第111話 突発的な戦闘
敵が攻めてきた。
画面と計器のに表示されている数値を確認してみると、シミュレーター訓練の映像でも見たことのある敵が複数、向かってきているのが分かった。何故、こんな場所に敵がいるのか。アナトテック研究所の周りは、安全地帯だと聞いていたが。
俺たちの乗っている機体と同じサイズぐらいの人型ロボット。だが灰色で、動きに人間味を感じない。それに人が乗っていないことが、見ただけでわかった。アイツが俺の仲間を撃ったのか。
逃げ遅れた子が乗っていた機体は、どうなった?
『うぅぅぅ……』
まだ応答がある。声が聞こえたことに安心して、すぐに彼の側に機体を寄せてた。再び敵の攻撃が来るだろうから、彼をここから早く退避させないと。
攻撃を受けた機体は、片足が吹き飛んでいた。だが、胴体にあるコクピット部分は無事である。これなら内部も大丈夫だろう。けれど、パイロットの精神状態があまり良くない。機体の操縦は、出来ないか。
「フェリス、聞こえる?」
『うん』
先に戻ろうとしていたフェリスに、通信を繋ぐ。彼女は、すぐに応答した。
「ちょっと、ごめん。一回戻ってきて、クリスが危ないの。この子を連れて、一緒に研究所へ戻って欲しいんだ」
『レイラは? どうするの?』
攻撃を受けて動けない機体をフェリスに任せる。俺は、残って自分の仕事を務めるだけだ。
「ちょっとだけ、敵を足止めするために残るよ。フェリスたちが研究所に戻ったら、すぐに私も退避するから」
『ッ! ……分かった』
何か言いたそうに息を吸い込むが、そのまま黙り込むフェリス。分かったという、返事をしてくれた。
急いで戻ってきたフェリスの機体が、逃げ遅れた子の乗る機体の腕を掴んでから、研究所に向かって飛んでいってくれた。
その間、俺は敵を注意しながら見ていた。動きがあれば、反撃するつもりで。
敵も、俺たちの様子を観察している様子。仕掛けてくる気配はない。このまま俺も離脱できたら良いのだが。
その場に残されたのは、俺の機体と機械敵兵だけ。見えている敵の数は5機だが、他にも潜んでいるかもしれない。宇宙空間を映すモニターと、計器の数値に注意しておく。
敵が、逃げるフェリスたちを狙って攻撃しようとしていた。その敵に向けて、俺も銃を取り出して構えた。狙いを定めて、容赦なく撃つ。ちゃんと、敵に当たった。
訓練のための銃だけど、弾は出る。残念ながら、ダメージはない。挑発するように敵の顔に銃を放った。敵の視線が俺の方へ向く。こちらに、敵の注目を向けることに成功したようだ。
「来い!」
5機が一斉に銃を構えて、こちらに狙いを定めている。敵にロックオンされている警戒音が、コックピットの中に響いた。
スティック型の操縦桿を両手に握り、フットレバーを踏んで機体を操作する。今は機体の消耗を抑えるような操縦をする余裕もない。初めての実戦。
「まだまだ!」
攻撃を避けることは可能。しかし、避け続けることは難しそうだった。敵の猛攻を避けるための動きは、少しずつ機体に微量なダメージを蓄積させていく。動くだけで不利になっていく。それだけでなく、機体のエネルギー切れの心配もあった。
いつか、この均衡が崩れてしまう。どうしよう。この機体にダメージを与えられる武器があれば敵を倒せる、というのに。一気に接近して、無理やり格闘戦に持ち込むか。
必死に機体を操作して、敵の攻撃を避け続ける。今までのような生身での戦いとは勝手が違う。かなり戦いにくかった。画面と計器に表示されている情報で敵の位置と攻撃を確認して、なんとか攻撃を避ける。まだ、敵の攻撃は当てられていない。
くそっ。だけど、反応速度に機体の動きがついてきてくれない。無理をさせすぎたのか、段々と動きが鈍くなっているような気がする。思ったよりも早く機体に限界が来てしまいそうだ。
動けなくなったら、奴らが俺の機体に殺到して殺されてしまうだろう。
敵の攻撃を避けながら、どうにかして研究所まで戻ることは可能なのか。格納庫に置いてある武器を取りに戻るとして、敵を引き連れていっても大丈夫なのだろうか。研究所の防衛システムは、ちゃんと作動しているのか。色々と確認したいのだが。
通信室と繋がっていないので、向こうの状況も分からない。研究所では敵の存在を認識しているのか。
フェリスたちが戻れば、敵の存在は伝わるはず。、そうすれば迎撃の準備に入ってくれるだろう。
それとも、もう既に敵の存在を把握していて、迎撃の準備まで完了しているとか。そうだとしたら、この敵を連れて研究所に戻れるのだが。下手に向こうへ敵を連れて行ってしまえば、研究所に被害が出てしまう。それは、絶対に避けたかった。
とにかく、この手に敵を倒す武器が欲しい。そうすれば、状況を打開できるというのに。
訓練で使用する弾では、敵にダメージを与えられない。訓練のために誤って味方へ攻撃してもダメージが入らないように作られている格闘戦用のサーベルも、使い物にならない。牽制には使えるかもしれないが。
あとは、機体をぶつけて敵を止める方法。だが一歩間違えると、それで俺の機体もダメになる。壊れて動けなくなってしまえば敵と戦えないし、ここから生きて逃げることも無理になるだろう。
敵を倒すためには、どうしたら。死なば諸共、特攻作戦しか思いつかない。それをやるか……。
俺が、覚悟を決めようとした瞬間。コックピットの中に誰かの声が響いた。これは通信機から聞こえてくる声、じゃない。
『リヒト、これを使って』
「何?」
突然、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。ここには、俺以外の人間は居ないはずなのに、とても近くから聞こえてきた。しかも、俺をリヒトと呼ぶ誰かの声が。今の俺は、レイラだ。
リヒトとは、前の人生で呼ばれていた俺の名前のはず。新しい人生になってから、誰にも前世の話なんてしたことはなかった。
この世界で、その名前を知っている人間は居ないはずなのに。聞こえてくる女性の声は、確かに俺の名前を呼んだ。どういうことだ。
「君は」
『今は、目の前の敵を倒すことに集中して!』
「っ!? わかった」
画面に映る敵から目を離さずに聞くが、彼女は答えない。敵を倒すように指示してくる。この声の正体を探るよりも、まずは生き残らないといけないか。
「これは?」
『それを使えば、敵を倒せるはずだよ』
「やってみる」
今まで表示されていなかった機体の武器情報に関する画面に武装のデータが、突然出てきた。でも確かに、これは使えそうだ。
俺は機体を操縦して、右腕を敵に向ける。肘の部分に格納されていたレーザーを、敵に向けて発射した。
青い光が敵である機体の胴体に命中して、次の瞬間に大きな爆発を起こしていた。宇宙の真っ黒な世界に、赤い爆炎が広がる。なんて強力な威力の武器なんだ。こんなものが、この機体に隠されていたなんて。
形勢が一気に逆転した。
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