第60話 魔力の研究成果

「お、美味い」


 収穫したばかりの作物を口に含み、モグモグ噛んで味を確かめてみた。口の中に、甘みが広がった。うん、美味しい。この実験は大成功かな。


 あれから更に時は流れて、俺は15歳になっていた。今は、実験畑で育てた作物の味見している最中である。


 ここにある実験畑には、俺の魔力を混ぜ込んだ土を敷いてあった。こちらの世界に来てから、長年の研究結果で魔力を物に宿す方法を発見した。その方法を駆使して、様々な使い道を模索している途中。


 思いついた1つが、魔力を含んだ土で作物を育ててみたらどうなるのか。結果は、作物の成長が早くなり、味も良くなったという訳だ。


 魔力を物に移す方法は単純で、魔力を宿したい物体に向けてしつこいぐらい放出し続けるだけ。そうすると、いつかは物体に魔力が宿るということが分かった。かなり時間がかかる方法だけど、ゆっくり魔力が浸透していって、ちゃんと物に魔力が宿ることが判明した。


 もしかすると、他にもっと効率的な方法があるのかもしれない。まだ、他の方法は発見できていない。


 物質によっても、魔力の宿る量やスピードが変化する。まだまだ研究が必要だ。


 とにかく俺は、新たに発見した方法に魔力付与と名付けて、様々な実験を行った。これまでの過程について、少し振り返ってみようかな。どうして土に魔力を含んで、育ててみようと思いついたのかについて。




 紙にも魔力を宿してみようかと思いついて、実験してみた。その結果、思った通り魔力を宿すことには成功した。


 けれどその後、魔力を宿した紙の使い道について、良い方法を思いつかなかった。一生懸命考えてみるが、駄目だな。これを役立たせる方法が、残念ながら今の俺には思い浮かばない。


 当初の想定では、紙に魔力を宿すことによって、体の中に魔力が無くなった場合の代わりとして紙から魔力を引き出して、魔法を発動できるようにする。そんな道具を製作できないだろうかと、考えていた。


 その紙を束ねて、一冊の本にする。魔法書と呼べるような、道具を作れないかな。そんな目的を持って、研究を進めてきた。


 一度、物に宿した魔力を引き出すことは出来ないようだ。物体から魔力を取り出す方法は見つけられていない。せっかく物体に魔力を宿しても、宿した魔力をそこから取り出す方法がない。


 そこで方向性を変えて、魔力付与を別の何かに使えないだろうか考える。


 実験を繰り返した。そして、食べ物に魔力を付与させてから食べてみると、消費しした魔力を回復できることを発見した。


 なるほど、付与した魔力を食べて体内に取り戻せばいいのか。その方法を発見して俺は喜んだが、すぐに落胆する。


 効率が、かなり悪かったから。回復する魔力の量はごくわずかだ。魔力を付与した後の食べ物を口にしてみても、体感では、付与するのに消費した魔力が十分の一すら戻ってこないようだ。


 全力で魔力を付与しても、回復するのは少しだけ。


 緊急時のために用意しておくのはいいかもしれない。だが、魔力付与した食べ物をわざわざ用意するほど、効果的な道具にはなりそうにない。


 それに、戦っている最中に食べて魔力を回復させることも難しいだろう。戦い以外では、使う機会もあまり無さそう。体を動かさずにじっとして休めば、少しは魔力を回復できるし。魔力付与された食べ物を口にするよりも、早く回復しそうだから。




 もう一つ、大きな発見があった。魔力を付与した食べ物は美味しくなった、ような気がする。本来あった食べ物の味を、魔力を付与すると濃く感じられるようになったみたい。


 いくつか食材を変えて、魔力を付与してから食べてみる。すると、どういう原理により、そうなるのか分からない。しかし、どれも美味しく感じられるようになった。


 これは自分の魔力だから、そうなるのか。他の人に食べさせたら、どう感じるのか知りたくなった。


 一応、俺以外の人に試す前に、動物実験をしてみた。研究の専門家ではないので、この方法が本当に正しいのか分からない。こういう方法があったような気がするな。という程度の感覚で、試してみただけ。


 念の為に、動物に与えてみて問題が起きないことを確認してから、人にも試してみよう。それで、本当に大丈夫なのか分からないけれど。俺も食べてみて、何の問題も起きていないし大丈夫だろう。その時の俺は、知的好奇心が旺盛だった。


 一応、実験に協力してもらう両親には事前に説明してみた。


「作物が美味しくなるのか。それはいいな」


 俺の話を聞いた父親はそう言って、頷く。


「魔法を使うと、そんな事ができるのね。知らなかったわ。でもリヒトなら、大丈夫でしょ。食べてみましょう」


 そう言って母親は、信頼した目で俺を見てきた。とても協力的だった。


 軽く了承を得ることが出来た。ほんとにいいのかなと少しだけ不安になりながら、両親にも魔力付与した食べ物を味見してもらった。


「美味い」

「あら、ほんとに美味しくなってる」


 2人が食べた感想を言っている。結果、魔力付与をしたら食べ物は俺以外の人にも美味しく感じられる、という事を発見した。その後、具合が悪くなる様子もなくて、俺は安心する。食べても問題は無さそうだな。良かった。




 さて、ここまで研究を進めてきて見つかった課題がある。


 魔力を付与するのには、時間がかかりすぎてしまう。だから、一つ一つの食べ物に魔力付与するのは非常に大変な作業だった。そこまで苦労をして、食べたくなる味かどうかは微妙。けれど、辺境の村では調味料は手に入らないし、素材が美味しいのは非常に貴重だから有用でもある。


 魔力付与で美味しさアップ。もっと手軽に出来たら、最高なんだけれど。


 とりあえず、魔力付与についての研究はここで一旦中断。別の研究をしてみるか。そう考えていた時、ふとした瞬間にアイデアが頭の中に浮かんだ。


 なら、土に魔力を宿してみたらどうなるのか。土から養分を吸って育つ作物の味はどうなるのかな。


 ただ、土に混ぜた魔力が作物に移るだけで、効果は薄いかもな。とりあえず一回、試してみるか。


 そういうわけで、魔力を混ぜ込んだ土を用意して実験畑に敷いてみた。


 最初は大失敗だった。どうやら魔力を含んだ土というのが、害虫を寄せ付けるようだった。育てていた作物にびっしりと、害虫がひっついている光景を見た瞬間には、驚きで声を失うほど。魔力には、虫をおびき寄せる効果があるようだ。


 しかし、俺は諦めなかった。


 今度は、害虫対策をしっかりする。そして、魔力を含んだ土が害虫をおびき寄せる効果があるのが分かった。なら、畑以外の場所に魔力を含んだ土を敷いて、そちらに誘い寄せて害虫を駆除する。


 そしてメインの実験畑の方は、害虫が寄り付かないように対策してから、種を植え様子を見る。


 その結果が、俺の目の前に広がっている。大豊作だった。無事に育った作物を1つ収穫して口に入れる。すると口の中に、再び甘みが広がった。うん、美味しい。


 土に混ぜた魔力に変化は少ない。またここに作物の種を植えれば、美味しく育ってくれそうだ。


 今回の実験は、大成功かな。


 そうやって1人で試行錯誤している時間が、とても楽しかった。そして次の研究を進めて、実験を繰り返す時間が必要で、どんどん時が過ぎていった。

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