第48話 受け入れ
これから、ラビア族と合流する。
彼らは、戦いに負けて降伏した後に一旦、自分たちの拠点へ戻っていった。戦いで怪我を負った戦士たちは治療を済ませてから、荷物などを持ってナジュラ族の拠点にやって来たのだった。
先の戦いで敗者となって、族長も失ってしまんだラビア族は、戦いに勝利した我々ナジュラ族の傘下に加わることに決まった。
ラビア族の戦士たちと、女性や子どもたちも加わることに。彼らが、俺たちに要求してきた内容と同じように。
結果的にはナジュラ族が、ラビア族が求めていた状況のような感じになっていた。戦いに負けていたら、女性や子どもを奪われていたのは俺たちの方だった。
改めて、勝ててよかったと思う。
大勢力だったラビア族は当然、ナジュラ族より大所帯だった。なので、受け入れる側である俺たちも大変だ。
これから、元ラビア族となる彼らが生活するための場所を確保して準備をしたり、増えた人数分の食料を確保する方法を考えたり、他部族からの襲撃に備えたりする。より良い生活をするために考えておく必要のある問題が、たくさんあった。
一番の問題は、草原の三大勢力と呼ばれていたラビア族が無くなってしまった後、他に三大勢力と呼ばれている、ワフア族とバディジャ族の両部族がどう動くのか予想がつかない、ということ。
中勢力だったナジュラ族に、ラビア族が吸収されて大勢力になったと見なされるのだろうか。
それぞれの部族が大勢力であるとか、中勢力であると判断する基準はとても曖昧である。部族の規模が大きくて、戦士が多ければ周りから大勢力と言われたりする。
大勢力に比べて、規模が小さくて戦士が少ないと中勢力と言われる。それよりも、さらに数が少なければ小勢力といった具合で、部族の大きさを分類している。
実際に何人の戦士が居たら、どれに分類されるのかという基準は決まっていない。周りがそうだと言ったら、そう決まる。
ラビア族を吸収したナジュラ族は、どうだろうか。大勢力と言われればそうだし、ギリギリ中勢力だろうと周りから言われれば、そうだと思えるような中途半端な数が集まっている。
大勢力だと見なされた場合に、ワフア族とバディジャ族の両部族から標的にされる可能性があった。
しかし、中勢力だとするなら草原の暗黙のルールで襲撃はない。大勢力が中勢力の部族に戦いを仕掛けてはいけない、というルールがあるから。
けれども、ルールを無視して戦いを仕掛けてくるラビア族も居た。何が起こるのか予想できないのが現状だった。
大勢力に襲撃されるかもしれない、という危険があると承知しながらナジュラ族の族長であるタミムは、ラビア族の人々を受け入れた。我々にも多くのメリットがあるから、危険を承知で彼らを引き入れると決めた。
俺も同意見である。
「これから、よろしくおねがいします」
「あぁ、よろしく頼む。君たちが連れてきた者たちの扱いは、ちゃんと約束した通りに、悪いようにはしない。安心してくれて大丈夫だ」
族長であるタミムと、元ラビア族となった代表者の男が握手を交わす。
「ありがとうございます!」
ラビア族のみんなをナジュラ族の拠点にまで引き連れてきた、代表者を務めている男性は、受け入れてくれたことを感謝しながら族長であるタミムに頭を下げ続けた。従うことを誓うかのように、何度も深々と礼をする。
お願いされたナジュラ族の族長タミムが、ラビア族を受け入れた。ナジュラ族が、彼らを吸収する。草原からラビア族は消滅して、ナジュラ族の一員となった。
元ラビア族の受け入れは、順調に進んでいた。
そして、ナジュラ族の戦いから逃げだした者たちにも、様々な作業を手伝わせる。
戦いの直前で逃げ出し、戦いには参加しなかったのだから、今度はちゃんと役目を果たして、ちゃんとした成果をあげるように。汚名返上に努めろと、族長のタミムが逃亡者たちに言い聞かせていた。
「元ラビア族である者たちからの指示にも、従ってもらうぞ」
「はぁ!?」
戦いの直前に逃げ出した奴らは、元ラビア族を奴隷のように扱うと息巻いていた。もちろん、そんな事はしない。ナジュラ族の傘下に加えると言ったけど、これからは協力する仲間なんだから。
「なぜ、我々が奴らの下なんだ!?」
「下にいるのが嫌なら、力があることを示せ。有能ならば、上に引き上げるぞ」
力があることを示して、成果をあげることでナジュラ族に貢献してくれるのなら、戦いから逃げ出した過去の失敗も帳消しにして、立場も改善しようと族長のタミムは言っている。
「ッ……。俺たちは、ナジュラ族だぞ!」
「納得しないのなら、部族から立ち去ればいい。どうするか、お前達の自由だ」
しかし彼らは、元の体制に戻して、自分たちが良い思いをするために元ラビア族を引きずり降ろそうと必死だった。だから、族長のタミムも突き放す。
自分たちにとって都合が良いだけの体制改善を求めるような彼らを、タミムは雑にあしらった。
もともと、戦いから逃げ出して居なくなった者たちだ。再び、都合が悪くなったと姿を消したとしても、何の問題もない。今は、元ラビア族と融和を図るのが最優先であるので、彼らにかまっている暇はない。
「ぐぐぐっ……!」
怒りながら言葉にならないうめき声を発すると、体制改善を求めて族長のタミムに詰め寄っていた男たちは、渋々と言った表情を浮かべて引き下がった。
ようやく、自分たちの状況を理解したようだ。
元ラビア族よりも立場を下にする者たちを作って、スムーズにナジュラ族と1つになれるように。害になるような人物でも、使いようによっては有用になる。
不満はあるが、これ以上は話し合いをしても無駄だと悟ったようだ。ここで自分が有用であるとアピールすることもない。おとなしく、皆からの指示に従おうと決めたみたい。大人しく従って働いてくれるのなら、彼らの待遇も悪くはないとは思う。
ここを逃げ出す勇気もないようだ。気が進まない様子だが、それでも元ラビア族の指示に従って作業を続けていた。
こうして、元ラビア族の受け入れは順調に進んでいった。
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