第34話 二人で一緒に訓練を

 シハブという少年と一緒に、強くなるため特訓を始めた。まず最初に、戦うための体力をつけるのに、走り込みを行う。


「はぁ、はぁ、っ……。いつまで、はしる?」

「ほらほら、もう少し頑張って。走れば走るだけ、強くなれるから」

「……っく。はぁ、わかっ、た。はぁ、はぁ」


 息を切らしながら、必死に走り続けるシハブ。そんな彼と一緒に、俺も走り込む。草原をしばらく走った後、休憩した。


「はぁ、はぁ、……つかれた」

「お疲れ様。よく頑張ったね」

「うん……」


 疲れ果てて、その場に座り込むシハブ。そんな彼に水筒を渡すと、ごくごくと飲み始める。かなり汗をかいているため、水分補給しないといけない。


「ぷはっ! ありがとう!」

「どういたしまして」

「よし! 元気になったから、もう走れるぞ」

「うーん。ちょっと休もうか。無理しすぎないようにね」

「わかった」


 やる気のあるシハブ。あれだけ走った後に、まだまだ鍛えようと張り切っている。なかなか凄い子だと思う。


 俺よりも6歳年上の、まだ10歳にもなっていない少年。そんな子が、俺の指示に素直に従って、途中で逃げ出したりしない。根気強く、努力することが出来ていた。


 こういう子は、大きく成長しそうだと感じる。心の底から、本気で強くなりたい、という気持ちが伝わってくる。シハブは、ひたむきに頑張っていた。


 そんな彼に刺激されて、俺も頑張ることが出来た。一緒に特訓して、どんどん強くなっていこうと思えた。


 こうやって、誰かに教えながら一緒に訓練するのは初めてかも。だから、ちょっとだけ不安もある。俺の指導は、正しいのかどうか。間違った鍛え方をしていないか。


 前は、師匠であり兄だった人が居たから。何も疑わず、信じて訓練に励んでいた。でも今は違う。信頼できる人が居ないから、自分が間違っていないかどうかは、常に確認しながらやっていく必要がある。


 俺が騎士団長を務めていた時、団員の訓練を見たこともあった。だけど、その時は訓練内容がある程度は決まっていた。俺以外にも訓練の様子を見て、間違った場合に指摘する人も居た。だけど、今は居ない。


 シハブの訓練を見て、指摘できるのは俺しか居ない。その責任は、大きいだろう。信じてくれるから、その期待を裏切りたくない。せっかく一生懸命やっているんだ。それだけの結果を、出させてあげたいと思う。


 部族の中でトップクラスの戦士に成長させたい。好きな子を守れるだけの力を手に入れてほしい。


 今は走り込みの体力づくりがメインだけど、この後には戦い方の訓練もする予定。シハブには、様々な武器を使って戦えるように鍛える。剣、槍、弓など。それぞれの武器を、俺が教えてあげる予定だった。そこで、間違えないようにしないと。


 シハブは才能もあるようだ。特訓するごとに、どんどん成長していくのが分かる。本当に、彼は日毎にレベルアップしているようだった。


 彼に訓練のやり方を指示しながら、俺も同じ訓練を行う。やっぱり、誰かにモノを教えようとした時に考えが整理できて、効率も上がる。


 教え子となったシハブには負けないように、頑張るモチベーションにもなる。彼の頼みを聞いて、大正解だった。俺にも、大きなメリットがあった。


 転生するたびに訓練のやり直し、最初から体を作り直さないといけないというのは少しだけ面倒ではある。死んで、生まれ変わったら体は別人だから。筋肉や持久力、魔力など鍛え直す必要がある。


 次の人生に引き継がれるのは、記憶や知識のみ。それがあるのと無いのでは、かなり違うんだけど。


 だが、デメリットだけではない。体を作り直すたびに、修正する箇所を見つけて、次のトレーニングに活かすことが出来る。繰り返すたびに鍛え方が洗練させていく。


 それから、新品の体を最初から自分の好きなように、思い通り鍛えることが出来た瞬間に、快感のようなものを感じる。前よりもっと強くなれる。


 今までに何度か、一からやり直して体を鍛え直す、というのを繰り返してきたけどそんなに苦ではなかった。楽しみつつ、やりがいを感じながら出来たと思う。


 生き残るためにも、体を鍛えておくのは必須でもあるので、トレーニングは絶対に欠かさない大事な日課というわけだ。


「さて、そろそろ休憩を終わりにして、続きを始めようか」

「おう! やろう!」


 十分な休憩を挟みながら、再び二人で走り込む。無理しないよう気をつけながら、日が暮れるまでずっと走っていた。


 訓練が終わって帰り際、シハブはへとへとになっていた。でも、とても満足そうな顔をしている。本当に、この子は強くなるだろうな。これからも、しっかりサポートしてあげないと。

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