第113話 戦いの激化
アナトテック研究所を襲った機械の敵は、軍の攻撃から逃げてきたところを運悪く俺たちの方に来てしまい、訓練の最中に遭遇してしまったという経緯らしい。
そして奴らは偶然にも、研究所がある位置を把握してしまった。俺が敵を倒し切る前に、位置データを敵本部のような場所に送られてしまったようだ。ここに人が居るということがバレてしまった。
その日から敵の機体がどんどん送り込まれて、俺たちを襲ってくるようになった。今まで敵襲がなくて、安全地帯の中で平和だった研究所の小惑星周辺は一気に物騒になった。
毎日のように研究所を襲ってくる敵を撃退するのが俺たちの新たな任務だ。訓練は無くなって、実戦が増えた。毎日のように出撃して、敵を倒す。
研究所を襲う機械敵兵の数は多かったが、敵の動きは恐れるほどではなかった。
冷静に対処すれば、子供たちが戦っても何の問題も無いぐらいに力の差があった。俺も、複数体を同時に相手して処理が出来ていた。敵の技量や強さは、俺の想定より低かった。
研究所には5機だけしか出撃できるような戦力は無かったけれど、襲ってくる敵を順番に相手して、返り討ちに出来ていた。問題なく勝てている。だが、連戦しているうちに皆、どんどん疲労は溜まっているようで。
再び、研究所に敵の機体が接近しているという知らせがあった。敵襲だ。睡眠中を叩き起こされて、これからまた出撃する直前。
「レイラ、大丈夫なの?」
「うん、平気だよ。俺よりも、他の子たちをケアしてあげて」
何日も続けて出撃している俺の体調を心配し、声をかけてくれた研究員のソフィアに、笑顔を浮かべながら平気だと伝える。それは、ウソではない。体力が無限のように有り余っているし、回復力も落ちていない今、戦い続けても何の問題もなかった。
今のところ無理はしていないし、自分の体調管理はしっかりと出来ている。だから余裕のある俺よりも、他の子たちが無理しないように気をつけてほしい。
「ここ最近、ずっと戦ってばかりだよ。無理はしないで」
「うん。まだまだ平気だって、任せて!」
元気な姿を見せても、ソフィアは心配そうな表情を浮かべていた。これ以上、話をしている時間は無い。敵が研究所に接近してきているから。誰かが、戦いに出ないといけない。引き留めようとする彼女と別れて、俺は出撃に向かう。
毎日のように敵の襲撃を受けているため、他の仲間たちは徐々に疲弊しているようだった。平気だったのは俺とフェリスぐらいだろうか。他は、精神的にも肉体的にも消耗して、極度の疲れを感じていたようだ。
そんな彼らに代わって、俺は何度も出撃を繰り返す。仲間が休めるように出撃するが、戦いの終わりは見えない。
更衣室で素早く、パイロットスーツに着替えてから、俺の乗る機体が置かれている格納庫へ走って向かう。そこには、頼りになる仲間が居た。
「フェリス、調子はどう?」
「大丈夫。問題ない」
今回もまた、一緒に出撃をするのか。そんな彼女の顔を見てみる。調子は良さそうだった。無理は、していないかな。
ソフィアが俺を心配する気持ちと同じように、今の俺はフェリスのことを心配しているみたいだ。だが俺は、心配していることを必要以上に表には出さないように気をつける。心配されることを彼女は嫌がるから。
「よし。じゃあ今日も、どっちが多く敵を倒せるか勝負しようか」
「今日は負けない」
敵の数は無尽蔵だ。倒しても倒しても次がやって来るから、こうやって2人で敵を倒す楽しみを見出す。どっちが多く敵を倒せるか、フェリスと競い合っていた。
今までの戦績は俺が53勝していて、フェリスは25勝である。彼女も、なかなかの腕だった。だが俺も、まだまだ戦いで小娘には負けないぞ。そんな気合を入れて、今日の戦場に向かった。
幸いだったのは、敵を倒すたびに使えるパーツを入手できるということ。元々は、俺たちが使っている機体は敵から鹵獲したもので、敵の使う機体のパーツを抜き取りそのまま利用して、自分のものにも流用することができる。
整備士のリーダーであるマキナと、彼の部下たちも奮闘してくれた。
倒した敵を研究所に持ち帰れば、その残骸を上手く利用して、戦いで消耗した機体を修理してくれる。俺も自分で機体の整備をして、戦い続けていた。
パーツの入手に困っていた以前よりも、今の方が状況は良いと言えるだろう。
ただ戦いが続いているせいで、新しく入手したパーツについては、しっかりとした検査は行えていなかった。このパーツを使用して、本当に大丈夫なのかどうか。
そして、最初の戦いで聞こえてきた謎の声や、今まで隠されていた武器についても詳しくは調べられていない。そのあたりは全て、後回しになっていた。
今のところは、何も問題は起きていない。あの声についても、その後は聞くことは出来ていない。気になっているけれど。
今は、戦いに集中しないと。研究所の皆と、フェリスと一緒に生き残るためにも。
「さて、今日の敵は、っと」
戦い続けて、かなり馴染んできたコックピットに飛び乗る。それからすぐ、画面に表示されているデータについて確認。研究所のレーダーが探知した情報を見て、敵の数や位置、状況について把握してから、機体を格納庫から発進させた。
いつものように、機体の急加速によってシートに押し付けられる体。宇宙へと出て早速、目の前に敵が現れた。
「まず、1つ」
落ち着いて機体を操縦し、あれから使えるようになった腕に内蔵されたレーザーを放って、敵を爆散させた。
正体不明の声は、あれから音沙汰はなかった。だけど、あの時に発見された武器はそのまま今も使えていた。あの戦闘から、制限が解かれたということなのかな。
その強力な武器を使って、敵を次々と倒していく。やはり、敵の動きは単調で脅威ではない。
それでも、終りが見えないと精神的に疲れてくる。この戦いは、いつ終わるのか。
研究所を襲う無数の敵との戦いに終わりが見えない。各地に居る敵の攻勢も次第に激しくなってきているようだ。人類は、機械の敵に追い込まれつつあった。
そしてとうとう、敵に位置がバレてしまったアナトテック研究所は閉鎖されることが決定した。所属していた研究員たちは、他の研究所へ移転となるらしい。その中に
ソフィアも含まれている。
俺と何人かの子供たちは、使える戦力としてアナトテック研究所で管理されていた機体ごと、前線に送られることが決まった。
残念ながらソフィアとは、ここでお別れのようだ。
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