第51話 大勢力部族との付き合い方
前族長であり、俺の父親でもあるタミムから族長の座を受け継いだ。その日から、俺がナジュラ族の新しい族長ということになった。
ナジュラ族の族長として、自分の役目を確認しながら日々を過ごしていたある日、ワフア族を名乗る者が俺たちの拠点にやって来た。どうやら、会談したいとのこと。
ワフア族は、草原の三大勢力と呼ばれる部族の1つだ。もう、ラビア族というのは消滅してしまったので、二大勢力という事になっているのか。それとも、ラビア族を取り込んだナジュラ族が、三大勢力の1つとして数えられることになるのか。
今はまだ、評価は定まっていない状況。それなのに、ワフア族がやって来た。
相手は、どういう話し合いが目的なのだろうか。何も分からないまま、とりあえず新しくナジュラ族の族長となった俺が、拠点を訪れたワフア族を出迎えることに。
来訪を知らせに来た者の報告によると、どうやら、話し合いに来たのはワフア族の族長らしい。しかも1人で、ナジュラ族の拠点まで来た。族長自ら来るなんて、何か重要な案件なのか。
いつもは商人などの対応に使うため、来客用に立ててある移動住居に来てみると、男性が1人待ち構えていた。身長はそこそこ高くて、スラッとした体格をしている。引き締まった体つきだ。父親のタミムに、似たような威圧感のある戦士の体型。
そんな彼と俺は初対面である。話には聞いていたので彼の事は知っているけれど、会うのは初めて。まず最初に、挨拶を交わした。
「ワフア族の族長、アーキルだ。よろしく頼む」
「ナジュラ族の族長、リヒト。こちらこそ、よろしく」
アーキルと名乗るワフア族の族長は、単身でナジュラ族の拠点に乗り込んできた。もしかすると、俺たちの拠点近くにワフア族の戦士を潜ませているかもしれないが、俺たちの拠点の中には今、ワフア族の族長、アーキル1人だけだった。
1人で居て何か起こっても、自分の力だけで切り抜けられる。それほど自分の力に自信がある、ということなのかな。それだけの度胸もあるらしい。今も、堂々としている。
だから、俺も1人だけで話し合いをしに来た。話し合いの場には、俺とアーキルの両部族の族長である2人しかいない状況だった。ナジュラ族の戦士も下がらせていたので、近くには居ない。
挨拶を交わした後、アーキルが俺の顔をジロジロと見つめてくる。何だろう。何を見られているのか。
「若いな。いくつだ?」
「11歳だ」
直球な質問。俺とアーキルの体格を比べてみたら、身長差はそれほどないだろう。俺の体はかなり早く成長していて、大人のように見えると思う。それをひと目見て、若いと気付かれていた。何を見て、そう判断したのかな。
疑問に思いつつ、俺は正直に自分の年齢を答えた。すると、彼は大声で笑った。俺を馬鹿にしたような、不快な笑いではない。純粋に驚いた、というような反応かな。
「ハハハッ! それは、若すぎるだろう。話には聞いていたが、想像していた以上の若さだな。なるほど、なるほど」
「やはり、若すぎるかな?」
やはり、想像していた以上に俺の年が若かったから驚いたようだ。信じられない、といったような感じではなく、面白いものを見つけたような、そんな感じ。やはり、族長を務めるには若すぎるかな。感想を聞いてみると、彼の表情は真顔に戻り、次のように言った。
「俺は、その年齢で族長の地位を受け継いだことに、心底驚いているんだよ。本当に凄いと思っている」
彼が語る言葉は本音なのだろう。笑うのを止めて、真剣な表情で語り始める。
「ナジュラ族なんて、ただの中勢力の部族だと思って侮っていたが、とんでもない。ラビア族を倒したのは、偶然などではない、ということか。こんな実力者がいるとは思わなかったぞ」
正直に感じたことを、俺に打ち明けていくアーキル。彼の語る言葉に、嘘はないのだろう。本心から、そう思っていることが伝わってくる。更に、本音を語り続けた。
「俺は、自分の力に相当な自信があった。だが、お前を見てると実力では勝てないということが分かってしまったぞ。しかも、まだまだ若い。末恐ろしいな」
「そうなのか」
少し見ただけで、そう思えるというのならアーキルも相当な実力者だと思う。彼と戦うことになった場合には油断せずに、強く警戒したほうが良さそうだと胸に刻む。
それから、ワフア族とナジュラ族の関係について話し合いが行われた。話し合いの結果、ワフア族とナジュラ族は協力協定を結ぶことに決まった。互いに戦いを仕掛けない、という約束だ。
「俺たちは、勝てない戦いは極力したくない。だから、お前達との戦いは避けたいと考えている」
「こちらも、無駄な争いは望まない。特に今は、部族の力を蓄える時期だと考えているから」
話し合いを終えた俺たちは、固く握手を交わす。これは、かなり良好な関係を築けそうだ。この先、アーキルとは長く続く付き合いになるような予感もする。
「それではな!」
会談が終わって、ワフア族の族長であるアーキルは笑顔を浮かべて別れを告げると1人で颯爽と帰っていった。
とりあえず、大勢力と呼ばれているうちの1つであるワフア族とは戦わずに済んだようで一安心だ。
ワフア族の族長との会談が終わって、しばらくすると次は、バディジャ族の襲撃があった。バディジャ族も、大勢力と呼ばれている部族の1つ。
敵からの襲撃に警戒してナジュラ族は、拠点周辺の見回りを欠かさず行っていた。それで、事前に襲撃を察知することが出来た。
ナジュラ族の拠点がある場所から北の方にバディジャ族と思われる戦士たちの姿を見つけた、という報告があった。
見つけた敵の数は、それほど多くはないらしい。しかし奴らは、ラビア族を敗戦に追い込んだ部族。その戦いがキッカケで、今ではラビア族が無くなっていた。警戒したほうがよさそうだ。
向こうも、俺たちが発見したことに気が付いたのか、ナジュラ族の拠点に目がけて戦士たちが進み始めたので、応戦する準備をする。
「ここは、ナジュラ族が住む土地だ。お前達は、一体、何の用で立ち入った?」
「……」
一応、彼らの目的を問いかけてみたけれど答えは返ってこなかった。そして、手に持った武器を俺たちに向けて、止まりそうにない。奴らは敵だ。
「敵は、止まらないようだ。ならば、戦うまで。行こうか、シハブ! お前達!」
「おう、族長!」
「「「ウォォォォ!」」」
俺とシハブの2人が前線に立って、ナジュラ族の戦士たちは全力で立ち向かった。こちらの戦士たちの気力も十分。この戦いは、勝てるだろうという確信があった。
「なんだ、こいつら。弱いぞ」
「油断するな。何か仕掛けてくるかも」
バディジャ族とぶつかり合い、剣を何度か交えた。そして、簡単に倒れていく敵の戦士たち。
「おい、逃げるぞ!」
「お前達、追うな。追撃は必要ない」
「了解しました、族長」
奴らは、戦いが始まってすぐに逃げ出していった。逃げた敵を追わないように命令して止める。もしかすると敵の目的は、一度交戦してみて、ナジュラ族の実力を測ることだったのかもしれない。
それにしても、相手の戦士は簡単に倒れて拍子抜けだったが。これで油断を誘おうとしているのかな。
拠点に攻撃を仕掛けてきたバディジャ族の奴らに脅威だと思われるように、全力で追い返すことに成功した。
これで、バディジャ族の襲撃が無くなれば良いのだが。しばらくは、周囲の警戒を強める必要がありそうだった。
そんな感じで、大勢力である部族との付き合いが始まった。
ワフア族とは友好的な関係を築いて、バディジャ族とは敵対して。
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