第21話ゲームの始まり
どんどんタクシーはロンドン市内の郊外へ向かっていく。ピカデリーサーカスのあたりを走行しているときは、なんとなく現在位置がわかったけれど、地元ではないので、ここがどこだか分からない。
たぶん、方角的にはヒースローの方かな?という程度だ。
人や車が少なくなり、街灯も減った寂れた建物の前でタクシーは停車した。ビルがタクシーに代金を支払う。
私は抵抗して、タクシー運転手に助けてもらおうと思ったが、どうやら、タクシー運転手は何か勘違いしているようで、「仲良くやんな」とバカップルを相手にしているような、やれやれ、と言った雰囲気で、取り合ってもらえなかった。
え?ちょ、これのどこがバカップルに見えるのよ!
「たまには、スリルがあるから外でやろうっていってんのに、こいつ恥ずかしがってるんだ」
「あんまりそんなこと言ってると、彼氏に嫌われるぜ、お嬢さん」
ビルのとんでもない言い訳に、タクシー運転手は納得して、私たちを置いて車が去って行った。
「貴方とは、何の関係も無いでしょ!」
「黙れ、クズ女!お前のせいで、エリーが命の危機だ」
「意味がわかんない!貴方の新しい女には会ったことないわよ」
私が走って逃げだそうとするのを、ビルが押さえ込む。体格差があるから、どうしてもビルを押しのけることが出来ずに、そのままずるずると、寂れた建物に引きずり込まれる。
どうやら、放棄されてしばらく経っているみたいで、窓ガラスの割れた破片が床に散らばり、壁のタイルがはがれ落ちている。
すでに、陽は落ち、当たりは真っ暗なところをビルがスマホの明かりだけを頼りに奥へと進む。
ここで、このまま殺されちゃったり……?
最悪な想像を頭がよぎる。だって、ビルの言動は普通じゃない。会ってもいないビルの新しい彼女を私がどうこうできるわけはない。
最初は、こんなに支離滅裂な人じゃなかったんだけどなー!
やがて、明かりのついている部屋までたどり着いた。
誰か、いる……。
部屋で待っていたのは、普通の男性だ。これといった変な特徴は無い。栗色の髪に、縁の無いめがね、鷲鼻に、色白の肌。典型的な白色人種で、おそらく生まれたのもイギリス、育ったのもイギリス、という人だろう。縁の無いめがねが、「この人、頭良さそう」と思わせる。
「ようこそ、待っていたよ。これで、参加者が揃った」
男性は、両手を広げて私を歓迎した。
たいした歓迎だが、ちっとも嬉しくないぞ!
「連れてきたんだから、俺とエリーを解放しろ!」
「解放?するわけ無いでしょう。貴方達もゲームの参加者です」
「約束が違う!」
「約束?してません……私は、貴方がここ数年で特別な関係になったパートナーを連れてきて欲しい、といっただけです」
ビルは逆上して殴りかかろうとするが、男に避けられた挙げ句、足を引っかけられて床に倒れ込んだ。
「貴方も興味のあるゲームですよ」
男は床に倒れているビルに、楽しそうに笑いかけた。
「ここに、100万ポンドあります」
男はアタッシュケースをテーブルに置いた。
「そして、ゲームの勝者に差し上げます」
ビルが目の色を変えて立ち上がった。
「はやくゲームの詳細を話せ」
ビルと謎の男が話に夢中になっている隙に、私はこっそり逃げだそうとしたのだが、男に見つかった。
「貴方が逃げるなら、もう一人の女性を殺します」
女性のうめき声が聞こえ、ビルが目の色を変えて、私を押さえ込む。
逃げ損ねた!
「エリーを解放しろ」
「こちらにいらっしゃいますよ」
丁寧な話し方で、男は足下を指した。金髪で青い瞳の色白の女性がロープで縛られて、床に転がされていた。着ている白いリボンタイのブラウスと、タイトな紺色のスカートはうっすらと汚れている。
この女がエリーか……。
別れ話が出たときに、エリーに会っていたら憎んだと思うけれど、今はそこまでムカつかない。
エリーは、猿ぐつわを口にはめられていて、うなり声しか上げられない。
ビルは、私を突き放すとエリーにかけより、ロープと猿ぐつわを外した。
「さて、ゲームを始めましょう」
男は楽しそうに、ゲーム開始を宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます