第8話おしゃべり猫ミトン
マリアは、小型犬用の布製ゲージを抱え込んで、スマホでどこかに電話をし始めた。
「捕まえたわ。引き取りに来て、大至急!……え?しばらく行けない?何言って……」
マリアはふてくされた表情でスマホをしまった。どうやら途中で電話を切られたらしい。
「引き取り相手が、国外にでてるらしいの。このまましばらく預かることになりそうだわ」
マリアはすっごく渋そうな表情をしている。ゲージの中のトカゲもどきは、さきほどまで抵抗していたが、今は諦めたのか、丸くなって寝ている。ふて寝かも知れない。
「私はアパートに戻って、この子を置いた後レストランに戻るけれど、ナオはどうするの?」
「ついていく」
私は、見えないモノが見えても堂々としているマリアにすっかり興味を持っていた。
何か、楽しいことが起こりそうな、そんな予感と供に。
○●○●
結局、私はその日のうちにアパートを借りる契約をして、マリアとルームシェアをすることにした。次の日、ホテルから私の部屋となったコヴェント・ガーデンのアパートへ引っ越した。
ニールズ・ヤードストリートとモンマスストリートに面したこの家は、可愛らしい印象の家だ。内装もクラシカルで落ち着いた雰囲気が良い。間取りは1階が店舗と大家のスミスさん部屋。2階が共有スペースのダイニングとキッチンとマリアの部屋。3階がマリアが使っている物置と私の部屋。各個人の部屋にバスルームがある。
近所にはヘルシーなお総菜のお店や、ナチュラル志向のレストランや、コスメショップなどが並ぶ。本当に、良い物件だ。
私は、共有スペースのダイニングルームにやってきた。マリアはポストに新聞を取りに行っている。私の目当ては、黒猫ミトン。毛並みがつやつやしてて、さわり心地がよさそう。それに、美猫なんだよね。今は、ご主人のマリアを気にしてか、ダイニングの窓から外を眺めている。
撫でさせてくれないかなぁ。
私はミトンの気を引こうと、持ってきた猫じゃらしのしっぽだけをミトンに見せる。残りの部分はカーテンに隠す。
ミトンは猫じゃらしに気がついて、じっと猫じゃらしを見つめて、次に私を上から下まで見た。
なんだか、人間ぽい反応をする猫だな……。
「なんだ小娘。俺のハーレムに入りたいのか?」
どうしよう。ミトンから超イケメンの声がするんだけど……。
私は思わず手から猫じゃらしを手放し、床に落とした。
「今のところ空いているのは、第四夫人の座だ。第一夫人は、マリア、第二夫人は、サリー、第三夫人は、隣に住んでるローティーン、アリスだ」
近所のご婦人方、お年寄りから10代前半までミトンの魅力に屈服してるみたい。
違う……そうじゃない!
階段を上る足音が聞こえ、二階の扉が開いた。マリアが、帰ってきたのだ。今日もマリアは、クラシカルなワンピースドレスを着ている。
「ナオ、引っ越し終わった?よければお茶でも……」
新聞紙を抱えているマリアの背後に回りこんで、ミトンに相対する。
「ミトンがしゃべったー!」
そう!ミトンがしゃべってるの!!
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