第103話 能力測定

 翌日から、実験のデータを取るためのテストが行われた。


 色々な機械を駆使して体の隅々まで詳細を調べ尽くされていく。ペーパーテストもいくつか行った。その結果について俺の目の前で堂々と、大人の男達が真剣な表情を浮かべながら議論している。


「体は、ちゃんと育っているようだな」

「設定した通り、18歳まで無事に成長しているようだ」

「だが、身長や胸が大きすぎるぞ。これでは戦いに支障が出るのではないか?」

「それは仕方ない。元にした遺伝子データから、引き継いだ身体的特徴に過ぎない」

「この部分はどうだ? 知識が壊滅的のようだが」

「知能に問題はないぞ。受け答えは出来ているし、計算能力や記憶力は優秀だ」

「なるほど。一部のインプットが上手くいっていない、ということか」


 議論している最中に、テストのデータと俺を交互に見る大人たち。評価されたり、ダメ出しされたりして微妙な気分を味わった。どういう表情で俺は待機するべきか、ずっと悩んだまま変な表情を浮かべていたと思う。




 その後、体力試験が行われた。


 意識が覚醒した直後、魔力を使うことが出来ないと判明した。そして今も、魔力は使えていなかった。これは、今後もずっと使えないと思っておいたほうがいいだろうな。ということは、今までのように身体強化の魔法が使用できない、ということ。


 これから戦いが待っているとなると、戦闘能力の低下は色々と困るかもしれないと思った。今までとは違う体に、慣れる必要もある。でも意外と、なんとか出来るかもしれない。


 元々、この体の身体能力が非常に高かったから。


 筋力や体力、持久力に反射神経などなど。戦うために作られたとソフィアが言っていたが、こういう事かと俺は理解する。


 身体強化の魔法を使わなくても、体力や筋力など鍛えていないとは思えないぐらい圧倒的だった。今はまだ覚醒した直後で、体に微妙な違和感があった。だけど、この感覚のズレを修正していけば更に能力を高めていけるだろう。


 腕立て伏せ、腹筋と背筋。それから、数キロのランニングを実施して結果が出る。研究員たちが、測定した結果を見て驚いていた。


「これは、とんでもないな!」

「予想値を大幅に超えているぞ。実験は大成功だ」

「いいや、待て。これは何でも出来すぎじゃないだろうか」

「この個体が、突然変異体だという可能性があるのか」

「今回のデータは、参考にならないということか?」

「早急に比較対象が必要だろうな。次の計画の実行を進めるべきだ」


 目の前で、大人たちが喧々諤々と実験結果を議論している。また俺は、その様子を側で聞かされながら、なんとも微妙な気持ち。


 そしてまた、次のテストに移っていく。




 様々なテストが実施されて、全て終了した後は自由となった。ソフィアは、測定が終わった直後に会いに来てくれた。


 俺のテストが行われている間、別の仕事があったらしくてテストに付き添うことが出来なかったらしい。


「結果は、どうだった?」


 顔を合わせると早速、テストの結果についてを聞いてきた彼女。心配そうな表情を浮かべていた。そんな彼女の質問に、俺は答える。


「まぁまぁ、です」

「そう。それは良かった」


 2人きりで会話した。ソフィアは相変わらず、俺を気にかけてくれている。実験が始まる前にも会いに来てくれたし、終わった直後にも来てくれる。会話して、心配や困ったことがあると話せば、色々と気を配って、世話してくれた。


「1つ直してほしいことが……」

「どうしたの?」


 こうやって彼女にお願いしてみると、すぐに動いてくれる。


 大人達が目の前で実験結果を議論しているが、それを止めてほしいと伝えてみた。すると、次から俺の目の前で結果についての議論をされないようになっていた。


 試験が終わると、すぐ解放されるようになった。そして彼らは、見えないところで議論し合うようになった。もしかするとソフィアは、かなり上位の立場にいる人物なのかもしれない。


 自由な時間も増えたので、自分のやりたいことを進める。


「それから」

「ん? なに? 遠慮せずに言ってみて」

「体を鍛えたいです」


 次に、トレーニングしたいとお願いしてみると彼女は訓練室まで用意してくれた。色々な器具が用意されていて、訓練するのに最適な環境を整えてくれた。


 その部屋を使って、まずは鍛え直す。腕を磨き直すために数時間のトレーニングで汗を流す。


 ソフィアにお願いして、かなりの自由を許されながら俺は、気楽に毎日を過ごせるようになった。





「ふっ、はっ、はあっ!!」


 毎日、ほとんどの時間を訓練室で過ごすようになった。今までの人生で学んできた知識を活用して、戦うための動きを見直す。体にある、感覚のズレを直していく。


 汗を流して、細かい動作もチェックしながら体を動かす。


 これまでの慣れ親しんできた男の体とは、少し違う。女の体でもある今の状態は、感覚に微妙なズレがある。それらの違和感に戸惑いながら、今までの知識を活用して改善していく。微妙に違うけれど、同じ人間の体。修正すれば、ちゃんと動かせる。


 反復を繰り返して、今の体で最適な動きを探し求めるのに時間をかけた。この体に最適な動きを探り出した後、それを繰り返して体に覚え込ませていく。考えなくても瞬時に動き出せるようになるまで、徹底的に。


 自主的なトレーニングを積み重ねて、着実に腕を磨き直してく。前のように戦えるぐらい。それ以上の実力を発揮できるように。この体で出せる能力を最大限に活かせるように、訓練を繰り返していく。

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