4周目(異世界ファンタジー:部族ハーレム)

第31話 3度目の

「よくやった、ウマイマ! 精霊よ! わが子に祝福を!」


 耳元から聞こえてきた大声に驚く俺は、見知らぬ男に抱えられていた。天に向けて差し出される。


 どうやら俺は、再び生まれ変わったようだ。赤ん坊の体になっていた。


 太陽と、快晴の空が見えていた。生まれたばかりだというのに、青空の下にいる。陽の光が体にあたって暖かい。季節は、春だろうか。地平線が見えるほど、遠くまで広がっている新鮮な草原が視界に入ってきた。気持ちの良い景色だ。


 また俺は、見知らぬ場所、見知らぬ家族の息子として転生したようだ。この現象、一体いつまで続くのだろうか。俺は何度、転生を繰り返すというのか。


 そして、今回はどんな世界なのだろうか。俺の知っている世界なのか。周りにいる人たちを観察してみる。


 今までとは、ちょっとばかり状況が違うようだ。見える範囲にいる人間は、貴族の者には見えなかった。襟を立てた服装、腰に布を帯のように巻いている。民族衣装に見えるような格好をしていた。見慣れないような格好。


「ほら、俺とお前の子だ」

「この子が、私が生んだ子。リヒト、よく生まれてきてくれたわ。ありがとう」


 俺を抱えていた男が、憔悴した女性に赤子の俺を渡した。受け取った彼女が、俺の顔に手を伸ばして撫でてくる。顔を覗かれながら、名前を呼ばれる。そして女性は、涙を流しながら喜んでいた。俺が生まれてきたことを祝福してくれる。


 また俺の名前はリヒト、というらしい。転生を繰り返してきて、3度も同じ名前が続いたというのなら、偶然ではありえないだろう。これは、誰かに仕組まれたことに違いない。


 しかし、そんなことをするのは誰か。俺に何を求めているのか。俺を転生させて、何をさせたいのだ。それが、わからない。


 転生させている存在が居るのだとしたら、神様ぐらいしか思いつかない。けれど、その神様とやらに会ったという記憶は無い。じっくりと、時間をかけて思い出そうとしたこともあった。


 思い出そうとしたが、そんな存在と接触したというような記憶は無かった。


 出会った記憶を忘れてしまったのか。出会ったことなど無かったのか。それとも、見当違いなことを考えているのか。いくら悩んでみても、やっぱり答えが出ることは無かった。


 とりあえず今の俺に出来ることは、なるべく早く世界について知ることだろうな。転生した先の環境がどんなものか、確認しておくことが大事。


 今回も、赤ん坊の体では自由に動き回ることは出来ないから、会話している周りの大人たちの話を盗み聞きして、情報収集から始めるのかな。これで、3度目の転生となるので慣れたものである。




 その日の夜、俺は薄い布のような物の上に寝かされていた。敷かれた布は薄いし、背中に地面の感触があって少し痛い。ベッドのような立派な寝具はないようだ。


 しかも寝ている俺の横で今現在、男女が裸で体を重ね合わせていた。


 先ほどまで俺を抱きかかえていた男性と、見知らぬふくよかな女性だ。ウマイマと呼ばれていた、憔悴した女性とは違う人。


 俺を抱きかかえていた男性は父親だと思ったが、違うのか。子供が生まれた日に、別の女性と男女の営みをしているから、父親ではないと思うが。どうなんだろうか。でも、俺の子だと言っていたような記憶もある。


 複雑な関係なのか。それとも、ここの常識なのだろうか。一夫多妻制という可能性があるな。


 今まで学んできた常識と、この世界の常識は大きく違っているのかもしれない。


 もう一つ、気になる点がある。


 男性の方はバランスの取れたボディ、ダンディな魅力のある、カッコいいと言える容姿をしているのに対して、女性はぽっちゃりとした体型をしていた。顔立ちも少し残念な感じで、美人とは呼べないタイプである。彼のような、見た目の良い顔があれば、もっとキレイな女性を抱けそうなのに。


 思い返してみると、俺が生まれた時に周りに居た女性は、ぽっちゃり系が多かったような気がする。


 男性は、興奮して女性を抱いている。この世界では、そういう女性がモテるということなのかもしれない。


 俺の知っている常識と、色々と違っている所があるのかもしれない。これからの、情報収集が大変そうだった。


 考えを深めている最中も、隣では女性の喘ぎ声が聞こえてくる。赤子の目の前で、遠慮のない肉体の交わり。2人は激しく抱き合って、夜の営みを止めようとしない。


 刺激が強いな。見ている前で、止めてほしいよ。俺は赤ん坊だから、見られている感覚は無いんだろうけど。男女の行為をしている近くに、赤ん坊を寝かせるのはどうかと思う。



 近くから聞こえてくる声は極力無視して、考えることに集中する。



 しかし、前世は無駄死にだった。もっと賢明に生きればよかったなと、いまさらになって後悔する。命を懸けて放った最期の大魔法。


 何か生き残る方法があったのかもしれないのに、あの時は自暴自棄になっていた。簡単に命を懸けてしまったのだと、冷静になった今になって思う。


 婚約者が別の男に奪われたからといって、俺がそれほどの精神的ダメージを受ける必要はなかったはず。さっさと婚約を解消して、別の相手を探すべきだったな。


 そんなことで頭を悩ませているうちに、敵国にしてやられた。最期は、自分の命と引換えに魔法を放ち、仲間を生き延びさせようとするなんて。


 あの時、もう少し冷静になっていたなら、生き延びれたかもしれないというのに。もっと考えるべきだった。本当に、無駄死にだった。心の底からそう思う。


 あの後、帝国騎士団のみんなは無事に逃げられたのかな。副団長で兄のベアートも生き延びたのか。それが心配だった。


 それから、家族の皆にも迷惑をかけてしまった。戦争に行くときには、いつも俺のことを心配してくれていた母親のクリスティーナ。彼女に、大変な精神的ショックを与えてしまっただろう。


 兄弟の中では末っ子だった俺が、まさか、一番最初に戦場で死んでしまうなんて。本当に申し訳ないと思う。


 後悔ばかりの前世だった。だから今度こそは、本当に長生きできるように。寿命を迎えるまで、注意して生きていこうと思った。途中で、絶対に諦めないこと。


 そのためには、強くならないといけない。

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