第24話 剣術大会に挑戦する

 長男であり剣の師匠であるアルヴィーンに話してもらい、父親のテオドシウスから許可を得て、アルタルニア帝国が主催する剣術大会に出場することが決定した。


 その大会は、参加者が一対一の模擬戦によって戦闘能力を競い合う。勝ち抜き戦でランキングを決定する、トーナメント方式だった。


 アルタルニア帝国では一番の武闘派貴族として知られている、アインラッシュ家。その家の息子である俺が、剣術大会で無様な成績を晒すことは許されなかった。そのプレッシャーというのが、なかなか重く圧し掛かってくる。


 俺は今回、アルタルニア帝国の剣術大会に初参加ということで同じように初参加の新人だけが集められた、新人部門のトーナメントに参加する。


 帝国の大会に初めて参加する者達は、必ず最初に新人部門のトーナメントに組み込まれるのが決まりだった。初参加である者達だけで実力を競い合うのだ。


 大会が開催される少し前に11歳になった俺が、今大会の最年少参加者だという。次に参加者の中で若いのが、15歳だそうだ。そして新人部門だけど、最年長となる参加者が25歳の剣士だった。一回りも年齢が違う。かなり大きな年の差があった。


 ちなみに、11歳というのは過去の大会も全て含めて、最年少の参加者だという。その話から分かる通り、アインラッシュ家の兄達が大会に参加したときに比べると、家の中では俺が一番年齢が低い時に初めて参加することになった。


 本当は、もっと訓練を積んでから、実力を磨いて大会に参加するようだ。だから、11歳というのは早すぎる年齢らしい。


 兄のアルヴィーンでも、剣術大会には14歳の時に初めて参加したという。その時に、優勝もしたらしいけれど。その優勝が、大会での最年少優勝記録らしい。今回、俺がその素晴らしい記録を塗り替える事ができる機会を与えられた。


 やはり、11歳で大会に初参加というのは異例の若さだった。もう参加することを決めてしまったので、覚悟を決めて挑戦しないといけない。大会最年少だとしても、他の参加者達に負けるつもりはない。


 若くても大会に出場してもいいという許可を出してくれた、父親とアルヴィーン。かなり期待されている、ということなのだろうか。


 前回の人生を含めて考えてみても、こういう大会に出るのは初めての経験だった。


 今までのことを思い返してみると、磨いてきた実力を発揮できる場面というのは、意外と少なかったかも。


 今まで必死に剣の腕前を磨いてきたつもりだけど実は、井の中の蛙だったのかもしれないという疑惑もある。今回の大会では、自分の力を試す良い機会だ。しっかり、全力を出し切ろうと思った。やるだけ、やってみる。


「リヒト!」

「どうだ、調子は?」

「アル兄様、父上!」


 出番が来るまで指定された控室で静かに座り、目を閉じて、戦いに向けて集中して待機していた。そんな時に名前を呼ばれて、振り返ってみるとアルヴィーンが立っているのが見えた。その横に、父親も居る。様子を見に来てくれたらしい。


 アルヴィーンは三年連続で大会に優勝したので、殿堂入りとなっていた。だから、今日の大会には観客として見に来ている。父親も、アルタルニア帝国の重鎮として、大会の観覧に訪れていた。


「どうだ調子は? いけそうか?」

「実は、緊張しています」


 正直にそう告げると、父親のテオドシウスは豪快に笑う。そして、俺の頭を乱暴に撫でてきた。


「そうか、そうか! まぁ上位を目指すことも大事だが、それよりも大きな怪我だけはするなよ。クリスが悲しむからな」

「はい!」


 意外と父親は、順位よりも怪我が無いことが一番だと言ってくれる。それは、俺を心配していると言うよりも、妻のクリスティーナを悲しませないように、という父の忠告だった。もちろん、無理して怪我はしないようにと。父の言葉を忘れないよう、心に刻み込んでおく。


「あまり気負わず、いつも通りの実力を出せれば大丈夫さ」

「はい!」


 励まされて、俺は元気良く返事をした。兄は、初めての大会に焦りすぎないように気をつけて、とアドバイスしてくれる。大丈夫だと言ってくれるのが、心強かった。そう言われてしまうと、なんとか上位を目指したくなってしまうな。


 2人に応援されて、俺は初戦に挑戦する。初めて感じる、緊張感の中で。


 ちなみに他の兄弟達も、別のトーナメント戦に参加している。アインラッシュ家がアルタルニア帝国で一番の武闘派貴族であることを、大会の観客達に示すため。その一員として、俺も頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る