第38話 頼み込む
訓練を始めてから、6年もの月日が経過していた。その間に、かなり納得のできる成長を遂げていた。一緒に鍛えてきたシハブも、あの時からだいぶ成長している。
俺は前世の知識と技術を学び直して、魔力を鍛えて魔法を自由自在に操れるようにした。そして、剣の腕も磨き直した。体もかなり成長しているので、とても10歳の子供には見えないような、ものすごい体格になっていた。
まだ体は成長を続けているようなので、このまま順調に行けば身長が2メートルに届きそうなほど、確実に大きくなっている。
一緒に鍛えてきたシハブは、無限のような体力を持ち、剣での戦い方も習得して、魔法も使えるようになっていた。魔力を感じ取る方法と、コントロールする方法を、彼に教え込んだ。そして見事に彼は、ものにしていた。
ナジュラ族に、魔法使いが2人も増えた。俺とシハブの2人が。
それから、俺と同じく体も十分に成長しているシハブ。彼も将来は、高長身になるだろうと思える体格まで成長していた。というか、もう既に背が高い。15歳になる彼の身長は、195センチメートルを超えていた。まだまだ成長しているようだ。
ナジュラ族が体格に恵まれている部族というわけでなく、シハブと俺の体が特別に大きかった。これは、魔力による身体強化で成長を促進させた結果。魔力には、体を成長させる効果があることを確認することが出来た。俺以外に、シハブも効果があるみたい。この方法は俺以外にも、ちゃんと効果を発揮してくれるらしい。
サンプル数は少ないから、確実ではないけれど。
そんな成長を遂げている俺は、いまだに部族の訓練に参加させてもらえなかった。あの時から変わらず、大人達に訓練の参加を拒否されている。まだ若い、という理由だけで。でも、もう10歳になっているのに。
そして、シハブも。既に15歳になっている彼は、訓練には参加していた。でも、狩りに参加する許可はもらえていなかった。もう十分な実力が、あるはずなのに。
狩りは、部族の皆が生き残るために必要な食料を確保する、とても大事な仕事だ。それで失敗しないように訓練している。実力さえあれば、狩りに参加しても良いはずなのに。
狩りに参加するためには、ちゃんと訓練を受けないとダメらしい。だけど、今まで俺と鍛えてきたシハブは、部族の訓練が物足りないらしい。だから彼は、部族の用意したものとは別の、独自の訓練を今も続けていた。
大人達は、それが気に入らないようだった。だから、ちゃんと部族の訓練を受けてからじゃないと認めてくれない。
いつまで待っていれば、俺は訓練の参加を認めてもらえるのか。どれだけ大人達の言うことに従えば、俺達も部族の狩りに参加させてもらえるようになるのか。
先が遠すぎる。せっかく鍛えて、実力には自信あるのに活かせない。時間の無駄になってしまっている。早く、部族のために貢献させてほしいだけなのに。
狩りについては訓練と同様に、幼くて危ないという理由で参加を拒否されていた。実力があって、自信もついてきた今なら、参加しても大丈夫だという確信が俺達にはあった。
なので大人達に、俺とシハブも狩りに参加させてほしいと、許可を求めた。
「俺達も、狩りに参加させてください」
「ダメだ」
複数の大人達に囲まれて、威圧される中で俺は訴えた。俺とシハブの2人も狩りに参加させてもらえないか、今まで勝手に鍛えてきたから、参加して大丈夫なくらいに腕を磨いたと訴えて、必死に交渉を続けた。しかし、大人達はダメだと一点張り。
「ちゃんと、訓練を受けないとダメ」
体は大きくなったようだけど、まだ年が若いから。狩りに連れて行くのは危険だと言われてしまう。
「お願いします」
「だから、ダメだ」
横に並んで立つシハブも一緒に頭を下げて頼み込んだ。だが、ダメ。話すら聞いてもらえない。とにかくダメだと、拒否するだけ。
実力を見てもらえずに、ダメだと言われるのは悔しい。なぜ、話を聞いてくれないのか。
俺に関して言えば、この世界で狩りをするのは初めて。だけど、前の世界で何度も経験はある。まぁ、その前世の経験については彼らに話せないけど。
とにかく、一度だけでも狩りに連れて行って実力を見てほしい。そう何度もお願いする。
「俺とシハブの2人は、狩りに参加できるぐらいの実力があります。やれる、という事実を見てもらいたい。どうか、お願いします」
「ダメ。訓練を受けるんだ」
もう、何を言っても聞いてくれない。頑なに、ダメだと言ってくるだけ。
見てもらわなければ、その実力も発揮できない。訓練にも参加できないとなると、後は強引に証明するしか。ここに居る大人達を倒して、実力行使に出てやろうかな。それが一番、手っ取り早いかもしれない。
そんな不穏なことを考えていると、1人の大人が新たな意見を出してくれた。
「仕方ない。彼らを、次の狩りに連れて行こう」
「しかし、族長……!」
ダメだと拒否していた大人が、困ったような表情で俺の父親でもある族長に視線を向けていた。連れて行こう、と言ってくれたのは俺の父親だった。
「そのまま放っておけば、コイツらは勝手に狩りに行ってしまうぞ。目の届くうちにやらせてみようじゃないか。それでダメだったなら、厳しく注意してやればいいさ。自分の身を守るぐらいの自信はあるようだから、一回ぐらい様子を見てやろう」
「そう、ですね」
勝手に狩りに行ってみようかな、と思ったこともある。しかし、勝手に2人で狩りに出て問題を起こしたらナジュラ族全体に迷惑がかかるかもしれないかなと思って、考え直したこともあった。
ダメだと言い続けていた大人達が、父親のタミムに説得されて意見を一変させる。
ようやく、狩りに同行する許可をもらえた。一度だけでも、その実力を見たならば認めざるをえない。そんな今の俺たちの実力を見せつけることが出来る機会を得た。かなり強引だけど。そうしないと、長くて無駄の多い訓練を受け続けることになる。それは、嫌だった。
「よし」
「やったな、リヒト」
俺とシハブは、視線を合わせて笑顔を浮かべる。俺達は喜んだ。ようやく、部族の狩りに同行してもいいという許可が出たから。
「ここで、みんなに俺達の実力を見せつけようか」
「あぁ、わかった。やってやろう」
気合を入れて、部族の狩りに参加する。ここで実力を示せば、認めてもらえるはずだから、シハブと一緒に頑張ろう。
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