第7話 この世界の魔法使いの常識
教師のフリオが行う授業に不満を持った俺は、独学でも魔法の勉強を始めることにした。
その前に、念のため確認しておきたいことがあった。教師フリオ以外で身近にいる魔法使いに、魔力についての質問をしてみる。情報収集だ。
「魔力とは何か? うーん。考えたことなかったわね。魔力は、魔力としか」
一番身近にいる魔法使いであろう、母親に聞いてみた。俺の質問に、母親は考え込んでしまった。そして、返ってきたのは曖昧な答え。それなら、どうやって母は魔法を使っているのか。さらに質問してみる。
「母さんは、どうやって魔法の使い方を習ったの?」
「私もずいぶん昔に、先生に魔法の使い方を教えてもらったんだけど。呪文を習って魔法を使おうとイメージして、パッと使う感じって習ったかな」
「なるほど」
母親のマティルデは、俺と同じ火の魔法の特性があると聞いていた。そんな彼女は魔法を、かなり感覚的に使っていることが判明した。もしかして、他の皆もそうなのかな。
「うーん、そのときに魔力は魔法を使うのに必要な力だって教えてもらったけれど。それが何なのか、そういえば分からないわよね。疑問に思ったこともなかった」
「そっか。ありがとう」
今度は、父親の方に聞いてみる。実際に、魔法で害獣を倒した場面も見ていたので実力があるのを知っている。父なら、俺の求める答えを知っているかもしれない。
「魔力? うーん、魔力……。魔法を使い時に使用する、精神力みたいなモノかな。すまない、詳しくは知らないな」
「そっかぁ」
残念ながら、父親のニクラスも悩んだ末に、答えは分からなかった。魔力は何か、魔法を使うために必要な力、本に書いてあるような基本的な事しか分からない。
だけど、皆は普通に魔法を使うことが出来る。
俺の考えすぎなのかもしれないな。もっと感覚的に、魔法を使えるようにしておくだけでいいのかも。魔力が何なのか、詳しく知っておく必要はないのか。
そう考えると、教師のフリオが言っていたことも一理あるのかもしれない。呪文の発音だけ繰り返し何度も練習させられるのは、勘弁してほしいけれど。
でも、気になるよな。もっと、魔法を上手に使う方法がありそうだけど。
「そういえば、リヒトは文字が読めるようになっただろう?」
「うん。読めるよ」
今度は父親からの質問。ちゃんと、読み書きが出来るようになった。魔法の勉強をするために覚えた。一瞬で分かるようになったので、苦労はなかったけれど。すると父親は嬉しそうな顔で、こう提案してきた。
「魔法について、もっと勉強する気があるなら、屋敷の特別な書庫にある本も読んでみるか? そこに保管されている本を読めば、もしかしたら魔力のことについて何か分かるかもしれないぞ」
「うん!」
今までも俺は、屋敷にある書庫に出入りしていた。だけど、その奥に特別な書庫があった。その特別な書庫については、出入りを禁止されていた。とても貴重な本が、保管されているらしい。
先祖代々受け継がれてきた本や資料など、とにかく大事なものがたくさん保管してあるとか。俺はまだ、そこに入ったことは一度もない。気になっていた。
「今日からリヒトにも、あの書庫への出入りを許可しよう。全て大切なものだから、汚さないように気をつけるんだぞ」
「わかった! ありがとう」
特別な書庫に保管されている本を読めば、何か分かるかもしれない。父親ニクラスの忠告を受けつつ、俺は早速、屋敷の中にある書庫に向かってみた。
「おぉ!」
書庫の奥に入ってみると、そこには一つだけ本棚があった。かなり埃っぽいな。代々受け継いできたと父は言っていたが、蔵書されている本の数は案外少なかった。見た感じの数は、百冊ぐらいしかない。
父親から忠告された通り、気をつけて扱わないといけないな。
歴史書、医学書、宗教本、それから魔法書を見つけた。本棚に保管された、他の本にも興味が出てきた。だけど、いま優先するべきは魔法書かな。
注意して本棚から取り出して、読んでみる。パラパラとページを捲って、最後まで目を通してから、そっと閉じて本棚に戻した。
「うーん」
俺は唸る。手に取った本には、参考になりそうな情報は載ってなかった。
書かれていたのは作者の自慢話。どれぐらい魔法の達人なのかというエピソードが記されているだけだった。書かれている内容も誇張されたような不自然さがあって、真偽も怪しい。
これは、ほとんど参考にはならなそうだな。他の本も確認してみたが、似たような事しか書かれていない。予想外に魔法書が参考にならない。これは、困った。
もしかしたら、見落としがあるかもしれない。一度、腰を据えて読んでみないと。だけど、今まで読んできた本と同じぐらいの基本的な情報しか書かれていないかも。
結局、魔法について知りたいのなら、自分で研究して調べていく必要がありそう。これは困った。
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