第32話 今度の世界は

 今まで、3度の転生を果たした。そのうち2回は貴族としての人生を送ってきた。


 しかし今回は、草原で生きる部族に生まれた。転生する先は、どんな法則によって決まっているのだろうか。完全にランダムなのかな。


 疑問なのは、どの世界でも生まれた瞬間からすぐに言葉を理解できるということ。今回もそうだった。便利なので不満はないけど、見知らぬ誰かから授けられた能力に不気味さを感じる。


 何度も繰り返す転生といい、未知の言葉でも理解できる能力といい、どういう意図なのだろうか。いつ、終わりが来るのだろうか。終わりは、あるのだろうか。




 俺が生まれたのは、ナジュラ族と呼ばれている部族。彼らは精霊を信仰していて、生まれた時に俺が父親に抱えられて、空に掲げられたのも儀式の一種らしい。


 実際に彼らは精霊が見えるというわけではないようだが、存在を信じているという。今回はそういう世界らしいので、魔法も使えるだろうと思ったらその通り。体の中に魔力を感じることが出来た。


 今はまだ、ごくわずかな量しか感じない。けれど鍛えていけば、魔力も増えていくと思う。今後、問題なく魔法は使えそうだった。


 ナジュラ族として暮らしていく中で、魔法を使う様子を見かけることはなかった。もしかしたら、前の世界と同じように魔法使いは居ないのかな。


 後で知ったことだが、この世界には魔法使いは存在しているらしい。ナジュラ族に魔法を使える人は居ないけれど、他の地域には普通に存在しているらしい。だから、普段の生活では魔法を使っている様子を見かけることはなかった。




 赤ん坊の今、出来ることを試しておく。


 俺は前世から引き継いだ知識を使って、誰に教えられることもなく、魔力の操作を試してみた。自分の中にある魔力を、しっかり感じ取れた。これは良い。


 指先に集めて、魔力を放出してみる。燃え移ったりしないように気をつけながら、威力は最小限で火の魔法を発動してみた。指先から、小さな火種が飛んだ。ちゃんと発動するのを確認できた。


 前の世界に比べて、魔力の放出に消耗が少ないようだ。魔法を使ってみても、特に問題はなさそう。


 もしかすると、信仰されている精霊の存在や、自然に囲まれた場所だから。そんな理由で魔力の消耗が少ないのかもしれないな。場所と消耗に関係あるのか。色々と、検証が必要そうだった。


 でも今は、まだ体が成長していない。詳しく検証するのは後回しかな。


 これから、どうやって魔力を鍛え直していこうか。前回上手くいった、魔力を全身に行き渡らせて成長を促進する魔力による身体強化も試してみたいな。成長に効果があったのか、ちゃんと確かめておきたい。


 今まで磨いてきた剣の腕前など、錆びつかせたくない。体を動かせるようになってから、訓練を積み重ねないと。とりあえず今は、イメージトレーニングを繰り返しておくか。


 他にも、新しい技術などを習得したい。時間を無駄にせず、強くなっていきたい。今度こそ失敗しないように、色々と備えておきたいよな。




 ナジュラ族の他にも、俺達の居住地の周辺には様々な部族が数多く存在していた。他の部族と、交流したり争ったりしていた。


 ナジュラ族は、中規模ぐらいの勢力である。


 俺達の上には、大勢力であるラビア族、ワフア族、それからバディジャ族という、三大勢力と呼ばれる有名な部族があるという。


 上にいる大勢力同士が睨み合っている間に、下では中勢力同士が縄張り争いをしている。もしくは、さらに小さな弱小勢力を吸収したりして、自分達の勢力をどんどん大きくしようと動いているらしい。


 基本的に、大勢力と中勢力がぶつかり合うことは無いようだ。




 俺たちナジュラ族は、帝国と呼ばれる国の領土内で日々の生活を送っている。


 どうやら、帝国と呼ばれる国があるらしい。俺の知っている帝国とは違うようだ。その帝国は、領土内で生活している部族たちを無視していた。干渉せずに、そのまま放置している状況。この世界の帝国というのは、無駄な争いを避けようとしているのだろうか。


 俺の知っているアルタルニア帝国は、国土拡大に積極的だった。帝国内に敵勢力が存在しているなら、無視しないはず。他国と戦争する時、不安要素になるので事前に排除しておきたいはずだから。


 だから、帝国と呼ばれている国は、俺の知らない別の国の可能性が高いと思った。


 ナジュラ族は、そんな状況に置かれている。今は、他部族や国との争いは起こっていない。とても、平和な時期だった。


 転生してすぐの赤ん坊時代には、相変わらず暇つぶしのように魔力トレーニングを繰り返し行っていた。最初から鍛え直す必要があるけれども、成長を感じられるのが楽しい。何度か同じことを繰り返していると効率的な方法も発見して、前よりも無駄なく鍛えられるのが気持ち良い。トレーニング中毒のような感覚があった。


 前世の最期、大魔法を使ったことによる影響なのか、それとも新たな世界に生まれ変わり、体も変わって能力が変化したからなのか。魔力操作の技量が前に比べてみて格段にアップしたような気がする。


 この世界では魔法を発動するのに魔力の消耗は、そんなに無いようだった。今回は能力を隠さずに魔法を使っていったほうが良いかもしれない、と思った。


 今回の方針。今度こそは長生きをしよう。とにかく、長生きを一番の目標にする。寿命を迎えるまで、生きる。前世と、その前は若いうちに死んでしまったから。


 結局、前の人生で立てていた同じ目標、長生きするという目標が達成できなかったから。今度こそ絶対に、目標を達成してやる。あがいて生き残ってやる。


 それから、前回の反省を活かして女性に慣れておきたいと思った。次の転生があるのかどうか分からないけれど、将来に向けて女性慣れしておきたい。今回の人生で、その2つを目標にして生きていこうと思った。


 よし、決意表明は終わり。今回も生き残るには、力が必要そうだった。前の人生の時よりも、もっとハッキリと力の差で立場が決まりそうだ。より強いものが、部族の上に立つ。そんな世界だった。


 時々、部族の皆が力比べをしている場面を見た。強さを競い合っている。早く俺も成長して、彼らの行っている力比べに参加したい。赤ん坊の体では、流石に戦えないだろうから。体が成長するのを待たなければいけない。長いな。


 どうやら俺の父親、タミムという名前の男性が族長らしいということが判明した。部族を従えて、食料を調達するため狩りに行ったり、他の部族の戦いで先陣を切って出ていったり、皆に指示している場面を目撃した。


 力比べでも、毎回のように勝っている姿を俺は何度も見かけていた。なので、このナジュラ族で一番偉いのは、父親のタミムのようだった。


 俺は、族長の息子ということか。


 そんなタミムは、毎晩のように女性を抱いていた。しかも毎回、別の女性だった。俺や、他の赤ん坊達が寝かせられている横で、男女が営んでいる。


 目を閉じても、ずっと女性の嬌声が聞こえてくる。せめて姿だけでも隠してヤッてくれればいいのに。ずっと、オープンだった。どうやら、何かの意図があって赤子の俺達に見せつけているようだ。そして、ナジュラ族では常識的な行為らしい。


 やはり、世界によって色々と常識は変わるのかな。


 毎晩、そんな状況で寝かせられるのは、しんどかった。1人でも寝られるように、赤ん坊の体から早く成長してくれと強く願った。


 唯一の救いと言うべきなのか、タミムの抱いている女性は、ぽっちゃりとし過ぎた女性ばかりだった。俺の好みではないので、父親に嫉妬せずに済んだ。


 どうやら、この部族内ではスラッとした体型の女性よりも、ぽっちゃりした女性の方がモテるようだった。それは族長のタミムだけではなく、ナジュラ族の多くの男性の好みが、ぽっちゃりし過ぎた女性みたいだ。


 部族の中にいる、美人の女性がひとり寂しそうに過ごしている様子を見た。彼女をなんとかしてあげたい。そういう理由もあって、赤ん坊の体から早く成長してくれよと、強く思っていた。


 だけど、美人な女性を目の前にした時、俺はちゃんと話せるのだろうか。それが、少しだけ不安だった。いや、大丈夫だと思うけど。きっと、大丈夫なはず。

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