転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、人生の旅人~
キョウキョウ
2周目(異世界ファンタジー:魔法)
第1話 目が覚めると
真っ白な光が目の前に広がっていた。
ずーっと先まで終わりが見えないぐらい何もない空間だ。現実ではありえない、というような光景。
あぁ、これは夢だな。
頭に思い浮かんだのは、そんな感想だった。明晰夢と呼ばれている現象だろうか。初めて体験した出来事に俺のテンションが上がる。目が覚めた後も覚えておきたいと強く意識しながら、じっくり観察を続ける。周りを見ても、白しか見えないが。
だけど、よく見てみると変化があるかも。
目の前にある光が明滅している。眩しいくらい強く光ったり、消えたりを繰り返していた。何か意味があるような光の点滅、繰り返し。
その時、何か聞こえたような気がした。
「え? なんだって?」
誰かに話しかけられたような声。思わず聞き返す。そして、耳を澄ませた。だけど何も聞こえない。さっきのは、聞き間違いじゃないと思うけれど。
目の前の白い光が再び明るくなって、消える。なんだか、俺の目の前にある光には意識があるような気配があった。何かを伝えようとしているのに気が付いて、それを理解しようと目を凝らした瞬間。
***
(ぅ、……あれ?)
もう朝なのか、起きなければ。目が覚めたら仕事に行かなければならない、という憂鬱な気持ちでベッドの上で起き上がろうとするが、体が思うように動かなかった。布団から出たくない気持ちが強いから、という理由だけではない。
(えっと、……なんだこれ)
何事だろうかと困惑する。体の様子を見ようにも顔が動かせなかった。体が重くて手足ですら自由がきかない。痛みはないが手足の感覚がぼんやりとしている。目も、よく見えなかった。薄ぼんやりと、自分の部屋が見えているようなきがするけれど。
「ぁう」
口から、変な音が漏れた。ちゃんと声が出せない。話せない。もしかすると俺は、病気かもしれない。目が覚めると体が動かなくなるだなんて、大病に間違いない。
頭はハッキリしているのに、体が動かない。不安が、どんどん大きくなっていく。
体がこんな状態なんだから、電話して救急車を呼んでも大丈夫だろう。でも、誰が電話を掛けるというのか。
体が動かない俺には無理そうだ。一人暮らしだから助けを求める相手が居ないぞ。隣に住む人に、声を上げて助けを呼ぶしかないか。隣の部屋に居ないと、誰も助けは来てくれないかもしれない。声も届かないかもしれない。絶望だった。
だけど、やるしかない。助けを求めて、俺は必死で声を出そうとする。
「ぅぁっ……!」
口を開けて、息を吐く。助けを求める声すら出せなかった。これじゃあ、気付いてもらえないだろう。体が冷えていくような感覚、背中に冷や汗が流れる気分だった。もしかすると俺は、ここで死ぬのだろうか。
仕事ばかりの毎日を過ごし生きるのに必死だった。それなのに病気なんかで死んでしまうとは。なんて虚しい最後だろうか。そんなの、嫌だ。
「どうしたの? 私の可愛い、リヒト」
「っ!?」
死の恐怖で震えている最中に聞こえてきた、優しさを感じるような声。次の瞬間、俺の体が抱え上げられた。
は、え。どういうことだ。抱えられた。女性に。まだ視界はハッキリしていないが、声の感じから女性だと思う。
「ほらほら、どうした?」
混乱していると、優しさを感じるような女性の声が頭上から聞こえてきた。部屋の中に、自分以外の誰かが居たことに驚いた。昨夜、部屋に誰かを招いたという記憶はない。今まで人の気配を感じなかったし、他に誰か居るなんて思っていなかった。
というか、俺の体は抱えられているけれど。
予想外なことに遭遇して、俺はびっくりしていた。
成人男性である俺の体を目の前の女性が軽々と抱え上げていた。その事実に、俺は混乱している。意味がわからなかった。状況が理解できない。
いいや、違う。俺の体が縮んでいるんだ。まるで赤ん坊のように体が小さくなっていたから、女性の力でも俺の体を持ち上げることが出来たようだ。でも、なんで!?
一旦、冷静になって状況を確認してみる。でも、これはどんな状況なんだ。
「元気がないわね? どうしたのかしら」
俺の頭が見知らぬ女性の肘の内側に密着する。抱っこされていた。
(は? 赤ん坊? 転生? 生まれ変わりなのか?)
何故かスッと転生という言葉が頭の中に思い浮かんできた。ありえないことだが、自分は転生したんだと、すぐに自覚できた。
目覚める前の記憶はしっかり残っている。いつものように勤め先に通って、営業の仕事をして、死ぬほど疲れるまで働いてから狭いワンルームの部屋に帰ってくると、途中で寄ったコンビニで買ったメシを食い、シャワーを浴びて寝た。
というような苦い記憶がある。だけど気が付いたら、次の瞬間には赤ん坊だった。目が覚めたら見知らぬ場所、体も赤ん坊になっているし。一体どういうことなんだ。
このような展開に似た状況を俺は知っている。本やゲーム、アニメの物語なんかで読んだことがあった。でもまさか、自分の身に起こるとは予想外だ。
しかし、今の状況が知っている物語と同じようだし、転生で間違いないだろうなと思ってしまった。
目の前の女性は、どうも日本人には見えない。ぼんやりした視界の中でも見える、金髪で白い肌。俺をリヒトと呼んであやしてくる。
女性に体を抱え上げられたことにより、視線が高くなって周りがよく見えるようになっていた。自分の部屋ではなかったし、現代日本のようなしっかりとした部屋にも見えなかった。機械のようなものは、その部屋の中には一切見当たらない。
徐々に慣れてきた視界の中で、わずかに見える石造りの部屋。テレビ番組の映像で見たことのあるような景色だ。女性が着ている服装も見慣れない、どこか民族衣装のような格好。
日本ではないようだし、外国だとしても部屋の内装が変だ。転生した俺はやっぱりファンタジーな世界に生まれたということだろうか。転生したということも、物語にあるような出来事だったから。俺は、そんな結論に達した。
もう一度しっかりと、俺を抱きかかえている女性を観察してみる。
色々と豊満な体、肌は白く透き通っていて、腰まで伸びた金髪の若い女性だった。年頃は二十歳ぐらいだとは思うが、異国の人だから年齢の予想が難しい。
そんな彼女は、ニッコリと笑って俺に話しかけてくる。
「今日はとっても、いい天気ね。だけどリヒトにはまだ、外は危ないからね」
彼女が窓際に移動して外の景色を見せてくれた。どこまでも広がる森、遠くに山が見える。自然豊かな土地のようだった。
「ぅ……」
とても美しい景色だった。いつまでも眺めていたくなるような。そんな外の景色を注意深く観察していると、急に強烈な眠気に襲われた。まぶたがどんどん重くなってきて、目を開けていられない。
「あら、眠くなったね。おやすみリヒト」
「あぅ……」
そういえば、聞こえてくる声は日本語ではないようだった。だけど、なぜか言葉の意味が理解できた。彼女に詳しく事情を聞きたい。話をしようと口を動かすけれど、成長していない赤ん坊の口では、思うように喋れなかった。
ベッドの上に寝かされて抗いきれない眠気に襲われる。それ以上は耐えきれずに、俺は目を閉じてしまった。
「さぁ、ゆっくりと眠って」
「ぅ……」
優しい手付きで、腰をトントンされて寝かしつけられる。駄目だ、寝る前に、話を聞き、たい、のに……。
結局、俺は眠ってしまうのだった。
どれくらい眠っていたのか。目を覚ました時、さっきの女性は見当たらなかった。部屋は暗かった。夜のようだけど。もちろん、体は小さいまま。赤ん坊のままだな。夢じゃなかったのか。夢だとしたら、現実感がありすぎたから。転生したという方が納得できた。転生したなんて事が、非現実的なのに。
それから再び、眠って起きての繰り返し。もちろん体は動かせず、ベッドの上から見える範囲で情報を集めるしかなかった。それでも、この世界が普通じゃないことは分かった。
異世界でファンタジーな世界、ということは明らかだった。なぜなら、この世界の人たちが当たり前のように魔法を使って、普通に生活をしてる様子を目撃したから。
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