第22話 強くなるために
訓練を始めて1ヶ月ほど経過したが、全て走り込みのトレーニング。体力づくりを徹底的にやる。訓練の成果は明らかで、余裕も出てきた。どんどん成長しているのを実感していた。
「ここまで」
「ふぅ」
アルヴィーンの合図で走り込みが終わった時に、呼吸の乱れが小さくなっていた。少し休憩すれば呼吸の乱れは元通りに落ち着き、疲労で地面に倒れ込むこともない。ちゃんと成長している。
「そろそろ、剣の振り方を教えようか」
「はい!」
「握り方は分かるか?」
「やってみます!」
いつの間にかアルヴィーンが両手に、大剣を2本握っていた。そのうちの1本を、俺は渡される。受け取ると、かなり重量のある剣だった。
見学していた時に、ちらっと見たことがある。それを真似して、俺も握ってみた。
「それでいい」
「はい!」
良かった。これで合っていたみたいだ。しかし、重いな。
両手じゃないと、持ち上げることも出来ない。振り下ろすのも難しそう。ちょっとちょっと振っただけでも、剣の重さで体が持っていかれそう。これだと、戦うことは無理そう。魔力による身体能力の強化をしても、その大剣は非常に重かったから。
だけど、念願の剣だ。これから、大剣を使って訓練するらしい。前回の、杖を受け取った瞬間の喜びを思い出した。あの時は、本当に嬉しかった。そして今回も、剣を持った時に興奮した。新たな技を習得できる!
「さぁ、構えて」
「はい!」
子供の体には大きすぎる大剣を持たされて、それを振る練習が始まる。大剣を持つだけでキツイ。構えるとなると、剣の重さで両腕から肩がプルプルと震えた。
アルヴィーンの指示に従い、踏ん張って構える。これは、強くなるためには必要なこと。ここで、なんとか頑張らないと。
大剣の柄を両手で握って、正面に構えた。これで、どうだ。
「こうやって、こう」
「はい」
ビュンビュンと、甲高い音が聞こえる。そして、風が俺の顔に当たった。目の前に立つアルヴィーンが、その両手で持つ大きな剣を振り下ろしていた。信じられない。この重さを、あんなスピードで。
大剣って、そんな風に振り回すことが出来るのか。あれほどのスピードとパワーで斬ったら、敵は鎧ごと真っ二つになりそう。盾で守っても、防げない気がする。
「リヒトも、やってみるんだ」
「ふっ! はっ!」
「なかなか、良いぞ。振ることは出来るな」
そんな彼の動きを真似して、俺も大剣を振る。やはり重い。今は、あんな風に振り回すことは不可能。フラフラと、重さに耐えきれずに体が揺れてしまう。声も漏れてしまい、周りから見たら頼りないだろうな。
彼と比べて、剣を振るうスピードも段違いに遅い。
「肩の力を抜いて、腕だけに頼りすぎないよう全身で振れ。剣の重さを感じながら、どう振るのが良いのか常に考えるんだ」
「ッ! はいッ!」
「足の動きは、こう」
「はい!」
「握りが甘くなっているぞ」
「ハイッ!」
アルヴィーンから、一つ一つの動作について丁寧に指摘されていき、剣の振り方を覚えていく。ちょっとでもズレたり、余計な動作をしてしまうと即座に直すように、彼から指摘を受ける。剣の重量に振り回されて、体がブレてしまうのも許されない。
いつも優しい表情をしているアルヴィーンだったが、訓練の最中は想像した以上にスパルタのようだった。見学して前から知っていたつもりだけど、当事者になったらより強く感じる。特に、剣の訓練が始まってから厳しくなった。これは、剣の訓練は気を抜いたら危ないからだろう。集中しないと。
しかし、一つひとつの動作が細かい。ここまで細かく指導されると、大変だった。そんな俺の疑問を察したのか、師匠アルヴィーンが教えてくれた。
「実戦では必要ないが、訓練のときには基礎をちゃんと体に叩き込まないといけないからな。間違った振り方では成長しないぞ。一回一回の動作が大事な訓練なんだと、心に刻み込め。正確な動きを体に覚え込ませるため、全てを意識してやりなさい」
「わかりました!」
俺の兄であり、剣の達人でもあるアルヴィーンに指導してしもらって、剣術の訓練は続く。
「剣の握り方は、こうだ。緩んで落とされないように、しっかり握り込むんだぞ」
「はい!」
「体がブレているぞ。一回一回、注意して剣を振るように。少しでもズレたと思ったなら、自分で直すように気をつけるんだ」
「はい!」
「足の動きから、体勢の形を考えるんだ。どう動くのが最適なのか、試してみろ」
「はいッ!」
かなり細かく、体の動きや大剣の持ち方などを指導された。一回一回の動作を大事にしろと、何度もしつこく注意される。俺は返事をして、その通りに修正していく。
俺の振るう剣のスピードが、どんどん早くなっていく。余計な動きが減っていき、綺麗な軌道を描いていく。自分でも分かるぐらい、スムーズになっていた。この剣の動きを体に叩き込めば良いんだ。ちゃんと覚えないといけない。
短時間で成長している実感があった。指導者が優秀だから。兄は凄い。剣の訓練を受けて、その凄さを改めて感じていた。
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