第95話 ジョナスの勇者パーティー

  ジョナスと一緒に行くことを決めて、彼と一緒にロントルガの街にやって来た。そこに、ジョナスの勇者パーティーのメンバーである3人が待っているという。


「ジョナス様、彼らが」

「うん。こちらの目的は達成した。そっちはどうかな?」


 戦士の男が、 ジョナスに話しかける。まるで執事のように付き従う様子から、忠誠心が感じられた。そして、俺たちを見る視線には警戒するような色が宿っている。


 魔力が非常に高い剣士の男は、周囲への警戒を怠っていない。その佇まいからは、一般人とは違う戦う者のオーラを感じる。


 そして、回復役らしい女の子。ジョナスと合流して、ホッとしたのか安堵の表情を浮かべていた。


 彼らが、ジョナスの勇者パーティーの仲間たちか。ジョナスは、かなり信頼されているようだな。仲間との関係も良好らしい。


「この街の勇者、ブルーノ様への状況報告は完了しています」

「よし。ならば、急いで王都に戻ろう。お互いの自己紹介については、移動しながらにしようか」

「「「了解しました」」」


 ジョナスが俺を連れてくる間、彼らの方は別行動で何やらブルーノに話をしていたらしい。状況報告した、と言っていたが。


「師匠が安心して、この街を離れられるように準備しておきました。この街の勇者、ブルーノに魔物の増加と魔王の復活について知らせておきました。それから、魔物の襲撃には十分注意して、街の守りを固めるように忠告も」

「なるほど、ありがとう」


 ジョナスが配慮してくれて、俺が安心して旅立てるように準備してくれたらしい。感謝しておく。ロントルガの街は、確かに心配だったから。


 ブルーノが事情を知っているのなら、魔物の襲撃にもちゃんと備えるだろう。街や孤児院も安全だろう。


 ジョナスが引き連れている3人のパーティメンバー、俺が引き連れるカテリーナ。合計6人で、王都へと向かう旅が始まった。




「ところで師匠の他の勇者パーティーメンバーは、どこに?」

「逃げた」


 俺のメンバーに残っているのは、カテリーナだけ。他は逃げた。


 今頃、奴らはどうしているのだろうか。どこかで今も生きている、とは思うけど。正直に答えると、ジョナスがなんとも言えないような顔をしていた。


「あ、えっと。そう、ですか。了解しました!」


 詳しい事情については追求せずに、ジョナスはそう言った。それ以降も、俺の勇者パーティーのメンバーに関しての質問はなかった。




 王都へ向かう旅を続けている最中、ジョナスの仲間たちが一緒についてきている、カテリーナの強さについて聞いてきた。これから先の、魔物との戦いで足手まといにならないか心配だと。


 彼らのリーダーであるジョナスが、カテリーナの強さを保証したけれど、仲間たちは実際に見てみないと信じられないようだった。


 ジョナスの仲間たちの疑問に答えるため、実際に手合わせして、実力を試してみて判断することになった。


「リヒト様以外との対人戦、私は戦えるのでしょうか?」

「問題ない」


 いつもは、ロントルガの街周辺に生息している魔物を狩る手伝いをしてくれているカテリーナ。模擬戦では、俺を相手にして戦う。他に、腕を競い合う相手が居ない。だから、人との戦いには自信がないようだった。だが俺の目から見ると、実力の差は彼女が圧倒的だった。


 ジョナスには申し訳ないが、彼の仲間たちの鍛え方は足りない。実力はそこそこ、ぐらいしかなかった。脅威はないから大丈夫だと、カテリーナに言い聞かせる。


「わかりました、やってみます!」


 それで自信をちょっとだけ取り戻したのか、ジョナスの仲間との腕試しに向かったカテリーナ。


「ジョナス様が、なぜ最弱の勇者と呼ばれている彼の協力を必要とするのか、私には理解できません。そして、その勇者の仲間である貴女が、この旅について来るとは。生半可な実力では、これからの戦いで生き残れないでしょう。なので早く、その現状を認識してもらいます」

「……よろしくおねがいします」


 腕試しの相手である、ジョナスの仲間で戦士の男が言った。


 まだ俺は、世間から最弱の勇者と呼ばれているらしい。あの噂は収まっていないのか。ジョナスの仲間に悪意はなかった。純粋な気持ちで、カテリーナに忠告してくれているようだ。


 それは、彼らなりの優しさ。これから先は、ついてくるのなら危ない目に遭うかもしれない。命が惜しければ、離れたほうがいいと。


 しかしカテリーナは、そんな注意が必要のない相手だった。


「なッ!?」

「え?」


 実力を競い合う戦いが始まると、序盤から両者が困惑していた。


 一方は、なぜこんなに当たらないのか。攻撃を続けるが、ダメージを与えられない。手も足も出ないだなんて予想外という顔だろうか。


 そして、もう一方は、なぜこんなにも弱いのかという表情。動きを全て読み切り、攻撃を避け続けている。隙をついて、適度に反撃する。まだまだ様子見のつもりか、全力を出していない。余裕があった。


 もちろん、押されているのがジョナスの仲間の戦士で、押しているのがカテリーナである。


「ぐっ!?」

「そちらも、本気を出して下さい」


 カテリーナの攻撃を受けようとするけど、耐えきれずに片膝をついていた。男性が女性に力で負けている光景。


 戦士の男も実力を隠していると、カテリーナは疑う。早く反撃しないと、このまま勝ってしまうと警告した。


 違うんだ、カテリーナ。それが彼の実力なんだよ。隠してなんていないんだ。


 しばらく、普通の環境から引き離して彼女を鍛えてきたから、普通を忘れている。彼女の比較対象が、俺の実力になっているようだ。


「カテリ、手加減」

「え? あ、はい。分かりました」

「な!? このッ!」


 ジョナスの仲間が怪我しないようにと、指示を出す。それを聞いたカテリーナが、力を抜いた。あまり激しく攻撃を続けると、怪我をしてしまう。


 戦士の男は、挑発されたと思ったようだ。全身全霊で、その一撃を繰り出す。それでも、カテリーナには届かない。


「なっ!?」

「今のは、少しだけ凄かったです。だけど」


 一撃を受けきって、カテリーナが微笑む。そして、剣を振るった。それだけで、戦士の男が吹き飛んでいた。地面に倒れ込む。


「私の勝ちですね」

「ッ! 負けました」




 結局、ジョナスの仲間である戦士は負けた。カテリーナが勝った。


「次は、俺が相手になる!」

「はい。受けて立ちます」


 目の前の光景に納得できないと、ジョナスの他の仲間も戦いを申し込んだ。それを受けて、カテリーナは、戦って勝ち続けた。3連戦して全勝。まさか、そんな実力の差があるなんて思わず、ジョナスの仲間たちは呆然とした表情。かなりショックを、受けてしまったようだ。


 ジョナスの仲間に勝ち続けたカテリーナも、困惑していた。相手の実力の低さに。自分が、とんでもなく強くなった事を自覚していなかったようだな。後で、ちゃんと説明しておかないと。




「師匠。僕も久しぶりに手合わせを、お願いします」

「うん」


 ジョナスが、久しぶりに手合わせをお願いしてきた。彼の今の実力に興味のあった俺は、手合わせを受けた。


 王都へ向かう旅は、まだまだ続いている。じっくり堪能したいところだが、時間も無いので、手合わせは程々に終わらせないといけない。早く旅を再開しよう。ということで、速攻でジョナスを倒した。


「強くなった」

「いえ、僕なんか全然。まだまだ、鍛え方が足りませんでした……」


 喉元に剣を突きつけた俺と、地面に膝をついたジョナス。2年前に比べると、腕は確実に上がっている。ちゃんと鍛えているみたいだが、彼は自分の実力には納得していない。まだまだ、強くなりたいと思っている。向上心が凄い。


 周りで手合わせの様子を見ていたジョナスの仲間たちは、驚いていた。


「そんな」

「最強の勇者が」

「最弱の勇者に負けている、だと……?」


 ジョナスの仲間の3人が、再びショックを受けた様子だった。最強の勇者?


「ジョナス、最強?」

「恥ずかしながら、世間ではそう呼ばれているみたいなんです。本当に最強なのは、僕ではなく師匠なのに」


 そうだったのか。俺とは逆に、最強と呼ばれいてるらしいジョナス。勇者の称号を得てから、ジョナスは色々と活躍しているようだった。

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