第52話 様々な急成長

 見た目は幼い女の子なのに、実は俺より7歳も年上だったラナ。シハブと比べると1歳年上である。


「この中じゃ、アタシが一番お姉さんなのね。フフン!」


 一緒に鍛えることになり、お互いの年齢を教え合って発覚した驚きの事実だった。それを知って、自慢気に胸を張る彼女。けれども、その見た目は幼い。どう見ても、3人の中では一番の年下に見える。女の子のほうが成長が早いとよく聞くけれども、彼女は違うのかな。


「つまり、一番の年寄りってことだな」

「なんですって!?」

「そんな細いと、男にモテないぞ」

「はぁ? アンタこそ生意気で、女に優しく出来ないからモテないでしょ」

「まぁまぁ、2人とも。落ち着いて」


 ラナとシハブが言葉でやり合う。2人の相性はあまり良くないのか。いつも喧嘩をしていた。そして、2人を止めるのが俺の役目となっている。


「さぁ、訓練を始めるよ」

「「はい」」


 そんな3人で集まって、俺が指導しながら訓練していた。




 戦い方を教えると約束した通り、ラナも毎日の訓練に参加させた。今までシハブに教えてきた、体力をつけるための走り込みのトレーニングから始めて、魔力を感じてコントールする練習、魔法を放つ方法など教え込んでいく。最近は、剣術についても教え始めていた。


 ナジュラ族の訓練で戦士たちに教えている内容よりも濃く、丁寧に指導していく。2人だけだから、集中して見ることが出来る。人数が多くなると、流石に全てを見て指導するのは無理だった。


 ラナは教えると、すぐに様々な技術を習得していった。特に、魔力のコントロールについては、驚くほどの早さで巧みに操れるようになっていった。先に習っていた、シハブを一気に追い抜いて上達していく。成長スピードは、俺よりも早かったかも。すごい才能だった。


 もしかすると、男性よりも女性の方が魔力を操るのは上手い、という傾向があるのかもしれない。かつて、自分の妹だったマリアの事を思い出す。たしか彼女も魔力の扱いが上手だったような覚えがある。久しぶりに思い出した。もう、かなり遠い昔の記憶だな。


「リヒト、こう?」

「そうだ。集中して、ラナ」

「わかった!」


 昔のことを思い出しつつ、ラナを指導する。成長するスピードが尋常じゃないし、彼女に対抗して、シハブも必死になってトレーニングを積み重ねた。それから俺も、彼らに追いつかれないように自分を鍛える日々を送っていた。




 ナジュラ族は、ラビア族を吸収したことにより生まれ変わった。そんな新たな部族として、色々なことを次々と改善していく。


「これから、新しい訓練方法を教える! 強くなりたい者は、試してみろ」

「「「はい!」」」


 伝統だったラビア族の訓練方法についても、徐々に変えていく。これが新しい、我々のスタイルだと言い張って元ラビア族は、新たな方法で訓練をすることになっていった。ナジュラ族となった彼らは、素直に受け入れる。揉めなくてよかった。


「また奴らが来たぞ! 追い払え」

「「「おう!」」」


 戦士の腕がドンドン上がっていき、狩りの成果も上がっていく。時々攻めてくる、バディジャ族の撃退も容易だった。




「ここに、素晴らしい商品があると聞いて来たんだけれど、売ってくれないかね?」


 ラビア族の縄張りだった草原も確保して、拠点には物資が豊富だった。それを買い求めようと各地から商人が集まってくるように。狩りの成果を商人たちに売り込み、手に入れたお金で食料の購入も楽々と出来ていた。貯金ができるほど余裕もある。




「俺たちも仲間に入れてくれッ!」


 急成長していくナジュラ族の噂を聞きつけて、小勢力の部族が多数集まってきた。彼らは、庇護を求めてナジュラ族の元にやって来た人たちだ。


 彼らを仲間に加える。ナジュラ族のルールに従ってくれるのであれば、誰でも受け入れる準備があった。そしてまた噂を聞きつけて、人が集まってくる。


 ナジュラ族の規模は、どんどん大きくなっていった。




 ある日、元族長で俺の父親でもあるタミムが訪ねてきた。


 なにやら俺が、受けなければならない大切な儀式があるという。


「ようやくお前も、成獣の儀式を受ける年齢になったな」

「成獣の儀式?」


 前に聞いた覚えの有る言葉。その時は、意味を教えてくれなかったが。


「本当は、族長の座を受け渡す時に儀式も一緒に行うんだが、あの時は、まだお前の体が完成していなかったからな。仕方ないだろう。ようやく、相応しい年齢になったようだから。今夜、時間を空けておいてくれ」

「まあ、うん。わかった」


 よく分からないまま、タミムと約束する。言われた通り、夜の時間を空けて待つ。

夜になってから、指定された場所へ向かった。



 場所は、タミムの住居だ。族長を引き継いだ俺は、今は別の場所で暮らしていた。族長を託した後、自由に人生を謳歌しているタミムが妻や幼い子どもたちと生活している場所。


 住居で待っているから来てくれと言われていたけれど、これから何をするのかまだ分からないまま。


「おぉ。来たか、リヒト。こっちだ」


 タミムの生活している住居の中に入ると、彼に呼ばれた。声が聞こえた方へ視線を向けると、俺を呼び出したタミムだけでなく、若めの女性が1人いた。彼女は最近、タミムの妻になった1人だったような。


 タミムの妻である女性は多すぎるので、全員の顔を覚えきれていなかった。幼い頃から俺が訓練などに熱中していたので、関わることも少なかったし。一度も話したことがない人が居るぐらい。多すぎるんだよ。そして、どんどん増えていくから。


 でも彼女が居るのは、どういう理由なのか。これから行われる儀式に関わってくるのだろうか。ここに居るということは関係ありそうだけど、分からない。


「では、これより成獣の儀式を始める。2人とも、服を脱げ」

「は?」

「はい」


 横で躊躇なく裸になった女性。まだ子どもだけど、男である俺の目の前で。これが受けなければならない儀式、なのだろうか。もう少し、詳しく説明してほしかった。何をするのか。どうなるのか。突然のことに、とても焦ってしまう。


 俺はどうすれば。とりあえず、ジロジロ見ないように視線を外すべきか。そんな、焦り続けている俺の顔を見たタミムが、ようやく説明してくれた。


「これから行うことは、子供を作るための教育だ。お前もナジュラ族の族長となり、立派な子供を女性たちに産ませなければならない。だから、お前も脱げ」


 タミムの話を聞いて、黙ったまま頷いた。そういう教育もあるのかと驚きながら、言われたとおりに裸になる。かなり恥ずかしい。


「お前の体、凄いなぁ」

「とっても、たくましいお体……」


 2人からジロジロと見られている。もの凄く恥ずかしい。横で呟く声も聞こえて、顔がものすごく熱くなっていた。今まで鍛えてきた体は、自分でも中々のものだとは思うぐらいに自信はあるが、ジッと見られるとやっぱり恥ずかしい。


「では、実戦に移ろう。サリーマ、精霊に祈って」

「はい。タミム様」


 タミムに言われて、目を閉じ、手を目の前に祈るような形で組んでから言葉を口にするサリーマと呼ばれた女性。


「精霊よ。これより、成獣の儀式を行います。どうぞ、見守っていてください」

「よし。同じように、リヒトも言うように」


 タミムに言われて、とりあえず俺も真似して、その通りにやってみる。


「精霊よ。これより、成獣の儀式を行います。どうぞ、見守っていてください」


 これでいいのかな。タミムを見てみると頷いていたので、合っているようだ。


 そして、タミムから一つ一つ丁寧に性行為の方法について教育された。初めては、タミムの妻の1人であるサリーマの体を使って、詳細な説明を聞かされる。


 この儀式は、ナジュラ族に受け継がれてきた方法らしい。


 前族長が、新しく族長になる男に対して自分の妻の1人を使って、性行為に関する知識や、テクニックについて教え込む。


 父親に、こんな事を聞く日が来るだなんて予想していなかった。これが部族の常識らしいが。夫が居る女性とするなんて。しかも、父親の妻と。うーむ。


 実戦する様子を、目の前で見られる。その後に俺がサリーマと体を重ねて、先ほど教えられたテクニックを実践していく。これは大事な儀式らしいので、その気持ちで挑む。教えられた知識を、ちゃんと身につけるために。


「お前は、コレも優秀なのか。凄いなあ。しかし、初めての男を相手に感じ過ぎだぞサリーマ。明日の夜は覚えておけよ」

「タミムさまぁ、もうしわけ、ありませんッッッ……」


 一瞬、タミムの存在も忘れてサリーマの体に夢中になってしまった。そうだった。これは子作りの勉強なんだと、冷静になろうとする。だが、体は熱くなったまま。


 父は優秀だと言ってくれるが、教えてもらったことを実践しているだけ。これは、教えてもらわないと分からないままだと思う。だからこそ忠実に、教えてもらう知識と技術を身に付けていく。


 そして、初めての実戦は無事に終わった。こんな初めてになるとは、色々な衝撃を受けていた。


 父親のタミムから最後に、と言って教えてもらったこと。


 族長と元族長だけが、何人でも自由に妻を増やすことが認められている一夫多妻制らしい。それは、優秀な子供を残すために定められた部族のルール。


「お前はこれから、たくさんの妻を娶り、優秀な子供を残せよ。それが族長としての大事な仕事の1つだ。覚えておくんだぞ。そして、お前の子孫がいずれナジュラ族の未来を背負っていくことになるのを忘れるな」

「はい」


 父親はそう言って、俺の肩を叩くのだった。

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