龍舌蘭

星都ハナス

第1話 ハガキ

 月明かりの下、私はもう一度サトちゃんからのハガキをバックから取り出す。ハガキに書かれている住所と、表札を確認しチャイムを探す。


 手がかすかに震えている。サトちゃんと会うのは四十年ぶりだからだ。落ち着くために、バックの中にもう一度手を入れた。

 

 どうしてハガキなんだろう。しかも、平仮名ばかりで、『おそろいのきんちゃくもってきて』としか書いてない。せめて近況報告があってもいいのに……サトちゃんらしいと思った。


 お揃いの赤い巾着をバックから取り出した。宝箱にしまっていたとはいえ、掌サイズの赤い巾着は色褪せ、青いヒモは水色になっている。


 サトちゃんの巾着のヒモはオレンジ色だったから、きっと黄色になっているだろう。


 深呼吸してチャイムを押す。インターホンじゃなくて良かった。今年五十一歳になる声は低くて誰か分からないだろうから。


 同い年のサトちゃんも、きっと声は聞かれたくないだろう。私よりも低くて太いはすだ。


 四十年ぶりの再会は、お互いシミが出来て、シワがあって、誰かも分からなくなっているだろう。


 そんな事を考えたら、少し笑えて緊張がほぐれた。玄関の扉に目をやる余裕も出来た。


 玄関の戸が開く瞬間、立ちくらみと目眩におそわれる。


 貧血だろうか、私はサトちゃんの家の前で気を失っていく。回転しながら闇にのまれる感じだった。

 

 


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