第2話 とある異世界の貴族一家

 赤ん坊になってから、幼い子供に成長するぐらいの時間が経過していた。それまで判明したことが多くあるので、改めて順番に整理してみる。


 まず俺が生まれたのは、ロウナティア王国のロールシトルトという領地だ。そこを治めている領主の二人目の子供として産声を上げた。つまりは俺は、貴族家の次男に生まれ変わったらしい。


 重要なのは、この世界が俺の生きてきた現代の世界とは全く違う、ということだ。


 この世界には、ごく普通に魔法が存在していた。魔法なんて空想の産物だと思っていた。だが、俺は目の前で実際に魔法を使っている人を目撃したので、この世界では当たり前に実在しているということが分かった。


 俺は今、魔法のある世界で生きている。ということは俺もいつかは、魔法が使えるようになるかもしれない。そう思って、ワクワクした。


 火の魔法を使って館の明かりを灯したり、水の魔法で洗濯や料理に使ったり、土の魔法を使って地面を耕して農業や土木に利用する等など、この世界では生活に魔法の存在が根付いているようだった。そういう魔法を、俺も習得したい。


 俺には上に1人、5歳ほど年の離れたダグマルという名の兄がいた。青白い肌の、少しだけ貧弱な印象を受ける線の細い青年だ。まだまだ若いので、これから成長していくのだろうけれど、少し心配になるような人。


 たまに屋敷内で姿を見かけるけれど、ほとんど顔を合わせたことがない。今まで、数えるぐらいしか彼の声を聞いたことがなかった。もちろん、2人だけで会話をしたこともないぐらいの関係。兄弟なのに。


 その理由は、兄はロールシトルト家の次期当主として厳しい教育を受けているからだろう。どうやら、かなり忙しい日々を送っているようだ。


 だから彼と俺は兄弟なのに、今まであまり交流がない。せっかく兄弟になったので仲良くしたい、とは思っているけど機会に恵まれない 。貴族だから、という理由もあるのかもしれない。彼は次期当主で、俺は次男坊。立場が大きく違った。


 父親の名は、ニクラスという。中肉中背で、見た目も普通のおじさんという感じ。そんな彼の奥さんがマティルデ。若い、金髪美女だった。あんなに美しい女性と結婚できるだなんて。自分の父親だが、ニクラスを男として羨ましいと思った。


 しかも、俺が生まれてからしばらくして、彼らの間にマリアという名前の妹が誕生していた。俺が2歳の頃だ。この娘が、とても可愛い。


 赤ん坊の頃から、将来が楽しみになるような愛らしさがあった。母のマティルデが美人なので、娘のマリアもきっと可愛くなるに違いない、と確信させるほどの容姿をしていた。


 夫婦仲も悪くないようだし、家族関係も特に悪いということもない。兄のダグマルだけは、少し距離があるような感じだった。まだ子供だし、勉強が大変なので時間が合わないだけ。会う機会が少ないから、まだ距離感が掴めていないだけかな。徐々に慣れていって、今よりも良い関係を築けるはずだと思っている。


 逆に、俺と妹との関係は良好だった。彼女と一緒に育てられているうちに、仲良くなれた。面倒が見れるようになってからは、彼女のことをお世話するようになったら懐かれたのだ。


「にぃに」

「どうした、マリア?」

「あぅ!」

「そうかそうか、抱っこして欲しいのか? よし、高い高ーい」

「きゃー! あははっ!」


 まだ子供の俺の体では、彼女を抱え上げることは出来なかった。おそらく周りには幼い子が2人、抱きついているようにしか見えていないだろう。そんな光景を両親が微笑ましい、という表情で見ていた。


 いつもにぃにと呼んでくれたり、俺の後ろをついて歩くようになったり。そんな妹が、可愛くて仕方がなかった。


 彼女が笑ってくれると俺も嬉しい。この子のためなら、何でもしてあげたくなる。妹が可愛すぎる……。噛みしめるように、そう思った。


 というように、貴族とはいえ普通の家庭。この家族の中では、前世の記憶を持って生まれてきた俺が一番、異質なのかもしれない。

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