第115話 決死の特攻
プログラムを名乗る存在と会話した後に、フェンガリ基地の格納庫に戻ってきた。機体のエネルギーを補給するために。それから、単身で地上に降りるための準備するために。もちろん、極秘で。
「機体にエネルギーの補給、お願いします。次の敵が来る気配があるので、急いで」
「了解しました。すぐに」
整備士にエネルギーの補給をお願いする。それっぽい理由を添えて、補給を急いでもらった。俺はコックピットから降りると、最後の食事をすることに。
やっぱり美味しくないと思うような酷い味の食事をとりつつ、機体にエネルギーが補給されていく様子を、横からぼーっと眺めて待っていた。早く、仕事に取り掛かりたい。
「レイラ」
「ん? あぁ、フェリスか。ダメじゃないか、今回は出撃が無くなって休める時間を貰ったんだから、部屋でしっかり休んでおかないと」
休憩している俺に、フェリスが声をかけてきた。休むように言って出撃から外してもらったのに、まだ格納庫に居るだなんて。すぐに部屋へ戻って休憩しろと言うが、彼女は言うことを聞かないで部屋に戻ろうとせず。じっと、俺の顔を見つめてきた。
「ダメだよ」
「ん?」
ポツリと、フィリスが言った。
「無茶したら、ダメだからね」
「うん。分かってるよ。もちろん無茶はしない」
先ほど、俺が一度目の出撃をする時にも言われた言葉だった。すぐに俺は答える。分かったと。
「……本当に?」
フェリスが俺の顔を覗き込んで、真剣な表情で問いかけてくる。何かを察しているのかもしれない。これから行おうとしていることを考えると、彼女を残して行くのは申し訳なく思うが、ここで止めることは出来ない。
「もちろん!」
「……」
だから俺は元気よく笑顔を浮かべながら頷いて、フェリスに答えていた。本当の事を言えるはずもなく。
「レイラ機、補給完了しました!」
「わかった、ありがとう。じゃあ、行ってくるねフィリス。ちゃんと休むんだよ」
機体の補給が終わったという報告を聞いた俺は、心配してくれるフェリスと別れてコックピットに乗り込んだ。
背後から、彼女の呼ぶ声が聞こえたような気がしたけれど、気のせいだろうと思うことにした。俺は、これから行う作戦に意識を集中させる。
出撃すると、宇宙空間を猛スピードで飛んでいく。機体にエネルギーも入れたから準備も万端。フェンガリ基地から通信が入ってきた。
『おい、レイラ機! 基地から離れ過ぎだ。持ち場を維持しろ』
フットレバーから足を離さずに、スピーカーから聞こえてくる男性オペレーターの声を無視して、俺は口を開いた。
「切って」
『了解』
『なっ、……レイラ機? なにを――』
通信の声が途切れる。俺が言葉短く指示した瞬間、プログラムが対処してくれた。それ以降、基地からの通信は繋がらなくなった。
俺とプログラム、なぜか意思疎通はバッチリだった。
宇宙空間を猛スピードで飛び続けて数時間後、ようやく地上への降下を始める事ができた。目の前に大きな惑星の姿が広がっている。ここに降りていくのか。
この機体には、大気圏に突入する機能が搭載されている。だが、もちろん実践したことは一度もない。ぶっつけ本番で挑むしかない。
機体が熱くなり、コックピットまで熱くなって目の前が真っ赤に染まる。警告音が鳴り続ける中、俺は耐え続けた。大気圏に突入する機能は、正常に動作しているのか疑いながら。
この体だからこそ耐えられる、かなり無茶な方法だった。おそらく常人では熱さと重力に耐えきれず、気絶しているだろうな。それぐらい強烈で劣悪な環境の中、俺はただひたすら耐え続けていた。
どれぐらいの時間を耐えていたのかわからないが、ようやくマシになってきた。
真っ青な空と雲の間にまで降りてくると、徐々に地上の風景が見えてくる。ここが人類の住んでいた惑星か。
『敵が接近してきます』
当然だが、敵もいる。プログラムが知らせてくれた。残念ながら、落ち着いて観察している暇はないようだ。
地上に居る機械敵兵が俺を発見して、攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を俺は機体を操作して避けていった。まだ、機体は動いてくれる。だが、ここで倒れてしまったら全てが無駄になるだろうから、気を引き締めて。
あとは、目標の地点に向かうだけ。
『そのまま、真っ直ぐ突っ切って下さい』
「わかった」
プログラムがナビしてくれる通りに機体を飛ばしていく。永遠に続くと思うような無数の攻撃を避け続けて、機体を前へ。
『このまま、そこに突っ込んで下さい』
「ここが、目的地かッ!」
大きくて、いびつな鉄の塔が見えた。あそこに機体を突っ込ませて仕事は終わる。もはや、機体へのダメージも考えずに突っ込んでいくだけ。ここで今回の俺の人生は終了だと、覚悟を決めた。
不思議と、死の恐怖がない。
「ぐうっ!」
鉄の塔に機体をぶつける。とてつもない衝撃。コックピット内にも、大きな振動を感じていた。これで成功ということなのか。
『敵の中枢にアクセス、完了しました』
「あとは頼む」
仕事は完了した。これから先はプログラムの仕事なので、俺のやることはない。
『はい!』
彼女の返事を聞くと俺は、操縦桿から手を離した。
限界ギリギリだった。なんとかここまで到達できたけれど、これから逃げることはやはり不可能かな。
機体ダメージが限界だと知らせるアラート、敵の接近を知らせるアラート、そしてロックオンされた事を知らせるアラートがコックピット内に、うるさく響いていた。
俺は全ての仕事を終えた。後はプログラムが仕事を完了して、人類を助けてくれるだろう。
ここにある敵の中枢にダメージを与えれば、敵が機体を増産しているという工場を停止させることが出来るらしい。動作中の敵機体も動きを止めるはず。無限に続いた戦いが、ようやく終わるようだ。
ただ、プログラムの仕事が完了するまで少しだけ時間が必要そうだ。それまでに、俺は目の前の敵に倒されてしまうだろうな。生存は絶望的。
せっかくだから、俺の乗る機体の一部をアイテムボックスの中に入れておこうか。次の人生に向けて、頂いておこう。何かの役に立つかもしれないから。
アイテムボックスの中に物を保管する方法は、それに触れたまま収納すると考えるだけで完了するから、とても簡単だった。あとは、中に入る容量を考えて。
『私の名はシステム・マリア』
「マリア?」
唐突に、プログラムが自己紹介をした。彼女は、マリアという名前だったらしい。マリアという名前に俺は、ものすごく聞き覚えがあった。
『次の人生では、ちゃんと逢えるように。待っているから』
「君は……、もしかして――」
その瞬間に敵の攻撃が始まった。俺の意識は、そこで途絶えた。
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