第110話 皆で連携訓練

 その後、シミュレーターでの模擬的な訓練を繰り返しながら、実際の機体に乗って戦闘訓練する頻度が増えていった。


 研究所が管理している機体に乗り込んで、俺は宇宙に出ていく。訓練を終えてから研究所に帰ってくると、パイロットスーツからツナギ姿に着替えて整備士たちの中に加わり、機体を整備する。


 手伝うことで機体整備の経験を積んで、彼らの知識を学んでいった。1人で機体の整備が出来るぐらいの技術を磨いていく。


 訓練の頻度が増えると、機体を修理するためのパーツが必要になる。だが、研究所にある修理に使えるパーツの数が、非常に少ないという事実を知った。


 なんとか機体の消耗を抑える方法はないだろうか。俺は考えて、機体の操作技術について研鑽する。機体のダメージを少なくする操縦法を習得することを目標にして、日々の訓練に挑んだ。


 そして編み出した、俺なりの操作技術。その成果は徐々に発揮されていった。


 訓練で出撃するたびに整備で必要となる修理パーツの消耗を、機体の操作をかなり繊細にすることによって、抑えることに成功した。かなりの集中力が必要だが、その分だけ機体への負担を減らしている。そのまま、戦うことも可能だ。むしろ、余計な動きが減って、攻撃の回避が上手くいったりするメリットも。


 新たに俺が考えて編み出した操作技術については、同じく訓練で宇宙に出る予定の他の子供たち皆にもシミュレーター訓練で教え込み、技術を習得させた。


 そして、実際に機体に乗っている子たちが効果を発揮していく。


 今まで整備するのに必要だった修理パーツの消耗を、約半分ぐらいに抑えることが出来るようになった。研究所に保管させている整備用のパーツ数に、かなりの余裕が生まれて、整備責任者であるマキナも喜んでいた。


 動かせる機体が増え、訓練の頻度も増えていく。経験を積んで、さらに機体の操作技術を磨いていく。戦闘データの収集も上手くいって、研究員たちも喜んでいた。


 このようにアナトテック研究所は、順調に稼働していた。




 それから最近になって、ようやくフェリスの甘えも落ち着いてきた。以前までは、体を密着させて離れようとしなかった彼女だが、近頃は皆の前で甘えることは控えるようになった。甘えている姿を誰かに見られるのを、恥ずかしがるようになった。


 自立に向けて、彼女は少しずつ成長している。


 今でも時々、一緒に眠ろうと恥ずかしそうに俺の部屋を訪れることもある。その時は、しっかりと彼女を優しく甘やかした。だけど、基本的に甘えることは減った。


 そして今のフェリスは、俺に勝つため機体を操縦する技術の腕を磨くことに必死で訓練していた。


『今日こそ、レイラに勝つから!』

「かかってきな、フェリス」


 コックピットの中にフェリスの声が流れてきた。彼女は俺に勝つと宣言して勝負を仕掛けてくる。その挑戦を、俺は受けて立つ。


 一緒に過ごしているうちに俺の動きを学び、成長していたフェリス。そこから先に進もうと、俺も超えていこうと頑張っていた。強くなりたいという彼女の熱い想いを受けて、こちらも真剣に挑んでいく。簡単に負けたりしない。そのために俺も、腕を磨いていた。


 俺たちは、2人で一緒に成長していた。


 そんな俺とフェリスの2人が競争して腕を磨いている様子に触発されたのだろう、他の子どもたちも訓練を頑張るようになっていた。


 そういう雰囲気が、アナトテック研究所全体に広がっていく。




 研究所で管理されている人型二足歩行のロボットを5機、全てを出撃させて今日はチームワークを鍛える訓練が行われる。今回、初めて行う訓練だった。


 俺とフェリス、そして他に3名のパイロットが一気に格納庫から出撃していく。


 いつものように研究所から射出される的が用意されると、5機で同時に動きながら訓練していく。


 仲間がいる場合、どうやって動けばいいのかについては事前にシミュレーター機で確認していた。実際の機体で、ちゃんと連携して動けるのかどうか。その方法を学ぶことが、今回実施される訓練の目的。


 訓練は、予定通り順調に進んでいく。お互いに通信しながら声を確認して、機体を宇宙空間で自由自在に動かしてみた。スピードを上げて、敵に見立てた的を撃ったり斬ったり、包囲してみたり。お互いがぶつからないように注意をして、色々な動きを試した。




 突然、コックピットの中にアラームが鳴った。もう訓練終了の時間なのか。それにしては早いような。そう思って時計を確認するが、違った。まだ訓練が終了する時間ではない。


 すぐさま計器に視線を向けて、確認する。レーダーに敵が接近してくる赤い表示が画面に見えていた。これは訓練? いや、聞いていない。まさか、こんな場所に敵?


 このアラームは、敵が接近してくるのを知らせるために鳴ったのだ!


「モニター室! こちら、レイラ。敵が近付いてきている!」

『……』


 すぐに研究所のモニター室に連絡を入れた。訓練のデータを取るために、見ているはず。しかし、返事がなかった。敵が、すぐそこまで近付いてきているというのに。


「モニター室ッ、応答せよ!」

『……』

「ちっ! 駄目か。繋がらない」


 通じていないのか。もう一度、確認したけれど返事はない。向こうは、この状況を把握しているのだろうか。通信が駄目なので、自分たちで判断するしかない。これはどうするべきか。すぐに俺は、動き出した。


「敵が来ている。皆、今すぐに研究所に戻ろう」


 なるべく冷静な声を意識して、他の機体に乗る4人に通信を送る。今は、訓練用の武器しか持っていない。これでは敵を倒せないだろう。戦うためには一旦、研究所に戻って武器を用意しないと。


「わ、わかった」

「も、戻るね」

「レイラも、早く」


 敵が迫ってきていることを知り、緊張した声で機体から応答があった。俺の指示に従って、3機が研究所に戻っていく。残り1機だけ、動かずに止まっていた。彼は、何をしている!


「クリス、研究所に戻るぞ」

『あ、あっ……、て、てき……!?』


 5人の中で、最年少のクリス。彼がパニックを起こしている声が、スピーカーから聞こえてきた。俺は急いで、彼の機体に近づこうとした、その瞬間。


「っ!?」


 機体が震える。間近で爆発音が聞こえた。当たっていないので、機体にダメージはない。だけどもう、そんな距離まで近付いて……!? 


 次の攻撃が来る。ターゲットは、止まっている機体。止まっていたら、駄目だッ!


『うわぁ!?』


 驚きながら叫ぶクリスの声が、スピーカーから聞こえてきた。そして唐突に戦闘が始まってしまった。

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