第9話 妹のマリアと
兄のダグマルも、俺と同じく魔法教師であるフリオの授業を受けているらしい。
教師のフリオや使用人から聞いた話によると、あまり魔法を使うのは得意ではないようだった。兄は、父親のニクラスと同じく土の素質があるようだけど、素質を持つ土の魔法を使いこなすことが出来ないらしい。魔法を発動させるのに手こずっているそうだ。
教師のフリオは、俺を比較対象に出して魔法を上手く扱えない兄を責めるらしい。それで奮起させて、早く使いこなせるようにさせたいみたい。
兄弟なのに、弟のほうが優秀だと兄を非難する。人の名前を勝手に使うのは本当に止めてほしい。というか、そんな方法をとって大丈夫なのか。父の耳にでも入ったら解雇されるんじゃないのかな。
俺が知っているぐらいだから、父も認識していると思うけど。父が教師のフリオを解雇しないということは、干渉しないで見守っているということなのか。父にどんな考えがあるのか、わからないな。
それに教師フリオは授業の最中に、土の魔法を下に見るような発言を繰り返して、火の魔法の素晴らしさを語っているらしい。俺も何度か、聞かされたことがあった。土の魔法よりも火の魔法が、いかに優れているかという説明を延々と。
雇い主でもあるだろう俺達兄弟の父親ニクラスが、土の魔法に素質ある人だというのにフリオという教師は、どういう神経をしているのだろうか。間接的に、父を貶しているような言動。それって、マズいんじゃないのだろうか。
フリオは魔法使いとして、それなりの実力と功績があるらしい。だが、教師として誰かに教える能力は無いみたいだと、改めて実感した。それとも、これが普通?
やはり、フリオを解雇するべきだと父に意見を言うべきか。でも、まだ子供の俺が口を出していい問題なのか。藪蛇になりそうだけど。そう考えて、今も言えないまま様子を見ていた。言うべきか、黙っておくべきか。
大きな問題が、もう一つあった。先程の件もあって、相変わらず俺と兄との関係は変わらず微妙なままだった。
次期当主としての責任もあるだろうし、年齢が5歳離れているという理由もあり、昔から少し距離があると感じていた。俺はまだ10歳の子供だけれど、向こうはもう15歳になって、大人扱いをされつつある年齢だったから。そうするともう、俺から話しかけるもの難しい。
もしかすると、俺に前世の記憶があるせいで子供らしくなかった。兄には遠慮してきたことが今の状況の根本的な原因なのかもしれない。もっと遠慮なく、早くに兄と接しておけばよかったと、今更ながら後悔する。
しかし年々、どんどん兄と距離を置かれていると感じる状況。避けられているのを感じていた。それを、申し訳なく思っている。家族として仲良くしたいと思っていたけれど、今から関係の修復は難しそうだ。
何か、キッカケがあればいいのにな。そう思って、今も待ち続けてしまっている。それがダメなのか。
そんな兄と俺の微妙な関係とは逆に、妹と俺は良好な兄妹関係を築けていた。
「にいさま!」
「おっと、どうした? マリア」
自室で魔力を鍛えるための瞑想トレーニングを行っていると、急に可愛い声と共に地面に座っていた俺の体に衝撃があった。妹のマリアが抱きついてきようだ。
「なにしてるの?」
「魔法の練習だよ」
屋敷内で俺の姿を見つけると、今のように無邪気にじゃれついてくる妹のマリア。彼女は最近、俺の行動にも興味津々だった。
「わたしも、やりたい!」
「そうか。じゃあ、俺の真似をしてみて」
「うん。わかった!」
俺の言うことを聞いて、同じように地面に可愛らしく座った。見様見真似で、息を吸って吐いてを繰り返している。とても落ち着いた娘。まだ8歳の子供だというのに俺だけでなく両親の言うことも、ちゃんと聞く賢い妹だった。
8歳になった彼女は、まだ魔法の授業を一度も受けたことがなかった。
男子と違って女子は、先に貴族の子女としてふさわしい令嬢になるための教育を受けるらしい。ある程度それが終わった後に、魔法の授業が開始される。
だから今は、読み書きや社交の心得、貴族令嬢としての立ち居振る舞いに関してを一通り教わっている最中だと聞いている。でも自由な時間も多いようで、今のように俺と遊んだりする余裕はあるらしいので、安心していた。
教師のフリオは、妹マリアの魔法授業も受け持つ気が満々のようだ。しかし、妹にあんな授業を受けさせるのは、かわいそうだった。だからフリオの魔法授業を受ける前に、俺がマリアにも魔法について教えて、彼女は授業を受ける必要はないと父親に示そうという計画を考えていた。
まだ魔法を試行錯誤して学んでいる俺が、人に教えても大丈夫なのかという心配もあるが、あの教師よりはマシだろうと判断したから。
そして一緒に、教師フリオの言動や行いについて注意を促す。どうにか、彼を解雇する方向に持っていきたいところだ。
教師フリオの他に、魔法を教えてくれる優秀な先生がいれば良かったのに。居ないのであれば、俺がなんとかするしかない。
というわけで、しばらく前から妹のマリアに俺は、魔法を扱えるようにするための訓練をこっそり行っていた。
妹のマリア本人は、俺の真似をして魔法を使えるようにと、日々のトレーニングを楽しそうに受けている。
「どう? にいさま!」
妹のマリアは、教えてすぐに魔法を使えるようになった。俺が貸した杖を持って、その先に火がついている様子を嬉しそうに見せてくれる。魔法が発動していた。
「うん、上手だね」
「やったぁ!」
魔法の発動を無事に成功させたことを俺が褒める。するとマリアは、満面の笑みを浮かべながら、素直に喜んでいた。
それから、俺が実践している瞑想トレーニングや、無詠唱で魔法を使う方法もすぐ習得していった。
妹のマリアには、魔法を扱うための才能があるようだった。俺の教えを素直に吸収して、どんどん魔法の扱いが上手くなってく。ものすごいスピードで成長していく妹は、魔法使いの天才だった。
これは、妹に魔法で負けないように俺も必死で頑張ってトレーニングをしなければ追いつかれてしまうぞ。彼女の先生として負けないようにと、俺も日々精進する。
彼女と一緒に切磋琢磨して、魔法使いとしての能力を高めていった。
お互いに能力を磨いているうちに、魔法を発動するのに杖は必要なくなり、魔力の消費を節約する新たな方法を編み出してみたり、より少ない魔力だけで非常に強力な魔法を発動させるコツを掴んだりした。
俺は、妹のマリアに魔法の使い方を教えながら彼女の先生として自分も魔法使いとしての能力では負けないように、日々のトレーニングを積み重ねる。
どんどん、成長していく日々を過ごしていった。
魔法のトレーニングは上手に出来ているし、妹は可愛いし、毎日を楽しく過ごせていた。第二の人生は順調だと思っていたのに、その不幸は唐突に訪れた。
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