第25話 大会の結果

 多くの観客が見守る中で、初めての試合が行われる。対戦相手と剣の腕を競い合うために、これから勝負が始まる。


「では、はじめ!」


 審判役を務める騎士が合図をすると、相手が剣を抜いた。俺も剣を鞘から抜いて、正眼に構える。トレーニング用の大剣ではなく、大会用に支給された刃を潰した片手半剣だ。


 いつもとは違った武器での戦い方は、なかなか難しいと思った。間合いの取り方も違うし、そもそも剣の重さが違うので勝手が違う。だけど、負ける気がしなかった。


 相手は俺よりも二回りほど大きな体格で、見た目は力も強そうだ。けれども、全く脅威を感じない。向かい合っても、威圧感がない。実力があるように見えないから。


 向こうも同じように感じているのか、俺を見てニヤついている。コイツには勝てるという自信があるのだろう。そういう目をしていた。油断しているな。もしかして、本当に実力があるのか。俺には見えない何か、力を隠し持っているのかもしれない。


 どんな相手でも油断するなと、師匠のアルヴィーンから言われている。だから俺は、相手のことを注意深く観察した。


 やっぱり何も、なさそうだけど。相手の実力を見抜くのも、なかなか難しいなぁ。経験を積んだら、分かるようになるのかな。そんなことを考えながら、俺は目の前の相手を見据えて、じりじりと間合いを詰めていく。


「うぉぉぉぉっ!」

「……」


 相手の出方を窺っていると、痺れを切らしたのか、いきなり斬りかかってきた。勢いに乗って、突進してくる。


 その動きは、とても良く見えた。勢いだけ、だから。上段から振り下ろされた剣を避けると、そのまま相手の懐に入って、横腹に剣を叩きつけた。上手く入った。


「ぐぁっ」


 俺が放った一撃を受けて、相手はうめき声を上げる。そして、腹を押さえながら、地面にうずくまった。あまりにあっさりと、一撃が入ったことに驚いたのか、周りで見ていたギャラリーたちがざわめく。俺も驚いた。


「勝負あり! 勝者、リヒト・アインラッシュ!」


 審判役の声で、俺の勝利が告げられた。会場から歓声が上がる。すぐに剣を収めると、お腹に手を当てながら立ち上がった相手に向かって一礼する。そして、試合場を後にした。


 最初に当たった相手が弱かったのかな。他の大会参加者は、もっと強いはずだよ。気を引き締めていかないと。そう思って、次の試合に臨んだ。




 しかし、その後も試合は順調に勝ち進み、ついに決勝戦を迎えた。


「ハァ!」

「……」


 そして決勝戦でも、緊張感を持てずに戦っていた。慢心して負けてしまう、というような可能性すらゼロだと言い切れるくらいの、実力差があったから。


「フッ」

「ぅ――ぐぁっ!!」


 相手の攻撃に合わせて、カウンターを決める。すると、対戦相手は驚くほど簡単に地面に倒れて、握っていた剣を手放していた。


「勝負あり! 勝者、武器を下ろして」

「はい」


 審判に言われて、剣を収める。相手に向かって一礼した。


「「「うおぉぉぉおぉぉッッッ!!!」」」

「……」


 会場の観客が盛り上がっている。周りの反応とは逆に、俺の心は冷静だった。今の戦いに、納得していないから。まさか、これで終わりなのか。呆気ないものだ。


 まだ、実力の半分も発揮できていない。身体強化の魔法により、力を引き出す前に対戦相手を倒してしまった。だから、物足りない。もっと戦えると思ったのに。これでは、不完全燃焼だ。


「くっ、こんな子供に負けたというのか……!?」


 目の前で立ち上がろうとしたけれど出来ずに膝をついた、対戦相手であった男性は表情を歪めながらつぶやく。まさか負けるなんて思わなかったと、とても悔しそうにしていた。




 新人部門のトーナメントで、優勝という結果を残すことが出来た。優勝まで運良く勝ち進んできたからだとは、とても言えない。俺と周りとの実力の差が、予想以上にありすぎた。傲慢なように聞こえるかもしれないが、事実だった。


 自分の実力を把握することは出来た。今回の結果で、俺は強かったんだと自覚することが出来た。ただ強いだけでなく、予想していた以上に実力は高い、ということが判明した大会だった。


 大会の参加者は、全国各地から集ってきた腕に自信のある戦士。俺が対戦した相手は、大会に初めて参加する新人。けれど、それなりに実力はあったはず。そんな大会で、こんなにもあっさり優勝できてしまうのだから。


 それ以上に、師匠であるアルヴィーンの実力の高さを再確認できた。新人部門とはいえ大会で完勝するほどの実力ある俺でも、なかなか勝つことが出来ない彼。


 そんな実力者が居ることを知っているので、俺は慢心なんて出来ない。彼と比べたら、俺の剣の実力なんて大したことないのだと思うから。だからこそ、強くなるための努力を怠ってはならない。




 勝利を讃えてくれる観客達に向かって、俺は笑顔を浮かべて手を振りながら控室に戻っていく。大会は無事に優勝を果たした。優勝したという高揚感はなかった。




 ちなみに、長男を除いた他の兄弟も大会に参加して、次のような成績を残した。


 次男のベアートが優勝、三男のエルンストが2位。アインラッシュ家の兄弟2人が決勝で戦い、観客を大いに盛り上げた。そして、その腕の高さを見せつけていた。


 四男のディモは12位、五男のハンモは19位という結果だった。


 残念ながら2人はまだ、上位入賞するための実力を身につけていなかった。だが、彼らの年齢が10代ということを考えたら、非常に優秀な成績ではある。同年代との戦いであれば、圧倒的に勝利していた。


 今回の大会に参加したアインラッシュ家の全員が20位以内には入賞できたという結果は、父親のテオドシウスを喜ばせた。


「よくやった、お前達! アインラッシュ家の未来は、安泰だな!」


 俺も来年からは、新人トーナメントとは別の部門に参加できるようになる。それが楽しみだった。




 大会が無事に終わって、しばらく経って父親に呼び出された。アルタルニア帝国に関係ある、重要な話らしい。一体、何事だろうか。

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