第3話 貴族の生き方

 さらに月日が流れて、俺の体はすくすくと育っていく。その間、貴族である父親の仕事について、本人から色々と教わっていた。


 貴族というのは、領民たちから税を搾り取って贅沢三昧という生活を送っている。そんな悪辣なイメージがあったけれど、そんな事もないようで安心した。


 父親のニクラスは朝早くから夕方まで忙しく、しっかり仕事をしているようだし、時には治めている領地に出張して視察を行ったり、魔法を駆使して害獣を駆除したりしている。


 父親の貴族としての仕事ぶりは領民達から高く評価されていて、領主として慕われているようだ。屋敷で仕事をしている使用人達も、父親を慕っているようだったし。とても理想的な領主、という感じだった。




 ある時、そんな父親の仕事ぶりを間近で見せてもらう機会があった。


 赤ん坊から俺の体も成長して、ちゃんと話せるようになったし、自分の足で歩けるようにもなっていた。父親のニクラスに近くの森に連れてこられた。父親以外にも、何十人もの大人を引き連れて森の中を歩いていく。


「どうだ? 疲れていないか?」

「うん。大丈夫」

「そうか。この足場が悪い森の中を、よく歩けているな」


 心配する父親に対して、俺は自信満々に返事をした。まだまだ余裕があったので。この体になってから、初めて遠くへ出かけるということもあってワクワクしていた。


 そんな俺の様子を見て父は微笑みながら、優しく頭を撫でて褒めてくれる。


 そして、どんどん森の奥へと進んでいく。普通の子供だったら大変だろうけれど、精神的には数十年ほど生きてきた俺だから頑張れる。弱音は吐けない。


 でも、本当に無理だったら言うつもりだ。子供に生まれ変わったせいで自分の体の限界を把握しきれていないのか、大人だった頃の記憶が残っているせいなのか、無理をし過ぎてしまう時がある。無理し過ぎて倒れないように気をつけないと。


 そんな事を考えていると、誰かが叫んだ。


「いたぞ!」


 一緒について来ていた大人の1人が叫んだ声。どうやら、何かを発見したらしい。とある方を指さしている。周りの雰囲気がピリッと、張り詰めた空気に一変する。


「ニクラス様、魔物です!」

「任せろ」


 森の奥から、大人よりも大きなサイズのイノシシのような獣が現れる。これから、あれを駆除するらしい。それが、彼らの目的のようだった。そして父は、この様子を俺に見せたかったのか。


「リヒト、魔法はこう使うんだぞ」


 今まで見たことなかった真剣な表情の父親が火の魔法を放って、イノシシのように見える害獣を容赦なく焼き殺す光景を見せつけられた。


「う……!?」


 火だるまになった害獣は、悲鳴を上げながら絶命していく。一瞬の出来事だった。その高威力に俺は思わず唸り、言葉を失う。


 そこそこショッキングな光景。生きたまま火に焼かれていく生物のニオイを感じて、少しだけ気分が悪くなった。だけど、目を離さず見入っていた。これほど強力な魔法を父は使えるのかと驚きながら。


 これが……、魔法か……。


 しばらく俺は呆然としながら、父親の放った魔法の凄まじさに圧倒されていた。


 今まで俺が見てきた、生活で使う魔法とは明らかに違う。これは攻撃魔法なのか。父親に視線を向けると、表情は真剣そのもの。冷酷さも滲ませている。


 この世界では、こういった戦いが日常的に行われているのだと実感した。これが、魔法を使った害獣駆除。どんどん興味が湧いてきた。


 再び、森の中の散策を再開する。彼らと一緒に歩きながら、俺は父に質問した。


「父上は、他にどんな魔法が使えるの?」

「私の得意な魔法は、土の魔法だな。こんな事ができるぞ」


 父は土の魔法が得意だと言って、魔法を使って地面の下から土を盛り上げて人形を作った。その人形には触れず、魔法で自由自在に動かして見せてくれた。俺は喜び、父親は自慢げだった。本当にすごい。魔法を覚えたら、色々と楽しめそうだな。


「僕も、魔法を使えるようになりたいな。僕にも、使えるかな?」

「勉強を頑張れば、ちゃんと魔法は使えるようになるぞ」

「本当に!? 僕、父さんのように魔法を使えるように勉強したい!」


 子供の見た目を存分に利用して、無邪気にお願いしてみる。冷静になると、自分の仕草や言動に恥ずかしさを感じる。だから、なるべく気にしないように。振り返らない。


 今は、魔法の使い方を学ぶため、大人である父親に甘えておく。子供として。


「そうか。それなら、リヒトが8歳になったら魔法を勉強するために、魔法の先生をつけてあげよう」

「ありがとう!」


 いきなり赤ん坊に生まれ変わった俺は、この世界でどうやって生きようか悩んだ。とりあえず、これから魔法を覚えてみようと思った。前世にはなかった魔法を。


 父のように、魔法を使えるようになりたいと思ったのが、最初に決まった目標。


「魔法を学んだら、ロールシトルト家の当主となるダグマルを支えてやってくれ」

「うん」

「立身出世を目指して、家から出て他の貴族に仕えたり、騎士になるという生き方もあるぞ。とにかく将来のことについて、しっかり考えておくように」

「わかりました!」


 ロールシトルト家の次期当主は、兄のダグマルで確定していた。次男である俺は、ある程度は自由に生きていいという許可も出ていたので、将来について考えておく必要があった。


 さて、どうしようかな。

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