第104話 美味しいご飯が食べたい

 この体は本当に凄いな。鍛えると、どんどん成長していく。人の限界を軽く超えているような気がした。そういう目的で作られたんだと、実感する。


 今では、訓練室に置いてあったトレーニングマシンの重りを全て載せても、軽々と上げられてしまえるような筋力が身についた。ランニングでは、無限に走れるぐらい底なしの体力。回復力も凄くて、鍛えるたびに俺は疲れ知らずとなっていった。長く戦い続けることが可能に。


 過去最高の身体能力。この体の限界値というのが、どこにあるのか探りたくなる。


 成長するたびに、データ測定のやり直し。毎回行われるテストで俺は、前の記録を更新してしまうので、現状を把握しようとする研究員たちにテストを何度もやり直しさせられる。そして今回も、前回の記録を大きく更新して研究員たちを驚かせた。


「また、すべての記録を更新したぞ」

「この子は、どこまで成長するんだ?」

「こんな予想は、なかったぞ」

「何が要因で、ここまで変化した?」

「実験の見直しが必要か?」

「いや、この子を有効活用するために新たな方針を決めるべきだ」

「しかし、これほどの逸材をどうやって活用する?」

「我々では決めれない。上に報告して、判断を仰ごう」

「偶然で生まれた成果、どう報告する?」

「再現は不可能だと正直に、虚偽なく報告しよう」


 久しぶりに研究員の大人たちが、俺の目の前で議論していた。最近は、別の部屋に移動して話し合いしていたのに。興奮しすぎて移動するのを忘れてしまうほど、今回の結果に驚き、慌てているらしい。


 俺は常識を外れて、鍛えすぎのようだった。それは、研究員の予想も超えるほど。俺の扱い方についてどうするべきか、彼らを困らせてしまった。


 ちょっとだけ、研究員たちに申し訳ないという気持ちを抱く。データ測定するたび記録を塗る変えてしまうから正確なデータが測定できない。だから何度か繰り返してデータ測定が行われた。それでも、測定したデータは毎回変化して安定しない。常に上回って、記録を更新してしまう。


 まぁ、研究については頑張ってくれよと心の中で研究員たちを応援することしか、出来ないかな。俺は、自分の出来ることを探るのに専念する。


 今日も、トレーニングだ!




 新しい世界に来てから実験のデータ取りとトレーニングの繰り返し。そんな日々を過ごして数十日間が経っていた。その間に何度か食事したけれど、いつも思っていたことがある。


 研究所のご飯が美味しくない。正直に言って、不味すぎる。


 今日は緑色のスープと、何の具材で作られたのか分からない薄い茶色の固形物だ。全体的に味が薄くて食べ応えも無く、調理は雑だった。見た目も悪くて、食べる気を失せさせる。


 これ1食で人間に必要な栄養が十分に取れているらしいが、もっと美味しい料理を食べたい。


「ソフィアは、そう思わない?」

「そうかな?」


 向かいに座って一緒に食事しているソフィアに向かって、俺は主張した。数日間、共に過ごすことが多くて、砕けた話し方に変わる程度には彼女と仲良くなっていた。


 研究員であるソフィアと俺は、彼女のラボで食事しながらご飯の不味さについてを語り合う。


「うーん、普通だと思うけど。そんなに不味い?」


 スプーンで緑色のスープを掬って一口食べる。彼女は、それを普通に食べていた。味を確認して、首を傾けながら俺の意見に賛成できない様子のソフィア。薄い茶色の固形物も平然とパクパク食べて、不味そうな表情もせずに平気そうだった。


 ソフィアは生まれてからずっと、コレを食べてきたから平気らしい。ここに居る、研究員たちもそうだという。


 彼女にとって、これが普通だという。俺は、そんなに食に拘るような人間ではないけれども、これは酷すぎると思うんだ。


 これと比べたら、もっと普通の味がする食事を知っているから。これは、今までに何度も転生を繰り返してきた結果の、思わぬ弊害だった。


 普通の食事をしてきた記憶があるから、今食べている料理の味と比較してしまう。そして、不味いと感じていた。


「食事は改善できないの?」

「うーん。それは、ちょっと難しいわね」


 ソフィアに食事の改善をお願いしてみたけれど、難しいという答えが帰ってくる。というのも、これ以上に美味しい食材が手に入らないから。


 人類が生活していた惑星は、機械たちによって支配されていた。そこに住んでいた人類は、機械によって追い出されたとか。そして、逃げ出した人類は宇宙へ。


 俺は今、なんと宇宙に居ます。しばらく経ってから、その事実を知った。どうりで研究所から出ずに、常に室内で生活しているわけだと納得した。


 とにかく、星から追い出された人間たちは今、宇宙で生活をしている。宇宙空間で育てられた植物や、組織培養されて得た肉を食べていた。俺が食べているのが、ソレらしい。


「残念だけど、どこに行っても変わらない。上の連中は天然物とか、ちょっとばかり贅沢しているみたいだけど、下っ端には回ってこないのよね」

「なるほど。敵を倒す理由が、ハッキリしたな」


 機械の敵から星を奪い返す。そして、ちゃんとした環境で作物を育てたり、家畜を育てて肉を得る。美味しい料理が食べられるように、敵を倒さねばならない。


 毎日、実験とトレーニングの繰り返しで娯楽は何もない。鍛えることも楽しいが、それ以上に楽しめる可能性のある食事が、不味い飯では楽しむことは無理だった。


 もしも魔力が使えたならば、宇宙空間だったとしても魔力付与して美味しい作物が育てられたかもしれない。けれど今の俺には、魔力も無い。魔力付与ができない。


 今まで使っていた魔力が使えなくなるだけで、こんなに大きな影響が出るなんて。




 アイテムボックスの中に残っていた、前世から引き継いだ緊急事態に備えて入れた食料。味は普通だが、この世界の食べ物より何百倍もマシだった。


「あー、美味しい。でもなぁ……」


 まさか、こんなにも価値ある物に変わるとは思わなかった。しかし、収納している量には限りがある。毎日食べるとして、おおよそ3ヶ月分ぐらいしかない。


 アイテムボックスの中に保管しておけば腐ることはないので一先ずは安心。だが、どうしよう。いつ、食べようかな。


 食事について困った俺は、この先の食糧問題について凄く頭を悩ませた。美味しい料理を食べるためには、どうしたらいいのか。敵を倒して星を奪い返すのには、まだ時間が掛かりそうだしなぁ。

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