第75話 辺境村の魔法教師
王都から村に帰ってくると、俺はいつものように村の子たちに魔法の授業をする、そんな日常の生活に戻った。そして授業の合間には、農作業をして働いた。
俺が王都に行っている間、父親と村の人たちに任せていた畑は、とても大事に管理してくれたようだ。父親にはお礼を言って、村の人たちにも感謝として物を贈った。
王都から一緒に連れてきたマリアとも結婚した。母親が、俺達の結婚をすごく喜んでくれた。もしかしたら、この子は一生独りで暮らしていくつもりなのかと心配していたが、その予想が外れたらしいので。俺も2ヶ月前には、そのつもりもあった。
本当は、今回の人生では結婚をするつもりはなかったのだが、その予定を変更してでも、彼女と一緒に暮らしたいと思うようになったから。
妻となったマリアと、母親のゼルマはとても仲良くなったし。結婚してよかった。俺とマリアは村にある一軒家を譲り受けて、2人で一緒に暮らすようになった。
彼女は、神様から授かったというポーションを作る知識を活用して、村の人たちに作ったポーションを配って、彼らの健康を保ってくれた。
村に商売しに来る行商人に作成したポーションを売る契約を結んだりして、生活に必要なお金も稼いでくれるようになった。その合間に、俺の農作業の手伝いなんかもしてくれるような、もの凄く働き者だった。
「毎日、ご飯が食べられて楽しく過ごせているので。これぐらいは、やりますよ!」
というのが、しばらく村で生活してきた彼女の感想だった。そんな働き者の彼女を、村の人たちも暖かく迎えてくれた。今では、村の一員として馴染めていた。
「ありがとう、マリア。君に任せるだけじゃなく、俺も頑張るよ」
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
俺も彼女を見習って、毎日頑張りながら楽しく生きるように努力した。人にものを教える、教師という仕事を全力で頑張った。授業で教えたことを実践して、成長していく子供たちを見ると、とても誇らしかった。
とても充実した日々を送っていた、そんなある日のこと。俺が王都から帰ってきてしばらくすると、魔法の授業を受けたいと村の外からやってくる人たちが現れた。
俺を王都に誘ったコルネリウスのような人たち。しかし、彼らは授業を受けたいと村を訪れた。
わざわざ遠くにまで来てくれたのだから、授業は自由に受けさせる。授業料として村の仕事を手伝わせて、彼らの求める知識を授ける。満足したら帰ってもらった。
そんな事をしているうちに、俺の住んでいる村が有名になっていた。辺境村にいる教師の授業を受けるだけで、魔法の実力が向上する、魔力がパワーアップすると話題になっていたそうだ。そして、全国から授業を受けに来る人が殺到。
こんな辺境の村にまで来たというのなら、魔法について教えよう。だが、勧誘や、村の外に連れ出そうとするお願いは拒否し続けた。
王国だけでなく別の国からも、うちの国で魔法を教えてくれないだろうか、という勧誘をしに来る者も居た。もちろん断る。その代わりに、魔法の知識は惜しげもなく提供した。
基本的な内容なので、これで今すぐに他国の武力が強化されるわけじゃないはず。この知識を進歩させて、新たな戦いの技術が生み出される可能性はあるだろうけど。それは、それぞれの国の人間次第だろう。
とにかく、今すぐに戦争が勃発するようなキッカケには、なりえないはずだ。
しかし、国力を強化できる人材として俺の存在が注目されるような時期もあった。強くなることを求めて、強引に勧誘してくるような輩も居た。
何度断っても、諦めないような者達だ。何を言われても、俺は村を離れるつもりはない。王都に行ったのは、例外中の例外である。そう説明しても、強引な手段をとるような連中に対しては、切り札を出す。俺には豊富な経験があるので、色々な手段を用意できる。
危なそうな連中が現れた場合は、村の人達には全力で隠れるように頼んでおいた。もしもの時は、村人を逃がすために時間を稼ぐつもりでいる。妻のマリアを連れて、逃げる手段も用意していた。
その結果、今までに起きた事件は全て穏便に終わらせることが出来た。犠牲者など出さず、強引な連中も村から追い払った。用意していた手段も、特に使うこともなく終わった。
こうして何の事件も起きないまま、静かに暮らし続けることが出来ていた。俺は、勧誘には絶対に応じない、辺境村の魔法教師として有名人となっていた。
時が、どんどん進んでいく。
俺は、妻となったマリアにも魔力の使い方や鍛え方を伝授する。魔法に関する知識も教えた。それは、村の授業で教えているような基本的な内容。だけでなく、村では教えていないような特別な内容なども教えた。俺の知識は、まだまだ沢山あった。
逆にマリアからは、ポーションの作り方を教えてもらった。回復効果が高いもの、特殊な効果があるようなものは詳しく作り方を教えてもらっても、完成させるまでが非常に困難で、俺では作る事が出来なかった。
簡単なものは、作り方を覚えて完成させることが出来た。彼女に教えてもらって、簡易ポーションを作れるようになった。
そんな日常を過ごしているうちに、子供を授かった。マリアとの子育てが始まる。前世で子育てを経験していた俺だったが、それでも色々と苦労したし、妻のマリアが頑張ってくれた。そして、いい子が育ってくれたと思う。
男の子が2人、女の子が2人。6人家族になって、毎日を楽しく過ごしていく。
息子には、戦い方を教えた。剣や弓、体術など。娘には魔法を教えた。自衛出来るぐらい鍛えた。おそらく俺の子たちは、村の中で突出した戦闘力を身につけていた。
子供たちにも孫が生まれて、さらに家族が増えていく。俺達の家庭は、にぎやかになっていく。それほどの時間が経っていた。俺たちは順調に、歳を重ねていく。
そして、とうとうお別れの時。ここまで、あっという間だった。それから今回は、妻を残して俺が先に逝くことになりそうだ。
「母さんのこと、後はまかせた」
「うん。わかったよ、父さん」
「お母さんの事は、私達に任せてね。だから安心して、お父さんは休んでください」
「ありがとう、お前達」
ベッドの上で横になったまま、俺は子供たちにお願いする。俺が死んだ後、マリアの事は彼らに任せた。立派な大人に成長していた彼らは力強く頷いて、引き受けてくれた。
子供たちとのお別れを済ませた後、今度は愛する妻との別れ。
「リヒトさん。具合は、どうですか?」
「悪くないよ。君の顔を見たら、元気が出てきた。今日は、調子が良さそうだ」
「それは、良かったです!」
魔力操作を覚えたマリアは、今でも歳の割には非常に若々しい見た目をしている。神様から頑丈な体も授かっているので、まだまだ長生きしてくれそうだ。
俺が死んで居なくなった後の生活も、子供たちや孫たちが助けてくれるだろうし、村の人たちも親切にしてくれるだろう。後を任せても、安心できる状況。彼女には、もっと楽しく、長く生き続けてもらいたいものだ。
「だけど、ごめん。先に逝くよ」
「謝ることなんてないわ、リヒトさん。ゆっくり休んで」
俺は前世で経験していたからこそ、見送る人の気持ちが痛いほど分かってしまう。だから、申し訳なかった。
先に死ぬことになってしまうことを、心の底から謝罪して、許しを求めた。でも、彼女は優しく微笑みながら、ゆっくり休んでと言ってくれた。
「ありがとう、マリア」
色々な思いを込めて、感謝の言葉を口にした。
「貴方と一緒になれて、とても幸せだった。愛しています、リヒトさん」
「俺もだよ、マリア」
最後に手を握り合い、愛の言葉を囁き合って、お互いに笑い合った。彼女の温もりを感じながら、俺は眠りについた。
今回の人生は、当初の予定通り。大きな事件は起きることなく、巻き込まれもせず無事に終えることができた。
愛する妻と、大切な子供たち、孫たちに囲まれて、静かに生涯を終えた。
今回の人生は静かに生きるという目標を、ちゃんと成し遂げられたという達成感に満足しながら、その人生を終わらせることが出来たのだ。
これで、一体どうなるのか。まだ俺は、転生を繰り返すのか。それとも……。
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