第37話 族長の助言

「初めての会話としては、まぁまぁかな」

「父さん。見てたの?」


 どこからともなく現れた父親のタミムが、腕を組んで頷きながら言う。どうやら、先程の会話を見ていたらしい。評価は、良くなかったみたい。


「いやいや。お前ぐらいの年で女に興味を持つなんて、たいしたもんだ」


 一応、褒めてくれているのかな。父親から、女性に興味が持ったなんて言われると、なんとなく恥ずかしい気分だけど。


「ダメな部分があるとしたら、考えすぎだな」

「考えすぎ?」

「そうだ。会話している最中に、色々と考えていただろうお前は?」

「うん、そうかも」


 バッチリ見抜かれていたみたい。確かに会話している間、色々と考えていたかも。でもそれは、変なことを言わないように、嫌われないように気をつけて言葉を考えていた。それでも、ダメなのかな。


「ダメだな、それは。もっと相手だけに夢中になって、全ての意識を相手だけに集中させるんだ。そうすれば、自然と言葉が出てくるようになる。それが出来ないなら、女なんて諦めるんだな」

「全ての意識を……」

「例えば、こういう感じで」


 そう言うと、父のタミムは近くに居た女性を呼ぶ。そして、駆け寄ってきた女性と二人で会話を始めた。


「どうだ、調子は?」

「うん、最高だよ。今日も元気」

「ははは、そりゃ良かった」

「うん。だから、今夜も」

「もちろん、分かってるよ。楽しみにしてるぜ」


 笑顔を浮かべながら密着して、耳元でささやき合う二人。なんだか、すごく親密な雰囲気が伝わってくる。とてもイチャイチャしていた。近くに俺が居ることも忘れたのか、完全に二人の世界に入り込んでいる様子。見られていてもお構いなしだ。


「あのー、ちょっと。お二人さん」

「ね。だから、夜まで待てない」

「まてまて。我慢した分だけ、気持ちよく」

「アハッ! それも、そうね」

「そうだぞ、いっぱい我慢して」


 それから、かなり長い時間それを見せられ続けた。もしかして、本当に俺の存在を忘れているのかも。放置されたまま、何を見せられているのか。もう、ここから立ち去って良いだろうか。


 我慢して待っていると、ようやく会話が終わって、二人が離れる。父のタミムが、ようやく俺の方に意識を向けて言った。


「とまぁ、こんな感じだな。これが、目の前の女だけに夢中になるってことだ」

「あ、あぁ。はい」

「今みたいに、お前も好きになった女と自然に触れ合えるようになれば良いな」

「……頑張ります」


 あそこまで周りを気にせずに、二人だけの世界に没頭できる自信はない。そもそも仲の良い二人だからこそ、ああいう風に振る舞えるのだろう。俺に同じことができるとは思えない。


 だけど、あれだけ相手のことだけに集中すれば、緊張しないで女性と接することが出来るのかも。あんな風に自然に振る舞えたら、相手に嫌な思いをさせずに済むかもしれない。俺が目指すべきは、この父親の姿なのか。




「しかし、ナジャーか。お前は、ああいう細い女が好みなのか?」

「うん。美人だと思うよ」


 先程の話題に戻って、彼女の名前が発覚した。ナジャーという名前らしい。彼女に似合った素敵な名前だと思った。次に会って話をする時には、彼女の名前を呼べたらいいな。


 しかし、ああいうのと父は言うけれども、俺から見た印象は美人だった。やはり、ちょっと父親とは好みが違うようだと再確認する。ナジュラ族の中では、俺の好みの方が特殊なのかも。周りとの価値観が違った。これは、転生してきた影響によるものなのかな。


「成獣の儀式に、アイツを充てがうのも良いかもな」


 俺が考え事をしていると、ぶつぶつと何か小声で呟いた父親。聞こえてきた内容、聞き慣れない言葉に疑問を抱く。成獣の儀式、とは何だろう。


「成獣の儀式って、何?」

「ん? まぁ、お前が成長したら、すぐに分かる。その時に教えよう」


 尋ねてみたが、答えは教えてもらえず濁された。なんとなく分かる気がするけど。色々と考えてくれているようだし、あまり深く突っ込まないでおこう。成長したら、教えてくれるみたいだし。


「女に興味を持つことは、とてもいいぞ。だけどお前は、まだまだ未熟者だ。それを自覚して、頑張れよ」

「わかったよ、父さん」


 こうして父からの助言を受けた俺は、女性と接する機会を積極的に増やしていく。女性のことは、まだよく分からないけれど、少しずつ理解していこうと思う。

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