
というわけで俺は、学校の授業を受けながら、家の手伝いをして、新しい友だちと楽しく一緒に過ごす、とても充実した毎日を送っていた。
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