第96話 各地での活躍と、戻ってきた仲間たち

 王都まで戻る旅の道中、魔物の大群に襲撃されそうになっている街があった。勇者ジョナスと協力して救援することに。急いで対処して、早く旅を再開するために。


「カテリ、ジョナス。皆も」

「はい」

「何でしょうか、師匠?」


 カテリーナとジョナス、彼の仲間たちも呼んで街の防衛に関する作戦を話し合う。魔物の襲撃が激しくなりそうな正面を俺とカテリーナの2人が担当して、後方の防衛と市民の救出をジョナスたちに任せることにした。


 その後、街に所属している勇者と、街の守備隊にも方針を伝えておく。作戦内容を共有して、魔物の襲撃に備えた。




 今までにも何度か、魔物に襲撃される街の防衛を行ってきた。


 その時はジョナスが全体の指示を執りながら、カテリーナや俺たちが指示に従って戦う形だった。けれど、ジョナスには5人以上の多人数を指揮する経験が浅いようで危なっかしい。なので代わりに、俺が指揮するような形に変わった。


 勇者は、4人組のパーティーで行動するのが基本らしいから、それ以上の人たちを指揮する経験がなくても仕方がないこと。俺は、幾つもの世界で部隊を指揮してきた経験があったから。こればかりは、経験の差が違いすぎるだろう。


 ジョナスも経験を積めば指揮能力が磨かれて、出来るようになるはず。貴族だから経験する場も、これからは増えていきそうだ。今回も、こんな緊急事態じゃなければ彼に経験を積ませるために任せるんだけれどなぁ。


 今のタイミングで、そんな大変な試練を与えてしまうと、失敗してしまったときに彼の精神が危うくなったら困る。もしかすると、これから魔王との戦いが待っているのかもしれないから。今は、余計な負担を減らしておく。実力を磨くのは後回しだ。全て終わってから、また鍛えれば良い。


 なので今は、街の防衛指揮は俺が執っていた。




「了解しました、師匠!」

「すぐに向かいます」

「私は、リヒト様と一緒に正面ですね」

「おねがい」


 周りで見ている街の者たちは、最強の勇者であるジョナスが指示を受けているのに疑問の顔。中には、俺が最弱の勇者と呼ばれていた過去を知っている者もいるのか、逆じゃないのかという表情を浮かべている人もいた。


 けれど、ジョナスが唯々諾々と指示に従っているので、それを指摘してくるような者は、1人もいなかった。




 そして、魔物の撃退は無事に成功。街の被害も軽微である。防衛に成功した後は、周りの評価は一気に変わっていた。俺とジョナス、2人の勇者に向けて街の人達から称賛の声が上がる。


 魔物に襲われるのを阻止した街に危険が無くなったのを確認してから、すぐに出発する。休むことなく、王都へ向かう旅を再開した。


 そんな調子で、いくつもの街を救いながら王都まで戻ってきた。


 かなり急いだ旅だったので、ジョナスたちは疲れたようだ。ここで一旦、休憩してから報告と準備を整えて、魔物の数が増えだしたという場所への調査に向かう。


 勇者パーティーが4組も消息を絶ち、ジョナスも一度だけ調査に行った時に危険を感じた場所らしいので、気を引き締めないと。





 久しぶりに王都へ戻ってきた、俺とカトリーナ。そんな俺たちに会いに来た人物が居た。


「お久しぶりです、ヘヘッ」

「勇者様のお噂は、かねがね伺っておりますよ」


 目の前に現れたのは、2年前に突然、姿を消して行方知れずとなっていたクリスとウェーズリーの2人だった。まさか、彼らと再会することになるとは。


「お前たちは! なぜ、今さらになってリヒト様のもとに戻ってきたッ!」


 カトリーナは2人を見て、顔を真っ赤にさせながら怒った。今にも、飛びかかっていきそうな形相で彼らを睨みつけている。


「いやいや! 俺たちも、リヒト様の仲間ですよ」

「逃げたんじゃないんですよ。王国からの使命に背くわけがありません。ちょっと、別行動していただけで」


 下卑た笑い方で俺の様子を伺いつつ、思ってもいないことを彼らは口にする。なら2年前に黙って姿を消したのはなぜなのか、彼らに聞きたいが。


「今、なんだか大変みたいじゃないですか」

「何か手伝おうと、急いで戻ってきたんですよ」


 おそらく、最強の勇者ジョナスと一緒に行動していることや、各地での活躍を耳にして、自分たちもその恩恵を受けようと考えて戻ってきたのだろう。その表情から、欲望が透けて見える。


「お前らの力なんか、必要ない。さっさと失せろ」

「どうなんですか? リヒト様」


 カテリーナは怒って2人を追い払おうとするけれども、クリスは無視をして、俺にお伺いを立ててくる。なので、こう答えた。


「許す」

「なっ!?」


 俺の答えに、唖然とするカテリーナ。


「ヘヘッ。また、よろしくおねがいします」

「今度は、活躍してやりますよ」


 信じられないという表情のカテリーナと、下手に出ながらパーティーに戻ってくるつもりのクリスたち。




「な、なぜ!? 彼らを許すのですかッ!?」

「有効活用」


 カテリーナが怒るのも理解できるし、俺もちょっと苛立ちはある。だが、せっかくなら戻ってくると言う彼らを有効に使おうと思う。今は、少しでも戦力の準備が必要になりそうだから。


「有効活用? 彼らのようなダメ人間なんかが、何かの役に立つのですか?」

「うん」


 役に立つように、今から彼らを鍛える。ジョナスたちが休憩している、短い時間を使ってクリスたちを訓練する。これから行う調査にも、役立ってもらうためにも。


「特訓。来て」

「は?」「え?」


 訓練に使える時間は、非常に少ない。こんなに短時間で人を育てる、という挑戦は俺の長い転生人生の中でも初めてのことだった。だから、彼らで試してみよう。


 今まで逃げていたのに、今さらパーティーメンバーに帰ってくる、というのならば多少の無理も仕方ないよね。


 これから先の旅は、非常に危険なものになるだろう。中途半端な実力では、彼らも危険だった。俺のパーティーに戻ってくるつもりならば、今のうちに少しでも実力を磨いておかないと。旅の準備をしている今、それが必要だった。


 俺はワクワクしながら、彼らの訓練メニューを考え始める。壊れてしまわないよう注意しながら、短期間で限界ギリギリの最大効率と成果を求めて彼らを鍛える。




「リヒト様、大変です! あ、いえ、そんなに大変でもないです」

「どうした?」


 クリスたちを特訓している合間に、調査に向かうための準備を進めていた。そんな俺のもとにカテリーナが、慌てて駆け寄ってくる。何か起きたようだ。でも、途中で落ち着いていた。


「2人がまた、逃げ出しました」

「そう」


 やっぱり、逃げ出したのか。だけど、想定よりも早かったな。ちょっと休憩させた隙に、クリスたちは再び逃げ出してしまったらしい。


 もっと精神的に猶予をもたせつつ、ギリギリを狙わないと駄目だったか。見立てが甘かったと、俺は反省する。


「流石に、あの厳しすぎる特訓は私でも逃げ出したくなります」

「そう?」


 カテリーナなら余裕だと思うけれど。彼女が厳しいと言うのなら、ちょっと無理をさせすぎたかな。調整が難しい。でも今回、あれぐらいの負荷を掛けて訓練すれば、誰でも短時間でそれなりの成長は出来る、という結果を得られた。


 しかし、もったいないな。これからクリスとウェーズリーの2人は、ぐんぐん成長していく予定だったのに。本当に残念だ。


 訓練に耐えて鍛え続けていれば、ある程度の実力までは成長出来そうだったのに。逃げ出してしまったので、そんな未来は永久に来ない。もったいない。


 結局、俺の勇者パーティーのメンバーには、カテリーナだけが残ることになった。

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