第112話 なんとか撃退したけれど
高速で接近してくる敵を撃った。2発、3発と連続で高威力のビームを放つ。命中すると、敵が次々と爆散していった。これほどまでの高威力を出す武器が機体に内蔵されていたとは、知らなかった。
これは、中身を確認することが出来なかった謎のデータに関連するものか。機体に最初から搭載されていたというのに、整備している時には気が付かなかったなんて。自分の機体について、把握しきれていなかったということ。
けれども、今はありがたい。敵を倒す武器が手に入った。防戦一方だった状況から一転し、こちらからも攻撃が出来るようになった。敵を倒せる。
画面と計器の情報から、敵の位置を割り出す。見つけ出して、どんどん倒してく。それを繰り返して、その場に居た機械敵兵をあっさりと破壊していった。
「ふぅ」
周囲を確認する。後から駆けつけてきた敵も倒しきり、合計だと12体の敵機体を破壊していた。
敵は居なくなったようだ。機体のダメージは少ないが、エネルギーはギリギリだ。なんとか戦闘が終わって、落ち着けたと思う。
そしてようやく、声の正体について調べることができる。
「さっきの声、返事をしろ」
名前もわからない存在に呼びかけてみるが、返事はない。俺が呼びかけて出てきてくれるだろうか。なんとなく、出てこないような気がした。
「おーい」
やっぱり駄目か。反応はなし。あの声は一体、何だったんだろうか。そして何故、リヒトという名を知っていたのか。しかも、今の俺はレイラという名前なのに。
システムに残っている通信履歴から辿って、接続しようと試してみるけれどダメ。相手の情報も、通信先もデータがない。向こうから通信を繋げてもらわないと、もう二度と接続することは出来ないか。
そもそも、さっきの声は通信で聞こえてきたものなのか。この機体の中から、声は聞こえてきたような気がするが。でも、どこから。誰も居ないというのに。
『無事か、レイラ!』
「ッ! あぁ。うん。無事だよ」
声が聞こえてきたと思って一瞬驚いたが、別の人物の声だった。これは聞き覚えがある。研究員であるソフィアだろう。ようやく研究所と通信が繋がったみたいだが、向こうの状況はどうなっているのだろう。
『まだ、戦闘中なのか』
「いや、戦闘は終わったよ」
緊張した声で状況を確認してくる。まだ、向こうからコチラの状況は分からないのかな。通信に問題も発生していたようだし。
『そうか……、よかった。本当に、良かった』
「他の皆は? そっちに戻ってる?」
『全員、無事に帰還している。フェリスが君を助けるため、再出撃しようとするのを止めるのが大変だったぞ』
「そっか。これから研究所に戻るよ」
ソフィアが安堵しているのが、通信で伝わる彼女の声の様子から分かった。心配をかけてしまったようだな。フェリスにも。とりあえず今は、早く研究所に戻ろうか。落ち着いてから、今回の戦闘について報告をしよう。
『可能なら、倒した敵の残骸を持ち帰ってくれ』
「了解しました」
整備士であるマキナの声も聞こえてきた。彼の指示に従って、倒した後の敵である宇宙空間に浮遊して動かなくなった残骸をかき集めて、持てる分だけ研究所に持って帰る。
12体倒した敵の残骸を全て研究所まで持ち帰るのは無理そうだった。俺だけでは手が足りないな。
敵の残骸は持ち帰る分だけ持ち帰って、あとは場所だけ記録しておけばいいかな。この情報を報告してから、自分で取りに来るか別チームに任せて取りに来てもらう。それなら、後で回収しに来るだろうから敵の残骸も全て手に入る。
先ほどまで敵と戦い限界も近い機体を操縦して、持てる分だけ残骸を腕いっぱいに抱えると、研究所がある場所に戻る。
研究所に戻ってくる。持ってきた敵の残骸を下ろして、コックピットから降りた。すると格納庫の中で、パイロットスーツを着たままのフェリスが待ち構えていた。
「帰ってきたッ!」
「うん、なんとか」
飛びつくようにして抱きつかれたので、彼女の体を受け止める。ものすごい勢い。そんなに心配されていたのか。
「ごめんなさい」
何故か、彼女に抱きつかれながら謝られた。俺を助けるために再出撃しようとしたみたいだが、大人たちに止められたみたい。1機だけ出しても危険だろうし、状況を把握できなかったようなので仕方ない。彼女の安全を守るため、出撃は止められた。
「フェリスが無事で、本当によかった」
「レイラも、無事でよかったよ」
次はソフィアに、後ろから抱きつかれていた。前後両方面から女性たちに挟まれるようにして、俺は抱きつかれている。
「怪我はない?」
「大丈夫ですよ。無事です」
ソフィアには、体のあちこちを触られて、ちゃんと無事であることを確認された。もう一度、フェリスの方に顔を向けて聞く。
「他の子たちは?」
「うん。全員、無事だった。レイラのおかげだよ」
「よかった」
通信でも聞いていたけれど、フェリスから他の子たちが無事だと聞いて安堵する。良かった、助けられて。そして、もう一つ気になること。心配してくれた2人と離れてから、機体の方に移動する。
「マキナさん」
「どうした?」
帰還した機体のチェックに入っていたマキナに声をかける。聞いておきたいことがあるから。
「敵と戦闘中に、聞き覚えのない声が通信で入ってきました」
「聞き覚えのない声?」
「はい。おそらく女性で、聞いたことがない声。大人だったと思いますが、研究所の人じゃない。別の誰か」
この研究所にいる人物とは違う声。つまりは、別の所から通信を繋げられた。一体誰がそんな事をしたのだろうか。マキナと、通信してきた声の正体について話す。
「お前が敵と戦闘している最中に、実はこっちでも原因不明の通信障害が起こった。お前の機体となんとか通信を試みようとしたが、全て弾かれていたんだ」
「なるほど」
だから、研究所とは通信が繋がらなかったのか。機体の故障とか、敵がジャミングして通信を遮断していた可能性もある、けれど。
「もしかしたら、その声の主が通信を妨害していたのかもしれない」
「うむ。その可能性もあるかもしれないな」
だからあの時、研究所と通信が繋がらなかったのか。その声の主が妨害していた、という可能性。しかし何故、わざわざ妨害をする必要が。それは分からない。存在を隠すためなのか。でも、何で隠すのか。
俺の、別の名前を知っていたから?
「コチラも、お前に聞きたいことがある」
「なんですか?」
今度は、マキナから質問される。
「敵との戦いで使っていた武器は、どうやって取り出した?」
「それは、正体不明の声の主が使うように指示してきました」
声の主は、研究所との通信を妨害していたのかもしれない。だが、俺を助ける助言もくれた。あの情報がなければ、敵にダメージを与えられずに俺は、死んでいたかもしれない。
「正体不明の声か。機体に隠された武器の存在を教えてくれた、ということは敵とは思えないが。調べる必要があるな。通信の履歴と戦闘レコーダーをチェックしよう。なにか、記録が残っているかも」
「そうですね、お願いします」
もう一度、マキナと一緒に機体に残っている通信の履歴と戦闘の記録についてを、ちゃんと調べてもらおう。そして相手の正体について突き止める。戦闘で起こった、色々な謎について解明していかないと。
今回唐突に、初めて敵と戦闘することになった。なんとか生き残ったが、これから先も戦いが続いていくのだろう。気合を入れないと。
この世界には、まだまだ敵がいるんだから。
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