第26話 帝国騎士団

「僕が帝国騎士団に入団、ですか?」

「そうだ。この前の大会で優勝した実力が評価され、騎士団への入団が認められた」


 屋敷の執務室にて。父親のテオドシウスから呼び出されて、伝えられた大事な話というのは、俺が帝国騎士団への入団が認められて団員になることが決定したという、報告だった。優秀な人材であることが認められて、スカウトされたらしい。


 帝国騎士団というのは、アルタルニア帝国に戦争が起こった場合働くことになる、国の戦力。帝国の有事の際に備えて、腕に覚えのある騎士達が所属している組織だ。だが。


「僕は、まだ11歳の子供ですが。大丈夫なんでしょうか?」

「うむ。まだお前は若いから、見習い扱いという立場になるな。騎士見習いとして、帝国騎士団に所属することになる。戦争にはしばらく出されないから、安心しろ」


 父親テオドシウスの話によれば、俺は帝国騎士団の見習いとして、所属することになるという。


 見習いとしての仕事はそんなに多くないらしくて、他の団員の訓練を手伝ったり、出軍の手伝いをするだけ。戦場には出ないという。そして、大人になる前に騎士団の働きを見て覚えるように、と言われた。


 いずれは帝国騎士団の一員として、戦場に出ることになるからと告げられる。


 もちろん、この話を断るなんて選択肢はない。既に、入団することは決定しているらしいので。アインラッシュ家の評判を上げるためにも、活躍してみせようと思う。


「了解しました」

「しっかり励めよ」


 話が終わって、父親テオドシウスに応援されながら執務室から出る。そうか、俺は帝国騎士団に所属することになるのか。じわじわと、少し遅れて実感が湧いてきた。




 数日後に、剣と馬を授与される儀式が行われた。俺は、帝国騎士団の見習いとして所属することになり、働き始めた。


 俺の他にも、次男のベアートが副団長として、三男のエルンスト、四男のディモ、五男のハンモといった、他の兄弟達も騎士団に所属していた。


 彼らは先輩、というわけだ。そして今は、帝国の貴族として貢献している。


 長男のアルヴィーンも、かつて帝国騎士団に所属していた。騎士団長を勤めていた時期もあるらしく、やはり凄い人だったらしい。アインラッシュ家を引き継ぐため、今は帝国騎士団を脱退していた。


 そして今回、俺も帝国騎士団に所属となった。


 まだ11歳の子供だったが、年齢など関係なく騎士団員として容赦なく訓練相手をさせられた。どうやら、シゴキという奴らしい。でも今まで、師匠のアルヴィーンに特訓されて鍛えてきた体力があったので、彼らとの訓練は辛くなかった。


 むしろ絡んできた奴らが逆に、ヘロヘロになっていた。俺より年上なのに情けない、と思ったものだ。


 騎士団員はもっと体力をつけるべきだと感じて、彼らの体力をつけるための特訓を積極的に行った。新人なんかに負けないと対抗心を燃やして、騎士団員は走り込んで体力をつけることに成功。皆で生き残るために、お互いを高め合う関係になれた。


 今までは、兄弟ぐらいしか訓練をする相手が居なかった。


 今回、帝国騎士団に所属するようになってからは訓練相手が増えた。そんな彼らと一緒に実力を磨き合うのは、とても良い経験になった。


 ほぼ毎日のように騎士団の訓練場に行って手合わせをしたり、体力をつけるために走り込んだり、武器を扱う練習をした。


 騎士団に所属してからは剣だけでなく、槍や斧についての扱い方を学んでみたり、弓の練習も始めた。遠く離れた敵にも対応できるように。


 色々な武器の練習を積み重ねていく。そして、各種ある武器の熟練度を上げていった。ゆっくりコツコツと。


 それから、馬の乗り方についても学んだ。安定しない馬上での戦い方を習得した。馬に乗っているときは、バランスを保つことが重要だと教えてもらった。その方法で落馬しないように気をつけつつ、自分の得意な攻撃方法も見つけ出した。馬の上でも戦える方法を。日々、成長していく。まだまだ学ぶべきことが沢山あった。


 騎士団の仲間達とは積極的に交流を持ち、実力を高めあって、国のために働いた。




 それから、あっという間に1年が経った。12歳になった俺は見習いとして仕事をしていたが、他の騎士団員達は俺を見習いから、ちゃんとした立場に上げるようにと訴えてくれた。


 まだ幼いが、騎士団員の中でも飛び抜けた実力がある俺を、見習いとして腐らせておくのは勿体ない。早く戦場に出すべきだ、という意見が多数出されたという。俺と一緒に訓練していた人達が、上に言ってくれたらしい。


 俺はまだ、雑用をこなしながら訓練を積み重ねて、実力を磨いていきたいと思っているんだけど。周りの人達が評価してくれるのは、嬉しい。


 


 上層部で色々な話し合いがなされて、結果的に俺は見習いを卒業して、騎士として働くことになった。まだ12歳だけど、異例の昇進だった。本来であれば、15歳になってから、正式な騎士団になるという予定だったらしい。剣術大会の時に続いて、帝国騎士団でも歴代最年少の騎士が誕生する事態に。


 アルタルニア帝国は、国土拡大のためにしょっちゅう他国に戦争を仕掛けている。戦いで国土を広げていく帝国について、今はその是非について論じるつもりはない。俺は、このアルタルニア帝国に住む人間として、帝国騎士団として働くだけ。


 ということで、戦場に出られるようになってから俺は戦った。


 戦争だから、他国の人間と剣を交えて戦って、殺すことになる。新兵なら、初陣で心が折れることも多いらしい。多数の人間が、戦場で初めての殺人を経験するから。


 だが俺は、前世でやむを得なかったとはいえ、実の兄を殺したというような経験があった。いまさら敵である他国の兵士を殺したところで、乱れてしまうような精神は持ち合わせていない。


 俺は初陣から、どんどん活躍していく。


 初陣で、しかもまだ若いというのに。あまりにも冷静に淡々と、戦果を上げていく俺に対して一部の仲間は、恐怖すら感じたという。


 しかし、それ以上に俺は戦場で敵を倒して減らして、仲間を助けることに繋がっていく。その実力が、絶賛された。


 一緒に戦場に立つと恐怖を感じるけれども、非常に頼りになる騎士だと言われた。流石は、アインラッシュ家の人間だと認められる。周りからは、人間離れした強さの持ち主だと評された。


 俺も、アインラッシュ家の長男であるアルヴィーンに対して、人間離れした強さだと感じることが多かった。それと同じように、周りから見ると俺もそう見えるということなのだろうと思った。光栄なことだ。


 帝国騎士団に所属してから俺は、順調に手柄を立てて、騎士としての評価を上げていった。もちろん兄弟達の活躍もあって、とにかくアインラッシュ家は安泰だった。

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